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ECLIPCE BLADE  作者: 月海 ほたる


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第23話「silent bible」

「ここは…」


「起きましたか!?」


戦いに明け暮れ、疲れ果てた心身に

温かく、寄り添うように響く明るい声。

気づけばベッドの上、見知らぬ天井。

そして視界の隅には少女がいた。

少女、しかし何処か凛とした佇まい。


「あなたは…?」


「どこかで、会った?」


そんなハンナの心を読んだのか、

少女が優しく言葉を紡いだ。


「いえ、気のせいだと思います…

そもそも私はずっと谷底の山奥で育ってきたから知り合いなんて…」

「あはははっ…!」

ハンナの自虐気味な返しに少女は笑う。


「あながち間違いじゃないと思いますよ。

あ、申し遅れました。

私、アイリスと言います。

アイリス・シェーラ。」


「ハンナ。

ハンナ・ヴァレンタインです。」


「ハンナさん。

そろそろ皆さん起きてくると思います。」

「皆も無事なの!?」

「はい!

単独行動してたおに…いえ、クリスさんも無事に回収できました。

まだもうもうちょっと回復するのに時間はかかると思いますが…」

あの世でも、夢でもない。

クリスも無事…

1番心配だった彼が無事なのが

自分達が本当に命を取りとめた事を証明している。

「何はともあれ、無事でよかったです、本当に…

落ち着いたらそこのインターホンで呼び出してください。

お腹も空いてるし、喉も乾いていると思います。

ご飯にしましょう!」

「あ、ありがとう…」

そう言ってアイリスと名乗る少女は部屋から出ていく。

おっとりした雰囲気と、

溌溂さを兼ね備えた、

不思議な少女との会話。

少しだけ、自分と重ねてしまった。

体の調子のことを今になって思い出した。

ベッドから出て、少し体を動かしてみる。

「あれ…?」


驚くほど軽かった。

ハンナ自身あの帝国軍との戦いで

クリスに匹敵するほど奮闘していたはず。

勿論他の皆もそうなのだが…

特に今まで力を抑えていた分、

その反動が尋常ではなかったのが

狩場を振り切って雪原を歩いている時に痛感した。

あの状況下においても自分か、

或いはどこかでしんがりを務めているクリスが先に死ぬだろうと

ぼんやり考える程度には頭も回っていた。

そんなことを振り返りながら丁寧に思考を整理していく。


違和感。


クリスは1番目覚めるのが遅い。

だが、彼女はクリスの名を知っていた。

知り合い?

そうこう考えているうちに思考がクリアになってきた。

「とりあえず…電話。」

ここが何処なのか、どうやって助かったのか、

どれくらい眠っていたのか。

数刻後、アイリスに案内されてダイニングにいた。

「ハンナ!」

既にレオンとソフィアがいた。


しばらくしてホークも。


ディーネは今までとは桁違いの命懸けの戦いに疲労困憊しており、

体調は問題ないがまだ少し休養が必要とのことだった。

「クリスもしばらく起きてきそうにないし…

ディーネさんには別で食事を用意して部屋に置いておきましたので、

私達で頂きましょうか?」

「そうすっか。

お陰様で回復したけど、腹が減っちゃ戦もできんぜ!」

「もうしばらく戦は勘弁だけどねー。」

あえてホークの本能的な発言にノリ良く返してみるハンナ。

微妙な沈黙。

恐らく…

レオンとソフィアはアイリスという少女とクリスの関連性に気づいているはず。


そういうデリケートなことは2人に任せればいい。

相変わらずの思考であるが、

それがこのチームがまとまっていくに必要な立ち回り方だ。

しかし…


「ところでアイリスさんよ。

何でクリスのことを知ってんだ?」


少し考えれば分かる事だった。

流石のホークも二人のクリスとアイリスの

関係性に気付かないほど馬鹿では無い。

だが、敢えて誰もが踏み込んでいいか躊躇うラインに踏み込んでいく。

良くも悪くもホークの特徴だった。


「絶対話さなきゃいけないと思ってました。

まぁ隠す必要もないので勿体ぶる必要も無いんですけど…

改めてご挨拶させて頂きますね。

私、アイリス・シェーラ。

またの名を


アイリス・ルノワール


と言います。」


「!?」


「クリスの、妹です。」


「妹…さん…!?」

全員が絶句する。 それはそうだ。


生涯天涯孤独のような男の彼に…



正直可愛い、


そして聡明だ。


「クリスにこんな妹がいたなんて…」


思わず言葉に出てしまっていた。


「まぁそうなるのも無理はないですよね。

今まで1度も私のことを口にしたことはなかったんでしょう?」

全員頷く。


「無理もないですね…


…あえて言う必要もないんですが…


これも隠す必要もありません。


いずれ知ることになるでしょうし。」


「義理の妹…ってこと?」


「そうです。 苗字が2つあるのはそういうことです。」


「…帝国に反した国、

ナイト時代のクリスがそこを滅ぼした。

その国の生き残り…


摩耗して、

良心の呵責に耐えきれなくなったクリスが貴女を連れて逃げた…」


「!!」


飄々としていたアイリスが驚く。


「そうなのか?」


「まるで見てきたみたいな言い方ですね…


当たりです。


それがクリスの帝国軍脱退のきっかけになりました。


…正確には…


私はクリスに父親を殺されました。」


予想していた。

ただの戦災孤児を救うとは思えない、

そのくらいにクリスは非情だと感じていた。


恐らく…


(ティナさんを殺された自分とアイリスちゃんを重ねた…かぁ…)


そういう理由がなければ、

彼が彼女を助ける動機にはならない。


沈黙する一同。


「それでも、私は今元気ですし

一時期はめちゃくちゃクリスを憎みましたけど

今はそんなことはありません。

クリス…兄は頑張ってくれました。

拒絶する私に対して辛抱強く、

守ってくれたんです。

支えてくれました。」


「それは…」


か細い声が聞こえる。


ダイニングの入口にはディーネが、

涙を流しているディーネがいた。

「ディーネ!大丈夫なのか!?」

「大丈夫。ご飯も美味しかったし…

…それは、クリスだけでなくてアイリスさんも強くないと無理です…

自分の親御さんを殺めた人と分かち合うなんて、

よっぽど心が強くないと…」


「確かにな…」


「2人の心の強さが生み出した絆か…」

「今思えば、あいつが妙に私たちを守ろうとしてたのも、

納得がいくわね。

冷淡なようで、実は…みたいな。」


「生意気な小娘だと思ったがな。」


「相変わらず皮肉屋だねー…」


「クリス!」


いつの間にかクリスがいた。


「ありがとう、助かった。」


そして全員を驚かせる。


こんなにも素直に感謝するクリスを見たことがない。


「秘薬を使ってくれたんだな?」

「そうそう。まだ数には余裕があるから大丈夫よ。」

「秘薬?」

「はい。

東国に伝わる秘薬です。

あらゆる症状を直して、

体力やメンタル面も快復させてくれる素敵なお薬なんですよ?」


東国…そうか…


「だいたい分かっただろう?

俺はアイリスを…そうだな、最初は拾った。

と言うのが正確か。

その後、戦死を装って帝国から離脱した。

そして東国へ戻って、玄斎先生の元で再び世話になることにした。」

玄斎…孤児だったクリスを保護してくれた方…

それからクリスとアイリスの2人の馴れ初めの話が始まるが、


何故か 頭に入ってこない。

何故…?

どうにもアイリスと自分が他人とは思えない。

それが何なのか、分からない。

久々に頭の中にもやがかかったような感覚に陥る。

断片的ではあるが話を要約すると

戦死を装い、アイリスと共に東国へ帰還。

その後、玄斎に兄として彼女を守れと言われたクリスは

戦いから離れた穏やかな生活に戻れると安堵しつつ、

心を開かないアイリスに頭を悩ませる。

しかし、そう簡単に戦死したと思っていなかった

帝国による追撃が始まる。

その理由は分からないとのことだった。

裏切り者を消しに来たか、それとも生き残りを許さなかったのか。

当然、クリスは戦う。

新たに出来た学友を、

そしてアイリスを守る為に。


「この頃からだ。

人の命を奪わないと決めたのは。

当然、ミケランジェロは駄々を捏ねたが…

そしてシークが現れた。」


そこで帝国が残王を利用した計画を企てていることを知る。


「世界を再び滅亡の危機に晒す訳にはいかんし、

それにこのままでは拉致があかない。

そういう訳でアイリスをここ、


スノーフリアに匿って俺は旅に出ることにした。」

「皮肉っていうか、変な話よね。

まさか匿わせた先で救護されるなんて。」

「…もしかして、意図的に…?」

「可能性は低いと思っていた。

あの戦線で逃げるとすれば、

こちらへ向かって。

あらかじめ電報は送っておいたんだ。」


用意周到…


強引な手法も取りつつ、

綿密な準備も怠らなかったということか…


「何にしても無事でよかった!

ここは中立地帯だからそう簡単に帝国も入って来れないし。

今まで私が無事だったのがその証拠だし。

しばらくゆっくりしていくといいよ。」

底抜けに明るい笑顔をクリスに見せてアイリスが言う。

「それもそうしたいところだが…

あまり長居するとよくない。

どうにも我々は帝国に監視はれている感があるからな…」

「そうね…あまり迷惑もかけられないし。」


「とは言え、流石にあの激戦の後だ。

帝国もだいぶん疲弊しているはずだから

しばらくは体勢を立て直すのに時間はかかるだろう。

殊に、今回の件で我々に対しての警戒レベルを上げるはず。

ゴミのような残存勢力で追ってくることはすまい。

とは言え、レオンとソフィアの言い分も正しい。

ちょっとゆっくりしてからここを立つぞ。」

「了解。今後の方針も考えないといけないしね。」

「この街、美味しいものいっぱいあるから、

滞在してる間は観光がてら色々行ってきてくださいよ。

ちょっとリフレッシュして、それから考えれば大丈夫です!」

アイリスの念押し。 急く気持ちを一旦落ち着け、

クリスはアイリスと話に。

ホークとディーネは街の探索へ。

レオンとソフィアは図書館へ向かう。

ハンナはもうひと眠りすることにする。


「…」

-何で… 他人に思えなかったんだろう?

私とアイリスとはなんの繋がりは無い。

クリスとは仲良くやっているように見えて

実はクリスとも出会って数日しか経っていない。

そう、私の知る限り… 私には幼い頃の記憶が無い。

もしかしたら、彼女と会ったことがある?

いや、それでもアイリスのことなら話してくれるはず?



ダメだ、どう整理しても繋がらない


………まぁ………


母さんの言う通り、


時は…必ず…来る… ………


「しかしここまでスムーズに我々の回収を行えるとは、

スノーフリアも捨てたものではないな。」

「餅は餅屋、雪のことは雪国の人に任せるのが1番よ。」

「…例のものはあるか?」

「昼間っから?」

「たまにはいいだろう。

数週間気を張りつめっ放しだったし、

しばらくしたらまたそんな日々に追われる…」

「でも、私守ってたときよりかはマシなんじゃないの?

自衛力高そうだし。」

「そうでもない。

余計なことばかりしてくれる。」


「ちゃんと言って?」


「…少しは、助けられている。」


「相変わらず、団体行動…チーム戦は苦手?」


「相変わらずさ…

ドリス戦線では流石に指揮官を買って出たが…

単独行動の方がやり易い。

もう少し安心できるくらい強くなってくれればいいんだがな…」


「やっぱり、変わってない。

ううん。でも、変わってきてる。」


「笑うな。

ああ、それと…ここを出てからの旅に、

お前を連れて行こうと考えている。」


「え!?マジ?」


「ああ。 今までとは違う、

ゆっくりした旅になるだろう。

が、核心は突いていく為でもある。

そのときに…悪いが、アイリスの出番だ。」


「それがどういう方向に転ぼうとも…?」


「ああ。 矛盾しているかもだが…


それが俺の、生きている理由だ」


そしてクリスはアイリスから差し出された酒を飲む。


お気に入りのブランデー。

久々にゆっくりできる…

出来ればずっとこんな日々が続いていて欲しい。


だが、今クリスが生きているのは

歪められた世界。


本来あるはずだった姿に


戻さねばならない。


その為には…


確かな決意と覚悟を秘めた、

しかし儚げな視線を白い空へと移していた。

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