理玖と凛と一条
面倒なのが来た、と凛は思った。
晴れた午後の日。今日は創立記念日で中等部、高等部ともに休日だった。
「おい、目ぇ合ったろ。無視すんな凛ちゃん」
「おまえこそ人の家で人の弟にアヤつけんな」
理玖の部屋の前に立っていた凛は、理玖の友人である一条を見て嫌な顔をした。
家に来るのは珍しい。理玖は男友達をあまり家に入れない。一条はちょうど、階段を上がって来たところだった。
「ほんと甘やかしすぎな」
「うちは可愛がって育てる主義なんだよ」
一条の後ろからやって来た理玖が、凛と一条の間に立った。凛はこの一条という人間が、あまり好きではなかった。言ってることは正しいかもしれないが、高圧的な態度が苦手だったからだ。
一条が近づいて来る。そして、わざと少しだけ屈んで、目線を合わせた。
「こんにちは。凛ちゃん」
「…こんにちは」
「言えるじゃん、凛ちゃん可愛いなー」
「おまえが凛を可愛がるな、汚れる」
理玖は背中で凛を隠す。凛はなんと言ったらいいのかわからなくて、黙って理玖の服の裾を掴んだ。
「可愛いも言っちゃ駄目なのかよ」
「凛を可愛がっていいのはおれだけなんだよ」
「独占欲やばいだろ。まーいいや。ゲームやろ、ゲーム」
「あー部屋こっち。はよ入れ」
一条を部屋に入れてから、理玖は凛に、「うるさかったら言えな」と言って頭のてっぺんにキスした。
凛は部屋に篭ってヘッドフォンで音楽を聴きながら、課題をやっていた。理玖のように要領が良くない凛は、時間がどうしてもかかってしまう。集中力も途切れがちだ。その度に経過報告を兼ねて哲也とメッセージのやり取りをする。そのせいで気がつくと、夕方になって外が薄暗くなっていた。
「りーんー」
疲れた、と椅子の背もたれに身体を預けていると、部屋の扉がノックされた。
「なに?」
扉を少し開け、凛は顔を覗かせた。廊下には理玖だけが立っていた。
「ピザとったから凛も食べよ。凛の好きなシーフードも入れたから」
「え! 食べる」
下のダイニングに降りると、ピザの良い匂いがした。テーブルの上には何個か箱があり、たいぶ頼んだらしいとわかった。一条はもう座っていて、携帯を見ていた。凛が来たのを見て、顔を上げた。
「おー凛ちゃん、俺の奢りだから遠慮せず食え」
「え、」
「嘘つくんじゃねぇよ、うちの親の出費だろが」
後ろから追いついた理玖が、凛の頭に手を置いた。
「凛、何飲む」
「レモンスカッシュ。理玖が作ったやつ」
「なにそれ、俺もそれがいい」
「おまえには聞いてねーわ。コーラ飲んどけよ」
蜂蜜漬けのレモンと冷えた炭酸水をグラスに入れると、凛の前に置いた。それから隣に座る。
一条はその様子を眺めていたが、不思議そうに聞いた。
「いつも隣に座るのか?」
「え? そーだけど」
理玖は「それがなに?」と取り皿を凛に渡した。
「いや、向かいじゃないんだって思っただけ」
「あー。向かいでもいいけど、隣の方が世話しやすいじゃん」
「は?」
「凛の世話」
理玖はそう言って、隣の凛に「どれ食べる?」と聞き、凛は凛で無邪気に「シーフードのトマトクリームとホワイトソースのやつ!」と理玖の腕にじゃれついた。




