第五話
「とりあえず、兄上の周辺をもう少し洗ってみるよ。今は使用人の話しか知らないし、もしかしたら僕が何かを掴む前にお父様が何かを掴むかも知れないし、はたまた兄上が何かするかも知れない。こればっかりは僕も分からない」
「そう……ですね」
「でも、出来るのであれば兄上には目を覚ましてもらってその女子生徒と適切な距離感で接してもらいたいっていうのが本音だけど」
「……」
それはそうだろう。なんだかんだ言って二人は兄弟だ。穏便に済ませたいと思うのは当然の流れだ。
でも、いくらキュリオス王子が望んでも……そうならない可能性の方が高い。
何せ相手はアリアと同じ『転生者』である可能性が高いからだ。
しかも、アリアとは違い『リメイク版』と思われるこのゲームの世界観をよく理解していると推察される。
そうでなければ一年くらいでキュリオス王子以外の攻略キャラクター全員を陥落するなんて芸当は出来ないはずだ。
「……」
ただ、正直なところ。アリアとしては一つ疑問があった。
それは「本当に好感度を上げられる言動の選択肢だけで全員を攻略を出来たのか」という点だ。
アリアとしてはそれが謎だった。
なぜなら、このゲームの攻略キャラクターは王子兄弟と騎士団長の息子。宰相の息子に国一番の商人の息子と学校で魔法道具などを販売している店員――。
その数、六名。
この世界は前世と文字こそ違うモノの、ありがたい事に時間の流れや月は同じなので特に違和感なくなじめているのだが……。
それを踏まえて考えても、キュリオス王子はともかく店員はまだ分からないとしても残りの四人を攻略するには物理的に時間が足りない。
そもそも、このゲームは魔法学校に在籍している「三年間」をかけて一人を攻略する形になっている。
つまり、元々のゲームでは攻略キャラクター全員が主人公を好きになる『ハーレムエンド』なんてモノは存在していなかったのだ。
仮に『リメイク版』で実装されたとしても、たった一年で四人を攻略するのは難しいと考えるのが普通だろう。
「あの……」
そこでアリアは少し考えて、帰ろうとするキュリオス王子を呼び止めた。
「ん?」
「あの、大変申し訳ありません。差し出がましいとは思うのですが、もう一つお願いしたい事がありまして……」
アリアがそう言うと、王子は「この際だから何でも言って」と優しく微笑みかける。
「あ、ありがとうございます。あの、リチャード王子の周辺の調査はもちろんなのですが……」
「うん」
「王子が何かプレゼントをもらっていないかという事も詳しく調べてもらえませんか?」
「プレゼント……かい?」
「はい、それも頻繁に――」
そう言うと、王子は「ふむ」と考え込む。
「えと」
「ああ、ごめん。実は兄上付きの使用人からその話は聞いていてね。ここ最近やたらと同じ物をもらって帰ってくる……と」
「え」
「ただ、それを使用人に渡さない様にしているらしくて、それがどういった物なのかは知らないらしい」
王子のその言葉を受けて、アリアは確信した。
多分、リチャード王子がもらったのはゲーム内で「チート並みに親愛度を上げる」と言われていた『魔法アイテム』の一つ「チョコレートクッキー」だと言う事を。




