第22話「Naked Soldier」
走った。
帝国幹部から逃げる為、
目の前の帝国兵達を倒す為、
ドリスの勝利の為、
クリスの想いに答える為。
大多数の帝国兵を倒した。
追手の気配もない。
遠くに見えていた雪が、近くなってる。
ここが引き際だ。
クラウスに伝える。
「もう、ドリス軍の勝利を宣言していい」
と。
躊躇するクラウスだったが、
責務は果たしたこと、仮にこれ以上敵の増援があったとしても、
それに対抗できる程度にはドリス軍の士気も体力も十分。
クラウスを始めとするドリス軍は何度も何度も
頭を下げて、国へと踵を返す。
さて、ここからが問題だ。
まだ帝国には残存兵力があった。
こちらも戦える。
しかし…
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「で、分断した後は私達、
どうしたらいいの?」
「ある程度戦えばドリスに対して対抗できないレベルにまで
帝国を弱らせることができる。
だが残存兵力はある。
それを倒しながら、君達は吹雪の中へ、
ひたすら東へと走っていってほしい。」
「…分かった。
理由はいろいろ聞きたいけど、
君を信じるね?
ただ一つだけ聞かせてほしい。
クリスは、どうするの?」
「愚問だな。
俺も追いつく。」
凍える。
何も見えなくなる、聞こえなくなる。
視界と音と、肌の温度を容赦なく奪ってくる。
帝国兵もいる。
しかし状況は同じ、
数も先程までに比べて少ない。
もう、我慢比べ。
戦力はこちらの方が上。
我慢比べに負けてしまったら
こちらが敗ける。
帝国兵の悲鳴。
輪唱かのように響き渡る。
引き裂かれる肉の音、
叩き潰される骨の音。
白いキャンパスの上に描かれた色とりどりの色彩は、
無情にも降り注ぐ雪によって白く上書きされていく。
「これは参ったね~?」
拍子抜けしたようなトーンでホークが言う。
寒さのせいでない。
明らかにその表情は蒼白していた。
その刹那、レオンとソフィアが周りに炎の結界を張る。
炎の灯りに照らされた先には雪原、
極めて低温帯の豪雪地帯にしか生息しないブランウルフと
グリズリーの姿が観測された。
勿論、1頭ではない。
続々と集まってきている。
「食べられた…!?」
恐怖に戦き、声を漏らしてしまう王女。
しかし、違う。
「まだ捕食された方がマシだったかもな…
喰われてなどいない。
玩具だ。
奴らにとって我々人間は壊すための玩具にしか見えないらしい。」
淡々と、しかし残酷な事実をレオンが告げる。
そう、野ざらしにされた帝国兵達に捕食痕は全く見られない。
牙で、爪で切り裂かれ、巨躯で蹂躙されただけ。
「まぁ勿論、この後みんなで美味しく頂きました~、
ってなるんでしょうけど…」
「玩具にされるのも、餌になるのも勘弁だからね…
行くよ!みんな!
私とレオンが作ってる炎の魔法陣の中に!
ここから出るにしても出来るだけ離れすぎないで!
いくら凶暴でも相手は野生の動物、
炎に少なからず警戒するはず!」
ソフィアが鬨を上げる。
四方八方に飛び交いながら、炎の壁を飛び越えて
こちらへ突進してくるブランウルフ。
ディーネがそれを見て一矢。また一矢。
いつの間にか無数の矢となって鉄壁の対空防御と化していた。
上空からの侵入手段を絶たれたウルフは正面から突進してくる。
その眼前にハンナが現れ、無数の剣閃を放つ。
回避される。
間髪入れず、ウルフほどではない…
しかし人間の兵士を圧倒的に上回るスピードで突撃してくる
グリズリー。
ホークが受け止める。
別個体のグリズリーがホークを襲う、
しかし、上空への手が空いたディーネが今度は
渾身の矢をグリズリーに放ち、レオンが落雷を落として
残りのグリズリーも感電させ動きを止める。
動きが止まった野生動物の足が凍り付いていた。
右手で炎の壁を作っていたソフィアが、
左手で彼らの足を氷漬けにする。
首をもたげようとしたウルフの姿を視認すると
速攻でその喉をかききるハンナ。
突然の荒々しい行動に驚きを隠せない。
「ちょっとまずいかな~…」
同じような動きのウルフに、同じように制裁を加える。
いかんせん数が多い。
間に合わず一匹が遠吠えを始める。
しばらくすると、倍以上。
まだ帝国兵の方がマシ、と言えるレベルの数のブランウルフが
集まってくる。
「そんな…」
ディーネがへたり込んでしまう。
ホーク、レオン、ソフィアもひどく狼狽した表情になってしまう。
「恨むわ~…
何で、こんな、
帝国よりも遥かに厄介な奴らがいるって教えなかったかな~…」
ハンナがため息交じりに言う。
多勢に無勢。
戦争などではない。
ただ、「狩り」の場。
獲物として選ばれたのが、5人だった。
狼も仲間は呼ばない。
もう十分過ぎる。
もしも、彼らに狡猾な、サディスティックな意志があるんだとしたら
その欲望も満たしている。
ホークは力で、ディーネは遠くから無数の矢で、
レオンは剣と雷で、ソフィアは炎で守りながら氷で
抗う。
しかし数が多い。
戦争ではない。
戦争ではないが、正に群の恐怖を余すことなく
押し付けてくる光景。
先頭でウルフの攻撃を一身に浴びていたホーク。
「や…やべぇ…」
勝気なホークを曇らせるに十分すぎる狼の牙と爪の弾幕。
もはやこれまで…
喉元めがけて牙を剥いてくる狼。
-刹那
鈍い音が響く。骨が、頭蓋が砕ける音。
観念してしまった、目を閉じてしまった。
ホークが目を開けると
真っ白な拳が目の前の狼の脳天を叩き割っていた。
「え…」
全員が声を揃えてしまう。
白い天使は澄み渡る音を奏でる二本の刃を手放していた。
彼女に襲い掛かってくるウルフは全てカウンターで滅されていた。
その後続いてきたグリズリーも攻撃を回避され、
上空からのオーバーヘッド気味の蹴りで頭蓋を蹴り潰される。
その異様な光景に少しテンポが遅れる野生動物の群れ。
変わらない…いや、刃を捨てたからか、
今まで見てきた以上のスピードでウルフに近づき、
拳で、脚で、次々と殲滅していく。
数倍はあろうかという体格差のグリズリーもマシンガンのような拳の連打で
次々と屠っていく。
「あなた…もしかして…」
そう呟いたソフィアの顔の横をハンナのナイフの一本がかすめる。
振り返ると、串刺しにされてやがて絶命するウルフ。
白銀に染まる世界で、
赤く染まる死の舞踏を披露するハンナがいた。
その白い指先も、つま先も、
白銀の髪先さえも乱れていない。
-美しい
「もうここまで来たら、監視とかどうでもいいよね?
本気、出させて頂きました。
行こう!!
道は私が切り拓くから、みんなはしっかりついてきて!!
そして、生き延びよう!!」
訳が分からない。
しかし、ハンナの言う通り走るしかない。
この先に希望があると言ったクリスの言葉を信じて。
息を切らさず、目の前に現れたモンスターを次々と素手で間引いていく。
双剣を手にしていたのはあくまで守り。
防御を手放し、素手での戦いこそがハンナの真骨頂。
人間離れしたしなやかな体捌き、圧倒的なスピード。
双剣のときは美しかったが、素手でのハンナは残酷。
しかし美しさと残酷さは決して対義語ではない。
芸術。
こんな極限状態でも、ハンナの戦い方は
芸術
だった。
吹雪が強くなっていく。
もう何処に向かっているかも分からない。
モンスター達も流石に追ってこない。
しかし、
限界だ。
どこまで行けばいいかも分からない。
何でもいい、誰でもいい。
朦朧とする意識の中で思う。
何でもいいから、誰でもいいから、
クリス、お前の言ってたことが本当だって…
信じるからな…




