第二話
「せっ『先祖返り』ですか」
聞いた事のない言葉にアリアがそう聞き返すと、陛下は「うむ」と頷く。
「たっ、確かに我が家は男爵の位の中でも魔法を使えたという方は多かったとはいう事は知っておりますが」
その中に『先祖返り』と呼ばれる人はいなかったはずだ。
「まぁ、そうだな。そもそも『先祖返り』とされていた者たちは昔から公にされる事はなかったからな」
「ええ。でも、王家の文献にはしっかりと記録として残っています。確か、キュリオスと出かけるはずだった目的地の一つに魔法図書館があったのと聞いているけれど」
「はっ、はい」
そう、あの日もアリアとしては「魔法図書館に行く」からこそ、王子の誘いにのったと言っても過言ではなかった。
アリアの答えを受けて王妃様は「そうなると……」と言いながらキュリオス王子をチラッと見る。
「キュリオス。あなたも彼女が『先祖返り』の可能性がある事に気が付いていたのね」
そう尋ねると、王子は「はい」と素直に答えた。
「え。あ、あの」
話がどんどん進んでいくという事が中で、アリアは自分の事のはずなのに一人置いていかれている様な気になり、思わずその流れを止めた。
「どうした」
「す、すみません。私の勉強不足で大変申し訳ないのですが、そもそも……その『先祖返り』と言うのは一体……」
分かっているのであれば何も問題はなかったのだが、その言葉自体初耳の人間にとっては全然分からない。
「おお、そうだったな。しかし『先祖返り』とは言ったものの……読んで字のごとくなのだが」
どうやら本当に文字通りらしく、陛下は困った様に顎に手を当てる。
「古来の……私たちのご先祖様はみんな呪文を遣わずに魔法を使えたのは知っているかしら?」
そんな陛下に代わり王妃様は私に尋ねた。
「は、はい」
「うむ。簡単に言えば我らの言う『先祖返り』とは今ほどソラージュが言った様に『呪文を用いらずに魔法を行使出来る者たち』を指すのだが」
「で、ですが私は……」
正直言って全然信じられない。
アリアとしてはやはり「自分はあくまで貴族の中でも低い位の『男爵』なのに」という事がどうしても尾を引いている。
確かに、自称「神」を名乗るうさんくさいヤツから「膨大な魔力」は押し付けられたが……。
「――あなたの様な無意識に魔法を使ってしまったという話も過去の『先祖返り』の方たちの中にはいた様です。特に幼少期は感情の制御が出来にくいですから」
「……」
王族とは言え、王妃様はやけに『先祖返り』に詳しい様だ。
「正直な話。貴族の中でも位の高い人の方が魔法を使える可能性が高いという事が実証されているわ。でも、私は魔法の才能には恵まれなかった。だけれど、どうしても魔法への憧れは消せなくてね。だから、魔法の歴史とか研究とかたとえ使えなくても魔法に関する勉強はずっとしていたのよ」
「そう……だったんですね」
ゲームの設定資料集の中で王妃様や攻略キャラクターのパーソナルデータの説明には「星」が付けられていた。
そして、王妃様は「魔力」には星が一つも付いていなかったものの「魔法の知識」に関しては最大の星五つの評価が付いていたはずだ。
「……」
しかし、それはあくまで資料集の中での話。
つまり「どうしてそうなった」といった経緯などの説明は何もなく、そこに載っていたのはただのキャラクターのパーソナルデータでしかなかった。
だから、こうして改めてゲームでは一切触れられていなかった話や説明を聞くと、アリアは「ああ。私、本当にこの世界で生きているんだ」という気持ちになる。
「年々魔法の使えるモノが減っているという事が深刻化している今。そなたの様な『先祖返り』が現れたのは何か意味があるのではないか……私はそう思っている」
「意味……ですか」
「そうだ。しかし、それよりも先に決めねばならぬ事がある」
「なっ、なんでしょう」
「――そなたの処遇についてだ」
「!」
陛下にそう言われた瞬間。アリアは思わず手に持っていた我が家が一年かけても弁償出来ないほどのお高いティーカップを落としそうになった。




