第五話
「――失礼致します。お父様、お母様。アリア・ウォーレン様をお連れしました」
キュリオス王子は丁寧な口調でエスコートをしていた腕を離してそっとアリアから離れる。
それを合図にアリアは「すぅ」と息を吸い――。
「アリア・ウォーレン。ただいま参りました」
そう言って深く頭を下げる。もちろん名乗る前にスカートを両手で軽く持って……である。
「――面を上げよ」
「……はい」
陛下に言われた事をキチンと自分の耳で聞き取りゆっくり頭を上げると……そこにはゲームで見た事のある様な煌びやかな服と比べると、少し軽装な二人の姿がいた。
「突然の呼び出してすまない」
「い、いえ。きょっ、今日はお日柄もよく――」
前世でアリアが二人を見た事があるのは設定資料集とゲームの中のみで、それらを見てアリアは陛下は「とても厳格な人」という印象を受けた。
だからこそ、男爵令嬢である自分にこんな優しい言葉をかけてくれるとは思っていなかったため少し驚いた。
「フフ。緊張しているのね。大丈夫よ、別に取って食べようだなんて思っていないから」
そう笑顔で答えるのは王妃陛下だ。
「……」
こうしてお二人を見ていると……リチャード王子は陛下。キュリオス王子は王妃様に似ている様に見えた。
いや、ゲームをしていた時からそう思ってはいたのだが……改めて見ると余計にそう感じた。
「キュリオスから話は聞いておる」
「ええ、それに騎士たちや護衛の者たちからも詳しい報告を受けています……が」
そこで言葉を区切ると、王妃様は「まずは……ごめんなさい」と謝った。
「お、お待ちください! そんな、王妃様から謝罪される様な事なんて何も……」
「いいえ。あなたがいなければキュリオスはどうなっていたか……。それなのにあなたには以前、我が王宮で開かれたお茶会に参加し、不当な扱いを受けたと」
王妃様は本当に申し訳なさそうな表情でアリアを見る。
「そ、その事に関してはキュリオス様が対応して下さいましたから……」
「でも、こちら側の不手際だったのは事実。命の恩人とも言える相手に……本当にごめんなさい」
「……」
アリアの中であのお茶会の話はそれが終わった時点で、既に終わったモノとして考えている。
確かにあの一件がきっかけで王子と関わりが出来て今の状況になっている……とも言えるが、既に終わってしまった事には変わりないのだからどうしようもない。
「ほっ、本当に大丈夫ですので」
そう言うと、王妃様は「あなたは優しいのね」と笑顔で言うと、そのまま「どうぞ、こちらに座って」とアリアをテーブルへと誘導した。
「しっ、失礼致します」
テーブルへと向かうと、王宮専属と思われるメイドがイスを引いてくれ、アリアはそのまま座る。
「――すまないな。そういった事が起きぬ様出来る限り改善しようとしているところではあるのだが……」
「……いえ」
申し訳なさそうに言う陛下に対し、アリアはそう答えるので精いっぱいだった。
「……」
陛下が言う「出来る限り改善しようとしている」というのは『身分の差』の話だろう。
実は攻略キャラクターの「リチャード王子」の本当の父親は陛下ではなく、正確には陛下の弟君が本当の父親で、本当の母親は身分の低い貴族の娘だった。
コレは公式の設定で、要するに「リチャード王子」は『身分違いの恋』の末に生まれた子供だったのだ。
しかし、当時はそんな『身分違いの恋』は許されず、二人は結果として引き離された。
だが、実は二人が引き離された時点で既に母親はリチャード王子を身ごもっていた。
そしてそれを知った王家はなんとその母親から王子を奪い取ったのだ。
大事な子供を失った母親はその悲しさから自害し、またその事実を知った陛下の弟君も原因不明の病から後を追う様に亡くなった。
――それ以降。
そんな悲劇を二度と引き起こさないために陛下は「身分制度の見直し」や「恋愛の自由」などの政策を積極的に行っている。
しかし、古くから続く慣習というモノはなかなか直らず、中には難航している事も多いらしい。
それでも陛下の試みに賛同する者は多く、国民から多大な支持を得ていた。




