第四話
「でも、具体的にはどうする? 本来は地道にコツコツとが鉄則だけど」
「……」
そう、問題はそこだ。
クローズは筆記試験に関しては満点……とまではいかなくとも、上位クラスに入るには申し分ない高得点を出せるはずだ。
ただ、やはり懸念されるのは「実技」の方になるワケなのだが……。
「……殿下」
「ん?」
そんな時。ふとアリアの脳裏をよぎったのは「過去にも『鑑定』を使えない王が国を治めた事があった」という話だ。
その際の王妃は「魔力が強い」という事も……。
そして、クローズはそれが理由で「罪の償い」という意味も込めてリチャード王子の婚約者となっている。
小さい頃は普通に……いや、同い年の中でも比較的魔法を早く覚えたクローズは決して魔力がないというワケではない。
そもそもの事の発端を踏まえて考えると……実はアリアよりもまだ時間を短縮して魔法が上達させる事が出来る可能性が高い。
ただ、そうする為にはちょっとした賭けに出なければならないのだが。
「……クローズ様は昔の事を引きづっているが故に魔法が上手く使えない……ですよね?」
「え? う、うん。多分だけど。今も兄上に対してどこか引け目を感じているのじゃないかな? あの時、自分が応戦しなければ……って」
キュリオス王子はそう言いながら「それがどうしたのかな?」と言いたそうな表情でアリアを見る。
「……そうですか」
そんな王子に対し、アリアは「やはり」という気持ちでその言葉を受け取った。
クローズはリチャード王子が望まない婚約をするきっかけになった事に対して悔いてそれを引け目に感じていたのだろう。
「?」
「いえ。では、仮にリチャード殿下が自身ではない別の女性に熱を上げていると知れば……少しはその引け目を感じる事はなくなるのではないか……と」
不思議そうな顔で王子がこちらを見ている事に気が付いたアリアは簡単に説明をする。
そう『賭け』とは「クローズにリチャード王子と主人公の関係を話す」というモノだった。
ただ、主人公の名前を伝えるつもりはない。
ここで大事なのは「リチャード王子は昔の事は気にせずクローズが考えている以上に自由にしている」という事実を教える事だ。
「信じるか信じないかはクローズ様に一任致します。ただ私は……クローズ様が思っている以上にリチャード殿下は気にしていないという事実をお伝え出来ればそれで良いので」
そもそも事の発端は子供同士の些細なケンカだった。
でも、それによって人生を狂わされたという事もまた事実。しかし、本来であれば同じ……いや、それ以上の苦しみを受けているはずの人間が好き勝手に振舞っているのもまた事実だ。
それに、コレを伝えた事によってクルーズが本当に『悪役令嬢』になってしまう……というリスクもある。
「……はぁ。本当にとんでもない事を思いつくね」
「も、申し訳ございません」
確かに、王子の言う事はもっともだ。
「でも、確かに事実を知る事によって引け目は感じなくなるかも知れないね。ただ……そうなると公爵の耳に入るかも知れないね」
キュリオス王子はそう言って少し考え込む様な素振りを見せた。
「……」
でも、それは仕方のない話だろう。何せ相手はキュリオス王子の兄。つまりコレは王家の不祥事というワケだ。さすがに穏便に……とはいかないだろう。
「――でも、うん。話は分かったよ。公爵の事は僕に任せて」
「え」
「公爵とはよく話をするし、そもそも学校に通っている間は娘の自由にさせたいって話していた人だから……多分、大丈夫だと思う」
「で、では――」
「あ、でもクローズ嬢にはアリアの方から話して。もしかしたら……既に勘づいているかも知れないけど」
そう言って王子は苦笑いをする。
「……分かりました」
アリアも「それは……そうかも知れない」と思っていた。何せ最初に会った時にその話をクローズから聞いている。
「うん、それじゃあ。僕はちょっと用事があるから」
「はい、それでは後ほど」
そう言ってアリアは王子を見送る。
「……」
ただ、クローズの疑問をその時誤魔化したのはアリアだ。そして、それを覆そうとしているのもアリアであって――。
「……全く。これじゃあ――」
攻略キャラクターたちを翻弄している主人公とやっている事が変わらない……とアリアは王子が立ち去った後。一人で「はぁ」重いため息を吐いた。




