第三話
思えば、クローズは話をしている間ずっとキュリオス王子の事を『殿下』と呼んでいた。
「昔……それこそ国中の貴族の令嬢や令息が集めたお茶会が開かれる前から殿下と私は友人とまではいかなくてもお互い顔見知り程度だったわ」
そういえば、クローズの母親と王妃様は同い年で仲が良かったという設定があった。
「小さい頃のある日、お母様に連れられて王宮に行った時に王妃様にお茶会に誘われてね。その時に紹介されたの」
「……」
「私はその時。幼いながらに彼に目を奪われた。ひょっとしたら一目ぼれだったのかも知れないわね」
クローズはそう言いながら自虐的に笑う。
「でも、それを誰かに言う事はなかった。まだ私は小さかったし、そもそも自分の感情にも気が付いていなかった。それに、殿下はいつも私に笑顔を向けてくれていたけれど、それが実は本当の……心からの笑顔でじゃなかったって今となっては分かるわ」
「……」
ここまで話を聞いて、アリアの脳裏には『ある事』が浮かんでいたけれど……それをわざわざ口に出すほど野暮なマネはしない。
しかし、驚いたのは今の話の内容だ。
確かにアリアが前世でゲームをプレイしていた時もキュリオス王子の婚約者になったきっかけは「一目ぼれ」だったが、まさかお茶会よりも前の話だったとは――。
いや、当たり前か。
彼女は公爵家の令嬢で、母親同士が仲の良い友人とくれば……多少の面識があっても不思議ではなく、またその「一目ぼれ」のきっかけも必然的に多くなるのも当たり前の話ではある。
ただ、コレではっきりとしたのは「あの婚約が彼女の意思だった」という事だ。
「なぜ……そう思われるのですか?」
話を聞いてからずっと脳裏に浮かんでいる事を確かめたくてアリアはクローズに尋ねる。
「なぜ? それはもちろん。あなたと殿下がお茶会で話している時の笑顔を見たからよ。屈託のない……年相応の殿下の姿。いつもと違うあれを見てしまったら……ああ、きっと私じゃ敵わないって悟ったの」
「で、ですが……」
「公爵家の力を使えば婚約出来たかも知れない。でも、私はそれ以上に彼の笑顔が見たかったのよ」
「……」
そう言って寂しそうに笑うクローズをアリアは無言で見つめる事しか出来ない。ここで下手に何かを言うのはそれこそ野暮だ。
しかし、ここで新たな疑問が出てきた。
それは「クローズが身を引いた理由」だ。
今の話を聞く限り「クローズはキュリオス王子の幸せを願って自分から身を引いた」という事になる。
でも、ゲームでは彼女は『悪役令嬢』である。もし、ゲームの中でも今の様に自分から身を引けば『悪役令嬢』になる事もなく、また処罰される事もなかったはずだ。
「……」
可能性として挙げられるのは「婚約を結んでいるにも関わらず別の女性。つまり主人公と仲良くしていたから」もしくは「主人公が庶民だったから」などだが……。
いや、ひょっとしたら……。
アリアは昨日可能性の一つとして考えていた『誰かに悪役令嬢に仕立て上げられた』という事を思い出し、その可能性がより一層高くなり、思わず身震いをしてしまった――。




