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ECLIPCE BLADE  作者: 月海 ほたる


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第24話「Nostalgia」

「と、いうことで。」


唐突なハンナの切り出しに少々驚く一行。

ダイニングにはクリスを除く6人がいた。

「昼はみんな別々に動いてたから,

夜は今後の方針話しがてら、アイリスちゃんオススメのお店に行かない?

改めて親睦を深めるって意味でも。」

「ふむふむ…確かに、アリだな。

ってか、ハンナ。

お前、ずっと山奥で引き篭ってた割には思考がパリピだよな?」

「うるさいわねー。

元からの性格、育ちは関係ない!」

「ははははっ!

いい案だと思うぞ。

なかなかこういう機会もないしな。」

いつものホークの快活な突っ込みと

ハンナの溌溂な返し、そしてレオンの笑顔。

「あれ?今までの旅の中でそういうのってなかったんですか?」

疑問を口にするアイリス。

しかし、それは問いではない、確認だった。

ソフィアが少し神妙な表情を浮かべて答える。

「まぁあるはあるけど、野宿だったり、

宿に泊まっても気までは休まってないっていうか…

それに…今もいないけど…」


「ああ…うちの兄が、すいません。」

「ああいう性格だから仕方ない。

で、今は何をしてるんだ?」

「昼から呑んだから少し寝る

多分夕方にはハンナ辺りが皆でご飯食べに行こうと言い出すだろうから、

そうなったら起こしてくれ、

とのことです。」

この状況においてもソフィアのクリス苦手意識は拭えないらしい。

しかし、アイリスは知ってか知らずか、

少し大げさにクリスの口調を真似ていた。

思わず吹き出してしまうディーネ。

「…言われてみれば、呑んでるイメージないですけど、

よく考えたら

どこかしらで1人で呑んでましたね?」

「ああ見えて、結構好きなんですよ。

ていうか、しかも妙に強いんです。」

「強いって…聞けば君と一緒に暮らしていたのは高校卒業までだろ?

いったいいつから…」

「高校時代、バンドやってて、

それでその仲間との付き合いで…

まぁ薬をやるような危ない人達との付き合いがなかったのが幸いでした。」


「あいつ、バンドなんてやってたのか!?」「あの人、バンドやってたの!?」

全員が声を揃える。

「はい。ドラムやってました。」

「…言われてみれば、確かにフィレンツェでもピアノを弾いてましたし、

何か服装も、何て言うんですか?

『びじゅある系』みたいですし…

東国にピアノとドラムを担当してるミュージシャンが…!」

「ディーネちゃんストップ!!」

際どいディーネの発言を止めるハンナ。


「…もしかして、結構引き出し多かったりする系?」



「皆さんがどのくらいご存じか分からないんですが…

結構、多いと思います。」

「まぁ、その辺は改めてクリスに聞くとしよう。」

「さて…そろそろ起こしてきますね。」


すたすたとアイリスはクリスの眠る部屋へ向かう。

ここにきて露になってくるクリスの人間らしさ。

それはそうだ。

元ナイトで暗殺剣の使い手、

他者と壁を作り、決して踏み込もうともしないし

踏み込まれることも忌み嫌う。

冷酷極まりない存在。

そんな彼でも時折見せる

命を懸けて仲間を守ろうとする姿。

そんな違和感が少しずつではあるが溶けていく。

「おはよう〜…」

少しずつではなかった。

今まで見た事もないルーズな雰囲気を醸し出したクリスが

アイリスに連れられてダイニングに現れる。

「……何だ……」

「いや、「何だ」って!?」

「ふっ……あはは……あはははは!」

ハンナが啖呵を切って笑う。

珍しく…

いや、初めてクリスを中心に笑顔が溢れていた。

「全く…

だいたい、お前達が頼りないから

ずっと気を張りっぱなしだったんだ…

本当はこんなんだぞ、俺は…」

寝起きだからか、酒が残っているかは分からない。

全員がクリスの本質を理解したような気がした。

それはソフィアとて同じだった。

今でも、何だコイツ?は拭えなかった。

しかし今感じている何だコイツ?には敵意がなかった、

反発しようとする意思がなかった。


「で…?

どうするんだ?

作戦会議はするんだろ?

会場は決まったのか?」

「決まってるよ?」

「お!流石アイリスちゃん、手際がいいね!」

「場所は、ここです!」

唐突なアイリスの発言に少々…いや、かなり、

いや全く理解が追いつかない一行。

「お兄ちゃん。」

息継ぎをするようなアイリスの一言に明らかにクリスの顔が強張る。

「お兄ちゃんは確かにみんなを守ってきたかもしれない。

でも!

何で素直になれないかな~!?

もうナイトじゃないでしょ!?独りの方がやりやすいのは知ってるけどみんなお兄ちゃんのこと怖いって思ってたし信じていいか分かんないって困ってたはず!

だ!か!ら!

謝って!!

こんな良い人で強い人達の心を踏みにじったことに謝罪して!!」

ブレスから一気に解き放たれるアイリスの言葉。

「いや…まぁ…それは…そうだが…」

「私は知ってるよお兄ちゃんが口下手なことそれどころか口を開けば捻くれた発言ばっかりだから行動で示したんでしょ!?

だ!か!ら!

態度で謝罪を示して!!」

「分かった…分かったから、落ち着け、アイリス…

俺は何をしたらいい?」


「ご飯作って?」


もう置いてけぼり。


「はいはい…」


「はいは一回!!」


「了解した。」


ハンナが猛獣使いなら、アイリスは妹という皮を被った調教師だった。


「え?アンタ、料理できんの?」

ソフィアが反射的に、率直に尋ねる。

「まぁ、それなりにh…」

「いいっていいって、そんな謙遜に見せかけて距離を取るのは。

お兄ちゃんの料理、めちゃくちゃ美味しいんですよ?

と、言うことで、

今日はお兄ちゃんの『詫び料理』をご賞味ください!」


詫び料理…響きに一抹の不安を覚える。

しかし興味はある。

この男が、どんな料理を作るのか…


「ちょっと、食べてみたいかも…」


「王女様のお口に合うかはわかりかねますがね…

市場は開いてる時間だ。

ちょっとだけ時間をくれ。

あと、買い出しにも付き合え。」


そう言って家から出ていくクリス。

まだ戸惑いは隠せない。


「もしかしたら…」


小さな希望と共にクリスに続く。


「トラウトか。この地域にいいな。」

「待て、その肉、ドリップが出過ぎている。」

「触れば分かる。それもいいが、

この白菜は特に張りがいい。」

「お?東国産の醬油と出汁が入ってきてる。

これはいいタイミングだ。」


「よく見ろ。袋の内側に水滴がついてるだろ?

呼吸をし過ぎている、このシメジは。」


うるさい…!

食材選びに対しても短いが御託を並べる様子に

僅かな希望は崩れ去ったかのように見えた。

「これなら居酒屋の方がよかったかもしれません…」

しかし、まだ望みはある。

クリスがこの後、『どういう戦い方をするか』。


買い出しを終え、家に帰り着いて少しした後にキッチンに入るクリス。

若干落胆気味のディーネ、彼女達の前に運ばれてきたのは

色とりどりの野菜で飾られたサラダだった。


ちゃんとしてる。


丁寧にボイルされた温野菜と、雪国で育てられた葉物の触感が抜群。


「え?もしかして?」


ちゃんとしてる?


サラダを持ってきたクリスはいつの間にかキッチンに戻っていた。

先程買ってきた、銀色の一筋の薄紅色のラインを讃えた魚を

瞬く間に三枚に下ろす。

全てが一筆書きのように無駄のない刃捌き。

心なしか、下ろされた魚肉も輝いて見えた。

6人がサラダを取り分けている間に均等に、

細くも太くもない幅間で切り分けられていく『ニジマス』。

サラダを食べ終える頃には

ニジマスの切り身が、

手を付けるのを躊躇わされるほど美しく扇を描いていた。


「いい醤油が入ったからな。

ここは刺身にしようかと。」


「刺身!」

今まで見たことないほどディーネが歓喜する。

東国由来の料理。

シンプルに、素材と造り手の腕のみで味が決まる。


「…!!」


「俺もいろんな国を旅してきた。

いろんな店に行ってきたが、何だこれは?

ただの魚だぞ?それも、火も入れてない、味付けもしていない…

お前は醤油がというが、

醤油だけでは成り立たない、素材だけでも成り立たない…

東国には、こんな料理…いや、

技術があるのか…?」


次に目の前に大きな鍋が置かれた。

ぐつぐつと煮える、甘い、しかし力強い香りを放つスープの中には

鶏肉、白菜、シメジ、豆腐が入っていた。


「すき焼きって奴だな。

本場というか、牛ではないが、鶏でも成立する。」


つつく。


「マジかよ…!」


スープの味だけでない。

野菜が、肉が、その味を更に昇華させている。

今までにない感覚。


「これが、『旨味』…?

東国人にしか分からないっていう、

フィフスセンス…?」

そして、同じ釜の飯を食う、という言葉がある。

正にそれだった。

今まで拒絶を見せていたクリスの、精一杯の…

いや、つまびらやかにされた本心を垣間見ることができるような一品。


あんときのアンタは最悪だった!

でも、頼りになりました。

俺もちょっとカッコつけてたな~…


でも、

ここまで来れてよかった。


「ああ、そう言えば。」


クリスの前に、見慣れない黒い鍋が用意されていた。

鍋の上は少しもやがかかっているように見えた。

鍋の中に箸を入れると、小気味のいいバチバチとした音が響く。


「お前達、

『天ぷら』

は食べたことがあるか?」


息を飲んでしまう。


天ぷら…


聞いたことがある。

東国で、由緒正しいフリット。

しかしそれを再現できるマエストロはそうそういないと聞く。


手元にある数々の食材を何かの液にくぐらせ、鍋の中に入れていく。

鍋の中身は油だった。

バチバチという音を放ち、そしてその音が少し落ち着いていく、シュワシュワと。

そしてまた勢いを増していく音に合わせて食材を油から引き抜く。

金色の衣を身にまとった食材達。


手際よくそれを盛り付ける、彼、彼女らの元に届ける。


「揚げたてを、塩でどうぞ。」


そう言って背を向ける彼は、少し笑ってみえた。


油…フリット…

嘘だ。

何でこんなにサクッと、柔らかなんだ。

しかも、ソースでなく塩?

これがたまらない。


鍋はまだ残っている。

伝統料理も残っている。


ふとクリスを見ると、中華鍋を片付けて

玉子を溶いている。


四角いフライパンにゆっくりと溶き卵を流し込む。

その卵は普段見ている卵よりもサラサラに見えた。

丁寧に、大胆にフライパンを返しながら、

その都度薄く卵を敷き、何度も卵を巻いていく。


「シンプルだが、出し巻き玉子だ。」


ふわりとした食感、上品な旨味の中にある甘さ、塩味と卵の力強さ。


これ以上にない程の味の暴力。

何も変わらない、無表情に、淡々と仕事をこなしていく見慣れた姿。

しかし、その心音には、言葉では伝えることができない温かみがあった。


「…美味しいです。」


恐怖でも、哀しみでもない。


笑顔で、ディーネが涙を流しながら

クリスの料理を食べていた。


「…よかった。」


同じ言葉を発していたハンナとアイリスが、

微笑み交わし合う。


まるで、姉妹のように。

不器用で出来の悪いクリスが

みんなを笑顔にした確かに瞬間に

心躍らせていた。

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