第2章 第3話「陰陽師」
「全く、アイツったら…」
「まぁ腹をかくな。」
陰陽師、裕弥の元へ案内すると言いながら
肝心のクリスがいなかった。
代わりに、
台所のテーブルの上に裕弥邸への地図が置いてあった。
「せめて何か言葉を残せっての。
黙ってここに来い、
みたいな感じが本当に腹立たしいのよね…」
「まぁまぁ。
もう流石に慣れただろ?」
「いちいちアイツの言動に腹を立てないといけないなんて、
コントかっての。漫才コンビかっての。」
ぶつくさ文句を言いながらも、何処か満更でもない感じのする口調だった。
歩くこと数十分。
古ぼけた…いや、
正直『おんぼろ屋敷』が見えてきた。
昔は、豪邸だったのだろう。
しかし手入れを怠っていた、
その屋敷の持ち主である陰陽師の怠惰さが滲み出ている。
一抹の不安を覚えながら二人は屋敷の中へ入っていく。
屋敷の奥から談笑する声が聞こえる。
久方ぶりの再会。
積もる話もあるのだろう。
床中に散らばっている漫画。
付けっぱなしのテレビ。
ちゃぶ台の上には酒が鎮座していた。
「ああ~~っ!!ごめんごめん!!」
「ああああ、またホームランされた…!」
「よし!眠らせた!」
「溜め斬り…!
ファイアー-!!」
「よし!完璧だ!」
携帯ゲーム機というのだろうか?
二人は小さなディスプレイに熱中しながら
叫んでいた。
部屋の片隅には、エレキギターと、
ミケランジェロが立てかけられている。
「待った待った待った!!
何これ!?
裕弥って言ったわね!
アンタ、本当に陰陽師なの!?」
最早屋敷全体にこだまするソフィアの怒号。
「何だ、来てたのか。」
先程までゲームに熱中していたクリスが
急に冷静になってこちらを一瞥する。
「どう考えても俗世にまみれ過ぎでしょ!?
しかも昼間っから酒なんて呑んで…!」
「あ、どうも、裕弥です。」
急な自己紹介。
「陰陽師、やらせて頂いてます。」
「えっと、バイト何かしてますか?」
陰陽師を名乗った男はスェットを着ていた。
どう見てもニート、
よくてフリーター。
「だから、陰陽師だ。」
クリスがシンプルに代弁する。
「あああ!
何でそんな陰陽師がこんなゲームとか漫画とか、
ギターとか、俗世にまみれまくってるのよ!?
え?昨今の陰陽師ってみんなこんな感じなの!?」
もう訳が分からない。
クリスに対しても訳が分からないと思っていたが裕弥も
同じくらいに意味不明。
「陰陽師ってのも窮屈な立場でして。
常日頃仕事があるわけでもなし、
とは言え仕事が来たと思ったら命懸けだし、
皆様の前では厳格な立ち振る舞いをせにゃいかんですし。
だから、漫画を読む。
ゲームもする。
ギターも弾く。
ああ、そうそう、
コイツとは学生のとき、一緒にバンドやってたんですよ?」
「帰る。」
屋敷を出ていこうとするソフィア。
しかし部屋を出ようとした瞬間、
無数の鬼火がソフィアの行く手を阻んでいた。
「その早計さ、短気が命取りになることもありますよ?
ソフィア殿。
その気の強さ、そして天才と称される裏では絶え間ない、
血のにじむような努力をしてきた。
だからこそ、常人にはおよそ到達できない技術を会得し、
そして亡き者、形ないものの意志を具現化する力を得た。」
何故…
ダブルスペリングは確かにクリスに見せたことはある。
けど、マテリアライズをやったときにクリスはいなかったはず。
誰かから聞いた?
「否。」
「『気』、ですね?」
「流石レオン殿。
同じ魔術師の括りにされがちだが、
陰陽師が『見る』のは魔力じゃない、
貴方の仰る通り『気』だ。
ソフィア殿、貴女が失望したのも分かったし、
それについては心から詫びる。
しかし、
いかんせん数年ぶりになった親友との再会だったからな。
興が乗ってしまった。
ほら、クリスも詫びろ。」
「そうだな…すまない、本末転倒だった。」
「…分かったわ。
こちらこそ、ごめんなさい。
早とちりっていうか…
貴方のことを見誤っていたわ。
…っていうか、
東国って国は調教師しかいないの?」
諦めたように、しかしソフィアでさえも裕弥に潜む能力は認めざるをえなかった。
陰陽師は気を読む。
そして陰陽師から放たれる術は魔力ではない。
ソフィアが裕弥をあなどってしまったのも無理はない。
「改めて自己紹介させてもらおう、裕弥殿。
私はレオン・ブランフォード。
君の親友、クリスと今まで旅を共にしてきた。」
「貴方の噂もかねがね聞いているよ、レオン殿。」
「私は、ソフィア・レッドルーク。
もう、お見通しよね?」
「ええ。
皆の目的は、帝国を倒すこと。
そして、ソフィア殿。
貴女は帝国軍ナイトのベネディクトを
ぶちのめしたいと思っている。」
「!?」
「レオン殿は、帝国将軍のサイザーを。」
「驚いたな…
気の流れだけでそこまで分かるものか?」
「否。」
裕弥が立ち上がり、奥の部屋へと向かう。
「さっきも言っただろう?
陰陽師は、
暇なときは暇なんだ。
暇を持て余してたときに
アイリスちゃんから便りが来てね。
兄がヤバそうって。
暇を持て余してた僕は、
式神を飛ばしてドリス攻防戦の
一部始終を見てたわけ。」
ゾッとする。
ここから、ドリスまでどれだけの距離があると思っているんだ?
それを、暇潰し程度の感覚で式神を飛ばしていたなんて…
相変わらず、裕弥からは魔力は感じられない。
もしかしたら、ブラフかもしれない。
あらかたクリスから情報を聞いていたのかもしれない。
しかし気の読めない二人には、裕弥の発言が
嘘か真か分からない。
奥の部屋から出てきた裕弥。
霊験あらたか。
東国風に言い表すと、
この一言で片が付く。
純白の着物に、黒い法衣。
その二色だけで十分だった。
白と黒、
陰と陽。
「不肖、弦巻裕弥が貴方方の願いを叶えよう。
必ず、外道と聖騎士を打ち倒せるよう、
尽力しよう。」




