第二話
「ちっ、ちなみに殿下はなんと?」
「ふふ。普通の『王子』という肩書だけに近寄って来る様な令嬢たちとは全然違うと言っていたわ」
クローズはそう言って笑うが、アリアとしてはむしろその「普通」が疑問だった。
「分からないって顔をしているわね」
「え、あ……はい」
「いいのよ。あなたはそれで。私は……キュリオス殿下の言いたい事が何となく分かった気がしたから」
「え」
そう言ってクローズは穏やかな笑みでアリアを見つめる。
「私も……王族ではないとは言え、公爵家の人間だもの。やっぱり家の名前……権力にあやかりたいという人たちはいるわ。いえ、むしろほとんどがそうね」
「……」
「だからね。あなたみたいな人は本当に珍しいのよ」
「珍しい……ですか」
アリアとしてはそもそも「関わりたくない」という気持ちから面倒事を避けているだけのつもりなのだが……。
それにしても……こうして話してみると、どうにもクローズがこの先『悪役令嬢』になるとは思えない。
既に前世でゲームをプレイしているにも関わらず……だ。
しかし、どうにも自分の家が持っている権力に思い悩んでいるだけのいたいけな少女にしか見えない。
それだけ『恋』とは人を変えるという事なのだろうか……。
「あなたは権力とかそういった事に巻き込まれるのはごめんだと思っているのでしょう? 正直に言うと、そういう人たちの方が私や殿下にとっては信頼出来るのよ」
「信頼……」
アリアがそう小さく呟くと、クローズは「ええ」と頷く。
「いくら口で『信頼しています』と言われても、いつ手のひらを返されるか分からない。信じられない。もしかしたら本心じゃないかもと思ってしまうから」
「その点私は信頼出来ると?」
「あなたは最初。殿下の友人になる事を拒んだそうね」
「は、はい」
嘘ではないので否定はしない。
「普通であればいくら階級が低くても飛びつく話なのに、むしろあなたはそれを理由に拒んだ」
「……はい」
「多分。殿下にとってはそれがさらにプラスになったのだと思うわ」
クローズの言葉にアリアは思わず「え」と驚く。なぜなら、アリアとしては「ここまで拒めば関わる事もなくなるだろう」と思っていたからだ。
でも、その結果は……今である。
「殿下はね。自分の知っている令嬢とは全然違うあなたに興味を持って、多少強引な手を使ってでも友達になりたかったんだと思うわ」
「……」
「その過程は私は知らないのだけど……今の殿下はいつも楽しそうだわ」
クローズはどこか遠い目をしながら言う。
「――今の……ですか?」
「ええ。昔の殿下は……いつもどこかつまらなさそうな顔をしていたから」
そう言ってクローズは少し寂しそうな顔をした。
「……」
その表情はまるで「自分ではどうする事も出来なかった」と言っているかの様だった――。




