雷
雷鳴がした。暗闇の中、凛は目を開けた。引いていくような、ごろごろとした唸り声が遠くから聞こえる。
カーテンは閉めていたが、窓を叩く雨足の音は眠る前より激しくなっていた。
凛はふとんを頭から被った。瞬間、耳をつんざくような音が響いた。窓が、びりびりと揺れた。
外が見えないから、音がいつ鳴るかわからない。かと言って、カーテンを開ける勇気もない。
凛はおそるおそる起き上がった。
「ーーっ」
がたがたと窓が揺れる。風と雨も止まることなく吹き荒れる。
そっと部屋を出た。廊下は暗かった。いつもならついているはずの、常夜灯も消えていた。
凛はそっと、向かいの理玖の部屋の扉を開ける。理玖は寝ているようだった。遠くで、空が鳴っている。いつ落ちるのかわからない不安に、凛は怯えた。
理玖の部屋はカーテンが引かれておらず、窓の外が見えた。叩きつける雨がとめどもなく、窓硝子を流れ落ちていく。
また、遠くで音が鳴った。
凛は慌ててベッドに駆け寄り、ふとんに潜る。理玖の手には携帯が握られたままだった。いじっている途中で寝てしまったらしい。理玖は寝つきが良く、なかなか起きない。
こんな激しい雨音でも、静かに寝息を立てている。
「りく、」
静かに呼んで、凛は胸元に擦り寄った。理玖は何か言ったが、目は開けなかった。ただ、腕だけが凛の背中を宥めるように撫でた。
凛もしがみつくように、頭を擦り寄せる。
「りん…?」
ぼんやりした声が頭から降る。
「どしたの」
「理玖、雷鳴ってて…一緒に寝ていい?」
「雷……? 全然気づかなかった。ごめんなー、一緒に寝ような」
理玖はそう言って、両腕で凛を囲うように抱き寄せ、頬を寄せる。眠いらしく目は開けなかったが、理玖の顔がすぐに近くにあって凛は満足だった。
雷鳴が響くたび、凛はしがみついた。そのたびに、反射みたいに理玖の手が凛の頭を撫でる。そうしているうちに、凛は眠ってしまった。雷の音はもう聞こえなかった。
怖い夢も見なかった。理玖の体温と鼓動の音だけが、凛の耳に届いていた。
「凛、起きな。朝だよ」
耳元で理玖の声がして、凛は目を開けた。嵐のような天気はおさまっていて、陽の光が窓から部屋に差し込んでいた。
「おはよ」
すぐ間近で、理玖が覗き込んでいた。凛の身体はまだ腕の中に包まれている。体温が心地良かった。眠るのが遅かったせいで、眠い、と思った。
「ねむいー」
そう言って、凛は理玖の胸元にもう一度擦り寄った。
「起きる気ないだろ」
「りっくん、下まで連れてってー」
「どこの姫なんだよ、おまえ」
理玖はそう言って、ひとつ溜息を吐く。
「ほら、凛。ちゃんと掴まって」
それでも結局、凛を抱き上げた。




