優越感
理玖の部屋で、凛は映画を観ていた。
理玖の足の間に挟まるようにして、後ろにもたれかかる。片腕で凛の頭を撫でながら、もう片手で理玖は時々携帯を弄る。
さっきから、定期的にメッセージが届いてはそれに理玖は返信していた。
最初は気にならなかった凛も、なかなか終わらないそれに、意識が画面から後ろに向かう。
横を向くと理玖の携帯画面が見えて、メッセージの内容も読める。理玖は隠す気はないようで丸見えだった。
相手はクラスの女子らしい。
クラスイベントの内容を理玖に相談しているらしく、的確に理玖が返しても、向こうからはだらだらとした返信が続く。
理玖と個人的に繋がりたいのは、凛から見れば明らかで相手の狡さにムカついた。
「りく、」
「んー?」
「映画、観ないの?」
「…観てるよ」
嘘つき。凛は前を向いて画面を見ながら、唇を尖らせた。
理玖が一緒に観ようって言ったのに。家の中の理玖はおれものなのに。その感情ばかりが頭を占めて、ちっとも映画に集中が出来なかった。
「りん、ほっぺが膨らんでる」
急に指で突かれた。
「りーん」
理玖は携帯を床に置いて、後ろから凛を抱きしめる。首筋に顔を埋め、「凛、機嫌直して」と柔らかい声で言った。
凛はそれだけで、刺々しい気持ちが消えていくのが分かった。理玖の感情が自分に向くと、途端に気分が晴れるのだ。
「もっと、ぎゅーってして」
「そしたら機嫌直る?」
「…うん、」
「可愛いなぁ、凛は。なんでそんな可愛いのかな」
髪に理玖の唇が触れる。
「りく。一緒にいる時は、おれのことだけ考えて」
「分かった」
「てことが、昨日あった」
「え、可愛い。凛くん可愛すぎる」
「にしても何その女。C組の子だよね、うざ」
理玖の机の周りに数人のクラスメイトが集まっていた。
女子の一人が、凛の話を振ったことが話題の始まりだった。
「相変わらずブラコンで怖えわ。将来無事か、それ」
「無事だわ、おれが凛幸せにする」
理玖が目を細めて舌を出した。
「そーだよ、仲良し兄弟ってことでしょ」
クラス委員の浅井が一条を振り返る。
「仲良しの限度越えてんだよなー」
理玖は少し考えた顔をしたが、「そうかな」言っただけだった。
「まあ雨宮はさ、普通に遊ぶし友達多いからいいかもしんねーけど。弟くんの世界はお兄ちゃん一色過ぎ」
「えー。あたしは世界作ってくれるお兄ちゃんめっちゃいいけどな」
「わかるー」
口々に理解が飛ぶ中、一条は「へーへーそうですか」と呆れ顔を見せる。理玖の意に沿わない発言をするのは、いつも一条くらいだからだ。
予鈴が鳴り、集まっていたクラスメイトも自席に戻り始める。
一条はちらりと隣の席を見る。理玖はいつでも涼しい顔をして、自分が正しいみたいな目をしている。
しばらく見ていたからか、目が合った。理玖はわずかに首を傾けて、薄く笑った。




