第四話
つまり、彼女は「ストーリーを戻すため」にわざわざ出てきた……というワケだ。それも「ハーレムエンドを達成するため」に――。
そして、クローズには『悪役令嬢』として、アリアには『モブ令嬢』としての役割を全うしろ……と。
しかし――。
「一学年上のあなたには関係のない話では? クローズ様がどのクラスにおられようと」
そうアリアが答えると、ソフィリアはおかしそうに笑う。
「ハハハ! 確かに! でもねぇ。上位のクラスに入られると私が困るのよ」
「……」
正直、ソフィリアの笑い方を見てアリアは愕然とした。なぜなら、彼女の笑い方にはアリアの知っている彼女は存在していなかったからだ。
それも仕方のない話かも知れない。何せ「中身」いわゆる「精神」がそもそも違うのだから……。
「あなたやキュリオス様は嫌がらせとか率先してやらないじゃない。でも、下位のクラスにいれば周りの令嬢たちが勝手にしてくれるの」
「……」
その発言でクローズは自分の周りにいた取り巻きの令嬢たちによって嫌がらせの濡れ衣を着せられた事がアリアの中で確定した。
「一年生の今は二年や三年と関わる事はほとんどない。でも、一つ学年が上がってしまえば合同で授業を受ける機会も増える」
そして、二年生も三年生も上位と下位でクラスが分かれている。今のままでいけば主人公たちは上位。クローズは下位。
まずここで一つ嫉妬するポイントが出来、周囲の取り巻きたちがクローズに対して「婚約者を差し置いて――」などと言う。
それらが積み重なって、クローズはやがて『悪役令嬢』になる……という事の様だ。
しかし、ここで上位のクラスにいたらそもそもリチャード王子と行動を共にする事になるだろう。
なぜなら彼女はそもそもリチャード王子の婚約者だからだ。
それに、上位のクラスにはキュリオス王子もいる。少しでもおかしな行動をすれば陛下に報告されるかも知れない。
そもそもリチャード王子はソフィリアとの関係を隠している。ひょっとしたら彼女と距離を取るかも知れない。
「だ・か・ら。クローズには上位のクラスに入られては困るの。まぁ、本来ならあなたも邪魔なんだけど」
「……」
それはそうだろう。
しかし、アリアはゲーム上では名前すらない「モブ」だ。主人公の中では「いつでもどうとでも出来る」と思っているのだろう。
強引に近づけてきた顔は目が大きく「きゅるん」という効果音が似合いそうなくらい可愛らしい。
それなのに……どことなく歪んで見える。
それはきっと……彼女の可愛らしい見た目と打算的な行動が会っていないからだろうとアリアは思った。
「はぁ。なーんかちぐはぐなんだよねぇ。本当ならリチャード様の『魔法』も覚醒していてもおかしくないのに、その兆候すらないなんて……」
「……ぇ」
多分、ソフィリアは何気なく言ったつもりだろう。しかし、アリアはそこでピタリと動きを止め、それについて尋ねようとした瞬間――。
「あれ? そんなところで何をされているのですか?」
突然男性……いや、少年の様な声がした。
「……」
この声にアリアは聞き覚えがあった。それもつい最近。
「――もう時間切れか」
そう小さく呟くソフィリアの声が聞こえたかと思うと……。
「あ! クリス!」
元気いっぱいの可愛らしい声で健気にクリスの元へと駆け寄って行くソフィリアの姿があった。
「……」
そのあまりの変わり身の早さにアリアは思わず「あなた、女優になった方が良いんじゃない?」と思いつつ、呆気に取られていた――。




