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ECLIPCE BLADE  作者: 月海 ほたる


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第2章 第4話「NEVER SURRENDER」

さて、どうしたものか。

目の前で、クリス相手にホークとディーネが模擬線をしている。

楽しそうだ…

いっそタッグマッチでも提案してくれないものかと微かに期待をしてしまう。

しかし、今は興奮や期待を抑えるべきだと判断する。

やれない、言えない、じゃない。

『あえて』やらない、言えないことが大事な局面もある。


「じゃあ、後は頼んだ。」

「え~?帰るのか~?」

バッチリ正装に着替えた陰陽師が心底がっかりそうに言う。

「クリス君がいれば、もっと面白い修行になるのに。」

「俺も見ていたいが、すまない。

他にも心配どころはあるものでな。」

乾杯した後に酒を飲み干すクリスと裕弥。

「分かってる。

そっちの方に行ってあげな?

レオン殿も、ソフィア殿も完成されている。

僕は少しだけ、テコ入れするだけだから。」

「ああ。

頼んだぞ、裕弥。」


大親友の陰陽師にレオンとソフィアを託したクリスは、

玄斎邸へ戻ってきた。

まず、実際にホークとディーネがどれほどまでの技量を持つか

判断する為、クリスが模擬戦の相手をすることになった。


「そこまで!!」


玄斎が言い放つ。


ほんの数分だった。


こんな短い時間で、判断ができるものなのか?

ホークもディーネは、困惑した表情を浮かべていた。

クリスは困惑以上に申し訳なさそうな表情をしていた。

「概ね分かった。

君達の力。

クリス。お前は二人と、私の稽古を見ているだけでいい。」

「分かりました。」

ハンナには分かった。

クリスは剣技から身のこなし、全てをクリアしている。

だからこそ、今一度基礎に戻る必要がある。

ひねくれ者だが、誠実で真面目な性格。

だからこそ、玄斎と二人の修行を見ることで

ありふれた言い方だが『初心に還る』ことができる。


…さて、どうしたものか。


二回目の自問。


「あの~…

私も、修行に参加しちゃ…

駄目ですよね~…?」


恐る恐る切り出してみた。


「何をそんな遠慮がちにしてるんですか!ハンナさん!

貴女が参加してくれれば、きっと…!」

「駄目だ。」

目を輝かせてハンナの修行参加を賛成するディーネだが、

玄斎がばっさりと切り捨てる。

「今回の修行の目的は、

ホークの戦い方の矯正と、

ディーネをランサーにすること。

それだけ。

それだけだが、だからこそ…

申し訳ないね、ハンナちゃん。

余計な要素は完全に排除したい。」

「ですよね~…」

てへへ、と笑うハンナ。

「分かっています。

だからこそ、クリスに『見てるだけでいい』と言ったんですよね?」

「話が早くて助かるよ。

そうだな、強いて君に言うなら、

街へ出なさい。

君が参考にしたという忍術…

忍者は流石にいないが、

その土壌がこの土地にはある。

今まで育ってきた、触れてきたものと違う文化に触れるのも、

学ぶことも鍛錬の一つだ。」

「分かりました。」

「座禅でも組んでみれば、

その落ち着かない性格も直るんじゃないか?」

道場の隅で正座をして今まで押し黙っていたクリスが呟く。

「ちげーねーや!」「それもそうですね!」

思わずホークとディーネも同調する。

また、クリスを中心に笑いが起きていた。

へいへい、どうせ私はお邪魔虫ですよ~、

と笑いながら街へ繰り出すハンナ。


「それで、我々はどうすれば?」


「簡単だ。

ディーネ、君は槍を持って私にかかってこい。」

「え…!」

「ホーク、君も今のまま、思うようにかかってきなさい。」

「それで…そんな雑な感じでいいんすか!?

もっと、基本的なところとか…」

「分かったといっただろう。」

まるで突貫工事のような玄斎の方向性に流石の二人も戸惑ってしまう。

「とにかく、かかってきなさい。

二人同時でも構わない。

さぁ。」

そう言って身構える玄斎。

たおやかで優しい。

穏やかで温かい。

そして、今まで相対してきたどんな相手よりも

屈強で、そして絶対に打ち倒すことはできない、

そんな絶壁…いや、

『絶界』。

そんなイメージを持つことを禁じ得ない程の圧力があった。

そんな絶界の老人はクリスに視線を向ける。

「…分かっていると思うが、一応説明しておく。

お前達は、今までの戦い通りに動け。

とは言え、ディーネは槍を持たされているから

今まで通りとはいかないだろうが、

『この後、ディーネが槍を持ったときを想定』して

先生へ向かっていくんだ。」


「分かりました…」「了解した。」


『どうすればいい?』


そもそもの迷いに直面してしまった。


-いつもどうしてた?

俺が先に行く…

こともあるが、レオンが行くこともあれば

ソフィアが行くこともあった…


何てことだ。

一番、前に出て敵を蹴散らして、

仲間のことを身を挺して守ってきた

と思っていたホーク自身が、

今、この場で何をしていいのか分からなくなってしまった。


-いつもなら…

みんなの後を追って、動いてる。

でも…

『思うように』

って言われても…


分からない。

まだまだ、誰かを打ち倒すことはできない、

まだまだ仲間を守ることもできない。

そんな中でも、少しは強くなったと思った。

でも、分からないことを知った。

倒すことも、守ることも。


「この間が君達の弱さだ。

自身に対して疑念がある。

だから、どうしていいか分からなくなる。


だが、答えは示したろう?


思うように来なさいと。


難しく考えなくていい。」


玄斎の淡々とした口調。

それに危機感を覚えたのは

他でもない、クリスだった。


「先生!!」


「喋るなと言っている!!」


一喝。

クリスの叫びは3度目。

しかし、目の前の老兵に完膚なきまでに遮られる。


その異常な光景にホークが飛び出した。

今や、力自慢のナイトとも張り合える程の力強さと、勢い。

本気だった。

しかし玄斎は『素手』で受け止めていた。

叫びながら、ディーネが無我夢中で槍を繰り出す。

それも回避しながら、

ホークの重撃を素手で流しながら、

抜かれた刃はディーネを狙う。


「させるか…!」


反射的にディーネをかばうホーク。


玄斎の一太刀に情けはなかった。


容赦なくホークを切り裂く。


致命傷ではない、あえて急所を外している。


言い換えれば、

いつでも殺せる。


先程まで見せていた

先生

父親

師匠

という穏やかな表情はない。

嵐のような、地震のような、津波のような自然の脅威。


傷つくホークを見て、

ディーネが更に玄斎に迫る。

迫った分だけ距離を取り、

そしてディーネへ刃を剥ける。

向けられた刃を我武者羅に受け止めるホーク。


強くなりたい。

守りたい。


無我夢中に放ったディーネの槍が、玄斎の着物の袖をかすった。

ディーネの前に出たホークが、玄斎の刃を受けきる。


「今日はここまで。」


玄斎の一言に膝から崩れ落ちるホークとディーネ。


「ホークさん…ホークさん!

ごめんなさい…!私が…私が弱いから、こんな…!」

「畜生…!!

ジジイ…好き放題やりやがって…」


少しは強くなったと思った。

そして強くなれると思った。

しかし、繰り広げられたのは、絶望。


誰も倒せない。

何も守れない。


そんな無慈悲を叩きつける玄斎に、怒りを露わにするホーク。


思わずクリスが立ち上がろうとしていた、

しかしそれすらも制する玄斎。


「君達は強くなれる。必ず。

…クリス、説明はできるか?」


「そうですね…

俺の言葉で二人が納得できるかは分かりかねますが…」


あえてクリスに代弁させる。


「まずディーネ。

前に出過ぎだ。

それは、きっと、

『強くなろう』

という想いの発露。

間違っていない。

だが、強くなろうという気持ちが強すぎる。

君は『何の為に強く』なろうとしている?

仲間を…我々を守る為だろう?

アーチャーとしての君は、

今まで僕達を後方から守ってくれたいた。

今は、仕方ない。

でも、『守ること』。

忘れないでくれ。


そしてホーク。

お前らしいありかただ。

それで何度も命を救われてきた、と、思う。

だが、そんな守り方をしていたら、

肝心のお前自身が先に壊れてしまう。

…そうなったら、どうなる?

『自分を守る為に、誰かが壊れてしまった』

そんな後悔を、誰かに背負わせるつもりか?」


静かに、そして、丁寧に言い放つクリス。


やっと、理解したように気がした。


クリスは、強い。

剣技も、判断力も、行動力も、強い。

でも、『守れなかった側の人間』。

だからこそ、みんなを、


ホークに、レオンに、ディーネに、ソフィアに

そっぽ向きながらも


『守ろう』としてきた。


「君達二人が、本当に『守りたい』と思うなら。

少し冷静になって考えろ。

今日はよくやった。

一晩頭を冷やして、明日また答えをここに持ってこい。


…で、いいですよね?先生。」


「合格だ。」


体の火照りも、精神の高揚も落ち着かない。

しかし、クリスの…玄斎の言葉を聞いてホークとディーネは道場を後にする。


「…すまねぇな、ディーネ。

気を遣わせたってか…足を引っ張っちまって…」

「そんなこと…」

「正直よぉ。


俺はみんなを守れてるって思ってたんだ。

それだけじゃない、ウォードとやりあったときに、

俺は絶対強くなったって確信したんだ。

俺はずっと、ヴァルヴェにぶちのめされたときから

鍛錬し続けてきた。」


それは、私も、実はずっと見てました。


「だから、努力が報われたと思ったんだよ。

本当に、『万屋』になれたと思ったんだよ。

けどよ…

何だよ、蓋を開けたみたら。

いくら相手が国宝級の化け物でもさ!

あんなに何もできねーものなのか!?

おまけに、いけすかねーと思ってたクリスにあんなに言われてさぁ!!

クリスは俺を褒めてくれた、嬉しかった!!

でも、結局あんな淡々と計ってただけじゃねーか!!

ムカつくんだよ…!


どいつもこいつも!!


俺には何も守れねーのか!?

自分を犠牲にして、誰かを守ることは間違ってるのか!?


何だよ、守るとか強いとか、

元カノ死なせたアイツに何も…!」


頬を叩く音が夕闇に響く。


「それ以上言わないで。

…お願いだから…

私を幻滅させないで…

ホーク・エイリーク!!」


時が、止まった。


「あの嵐の中、故国を守るために

無我夢中、我武者羅に、

走りました。

そして貴方と、レオンと出会いました。

相手が帝国、私が王女だと知っても、

貴方は、

『いいぜ』

と仰いました。


それにどれだけ私が、励まされたか知っていますか?


私は、貴方の強さと、守る力に憧れたんですよ?」


「…」


何も言えない。


「ぞれからずっと、貴方の背中を追いかけ続けました。

貴方はよく仰っていました、

『背中を預けられる』と。

みんな…

ソフィアさんも、レオンさんも、私よりも前に出る。

クリスさん、ハンナさんなんて正直理解できません。

でも、だからこそ、

私はホークの『背中を守る』ことだけ考えてました。

だから…

背中だけじゃない…いえ…

貴方と同じように…

強くて、守れるようになりたかったんです…!


ホークは…


私の憧れなんです…」


「そんな…」


ためらい。


「買いかぶりすぎだって!!

俺はそんな、立派なもんじゃ…!!}


「私は…!!」


ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら、

王女は万屋を、

しかししっかりと見つめてこう囁いた。


「貴方を、


愛しています。


ホーク。エイリーク様。」

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