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ECLIPCE BLADE  作者: 月海 ほたる


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第15話「GENESIS OF MIND」

「答えろ。

何故、ここにいる?


シーク。」


「知れたこと。

俺も、アクロ神殿を目指していた。

だが、どこぞの何者かが橋を壊してしまったからな。

谷底から行けないものかと散策していたら、

お前達がいた。

ただそれだけだ。」


ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

しかし、そんなシークに抜刀はしない。

剣を抜けば、どうなるか分かっている。

クリスの目の前まで近づいたシークは、

その蛇のような視線をハンナへ向ける。


「君は、この男が何者なのか知っているのか?」


「ええ。

元帝国軍、元ナイト。

貴方…クリスの元上司かなんか?」


「ふはははは!!

そこまで分かっているなら上出来だ。

だが…

まだまだ、この男を知る必要があるようだな。

まぁ、急ぐ必要はない。」


そう言いながら背を向け、木々の中へ歩いていく。


「何にせよ、久々に会えてよかったよ、クリス。

今日は満足だ。帰るとしよう。

それに…

最早、俺がアクロ神殿まで行く必要はなくなった。

またな、クリス。」


視界から完全にフェードアウトするシーク。

その場に漂っていた緊張感から解き放たれたのか、

ハンナはへたり込んでしまう。


「…あんな人、初めて見た…

私の推測、当たってる?」

「ああ。」

構えを解いて、静かに、深呼吸した後にクリスが答える。

「シーク。

俺がナイトだったときの直属の上司だ。」


「あの人、相当やばいでしょ…?」


「ああ。だから、君の推測は全て当たっているよ。

…行こうか。」

「…うん!」


不穏な空気。

この二人だからこそ分かった。

シークが現れたのは間違いなく、何かの予兆。

そして、これから起きることの何かの暗喩だと。


---時を遡ること、半日ほど前。

断崖絶壁に繋がれていた橋は真っ二つになった。

それも、人の手によって。

先程まで共にいた『異物』は谷底へ消えていった。

本来、異物が消えると安心する。

しかし、消えたはずなのに残る…

いや、新たに生まれるしこり。


「クリスさん、クリスさん!!」


谷底へ、ただ繰り返されるディーネの悲痛な叫び。

気持ちは同じだった。

分かる。分かるからこそ、


「ディーネ!!」


ホークが一蹴する。

それは、ディーネにとって心が引き裂かれるような…

いや、実際にディーネの心を引き裂いた。


無情。


仲間が、消えた。墜ちた。


それでも、進まなければならない。


諦念じみた表情を浮かべながら、ディーネは神殿への道を歩き始める。


「…ホークも、

思い切ってくれた。

君を、前に向かせる為に。


みんな、傷ついている。


だから、あのホークの叫びを無駄にしてほしくないし、

それに、クリスなら大丈夫だ。

闇雲に、俺達を逃がすためだけにあんな行動をとった訳じゃない。

それは分かるだろう?

だから、大丈夫だ。」


涙を堪えながら…先程まで流していた涙を拭いながら

静かに頷く。歩みは止めない。立ち止まらない。

それに続いてレオン、ホーク、ソフィアが続く。


「…そうよね。

アイツが、私達を守るわけないもんね。」

驚いたようにソフィアへ振り返るホーク。

「守るわけない。

どうせ、あの怪鳥の魂をミケランジェロって剣に喰わせたかっただけじゃないの?

それか、守るふりして私達から離れただけか。」

「ソフィア!」

レオンが諫める。

「いいじゃん!!

あんな危ない奴、いなくなった方がいいじゃん!!

どうせ、私達のこともいつか、斬るつもり…!」


「そんなことない!!」


感情的なソフィアの言葉を遮ったのは、

まさかのディーネだった。


「クリスさんは、私達を守ってくれました!

確かに、守るつもりじゃない、

使命を、任務を全うした、

その最適解としてあんな無茶な行動に出たのかもしれない…

使命、任務…

元軍人だから…


ソフィアさん、

貴女がクリスさんのことが嫌い、

認めたくないってのは分かります、

でも、

そんな言い方って

なくないですか!?


どうして、私達はここにいられるんですか?

生きてられるんですか!?」


流石のソフィアも押し黙ってしまう。


「…すまない、ディーネ。

ソフィアも動揺しているんだ。

だから、あんなことを…」

「知ったような口を聞くな!!」

レオンのフォローにも噛みつく。

またディーネの目から涙が零れる。

拭われた、ソフィアによって。

ひたすら、ただひたすらディーネに謝る。

レオンの言う通りだと。

そして、ディーネの言う通りだと。


先程まで見せていた激情からは全く想像できないくらい…

いや、出会ってから初めて見せる、

慈しみを湛えた表情でディーネの涙を拭う。

ディーネをあやすと同時に、

自分自身を納得させ、そして断罪するかのように…


「行こう。

クリスは、大丈夫だ。

君も、クリスと会えたらせめて、

一言礼くらいは言ってくれ。」


「…分かった。」


沈黙を破ったのは、美しい光を讃えた、

とても近い空。

光が乱反射し、カーテンのように降り注いでいる。

かつて、神格性を帯びていただろう

独特の建築美によって築かれた柱のほとんどは崩れていた。

かろうじて、神殿だけが、

本当にかろうじて形を遺しているだけ。


「かつて、ここに文明があったらしい。

この神殿も、当時は美しく荘厳で、

そして人々も栄えていたんだろう。」

レオンが言いながら、少し遠くにある大神殿…

いや、もう遺跡と呼ぶのが正しいのかもしれない。

そんな建造物へ向かって歩く。

「今はアクロ神殿って言われてるけど、

ここは国家として繫栄してたらしいわ。

アクロポリス、っていう国家だったって聞いたことがある。」

「でもよ、2000年前のカタストロフィ、

そっから俺達は一回復興してるんだろ?

ここだけ、このままなのか?」


-そんなことはありません。


身構える4人。

何処からともなく声が聞こえてくる。

今にも消えそうな、それも、ノイズ混じり。

しかしはっきりと聞こえてくる。


神殿入り口の、ぼろぼろになった祭壇に

うっすらと、青い火の玉が浮かんでいる。


「人魂!?」

明らかに、不可解な存在から発せられた言葉。

「もしかして…」

落ち着きを取り戻したソフィアが青い光に手を差し伸べる。

そうしてしばらくした後、

神官が現れる。

しかしその恰好は、とても現代のものではなかった。

遥か過去に生きていた者の恰好、

そして明らかに透過していた。


-マテリアライズ…

この時代にも使える人間がいるとは…


「結構、ギリギリなライン…

一応、白魔法だけど

限りなく禁忌の魔術よ。

何せ、これを人の記憶とかに使ったら、

読み取った相手の思考を具現化させてしまうから。

貴方の時代では、信仰の為に日常茶飯事で使われてたみたいだけど。」


-君の言う通りだ。

詳しいことは分からないが、

たまに聞く「コンプライアンス」とやらに抵触するのだろうな、

マテリアライズは。

しかし、そのおかげで、残留思念としてここに居続けていた

悲願が成就される…


呆気に取られるホークとディーネ。

目の前に具現化された、

言うなれば「生き返った」神官は話を続ける。


-先程、君は2000年前と言ったな?

2000年前に確かにカタストロフィは起きた。

そして、君の言う通り、人類は復興への道を正しく進んだ。

アクロポリスも、例外ではないよ。

ちゃんと、歩み始めて、また文明を取り戻した。

…1000年前までは。


「1000年前…?」


-そう。

2000年前のカタストロフィは、世界の全てを巻き込む

規模の大災害だった。

しかし、1000年前にも、

我々ギリサの民を、アクロポリスのみを

破壊した災害が起きた。


歴史上では、ギリサに起きた大地震と伝わっているが…


『彼の者』は、ここだけを襲った。」


「!?

やはり、人為的…!?」

不謹慎だと分かっている。

しかし、学者としての知的好奇心が止まらない。

答え合わせをしようとするレオンに神官は言葉を続ける。


-あれは、「人」ではない。

「何か」だ。

我々は、全て息絶えた。

だが、一部生き残り、その真相を

自身のうちのみに留め、記録しようとした。

そして、我々は「彼の者」を

こう名付けた。




『残王』





「それは…

2000年前に起きたカタストロフィも…?」


-確信はできないが、恐らく…

もし別個体の何かがいたとしたら、

この星は二つの異物を抱えていることになる。

だから、希望的観測によるものが大きい。


「…」


-ぼんやりと、そして薄れていく中で、

1000年前から世界を観測してきた。

結論を言う。

帝国は、残王の研究をしている。


「嘘…だろ…」


-帝国の遺跡調査、そしてここ数年で一気に勢力を増し、

そして異常なまでに世界征服へ固執する軍事国家としての成長。

間違いない。

帝国は残王を…

1000年前に我々を滅ぼした未知の存在を研究し、

そして何らかの形で力を得ている。


だから、頼む。


我々の仇を討ってほしいなどとは言わない。


だが、

もう、この世界が、誰かが滅びる未来を止めてほしい。


本当に、「人の手」で世界が滅亡する、

そんな救いようのない結末だけは…


阻止してくれ。


…時間だ…


私は、誰か、力ある者にこの我儘を託したいが為にここに残っていた。


…ディーネ様。


「え?」


-貴方のお父上が、

彼女のようにマテリアライズを習得した賢者と共に

ここを訪れていれば…

少し変ったかもしれない。


「父上が…!?」


-だが皮肉でも後悔でもない。

まだ、間に合う。

だから…

後は宜しく頼む…


そう伝えた神官は、

空へと消えていった。

還るべき場所へ、還ったのだった。


「どうか、

安らかに。」

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