第三話
「でっ、殿下」
――現れたのはキュリオス王子だった。
「そろそろ来る頃じゃないかと思ってね」
そう笑顔で言う王子だけど、アリアは驚きのあまり目を白黒とさせる事しか出来ずその場で固まってしまった。
「……」
しかし、リアの「殿下」とたしなめる様に言った声でハッと我に返った。
「――どうされたのですか? わざわざ馬車にまで来られて……」
さらにリアは言葉を続ける……が、その声にはかなり冷たい感情が見え隠れしている様に聞こえる。
「あ、ああ。そうだった」
アリアとしては「その言い方は下手をすれば不敬と取られるんじゃ」と不安になったが、王子はリアに驚きつつ笑顔のままだ。
「本当であれば王宮で待っているつもりだったんだけど……お父様とお母様からエスコートをした方がいいんじゃないかって話になってね」
「……え?」
アリアは思わず耳を疑った。
なぜなら「エスコート」というのは婚約をしている者同士。もしくはそれなりに仲の良い友人同士。それか家族間でするモノだという認識だったからだ。
「まぁ。実は今日、君が行くのは謁見の間じゃなくて急遽王宮の庭園に代わったから、元々誰か案内の者が来る事にはなっていたのだけどね」
「はぁ」
確かに「当初の予定とは違う場所に変更になったのであれば、誰か案内の者が来る」と言うキュリオス王子の言っている事は理解出来る……が、そこから「エスコート」という事になるのだろうか。
「でも、実はこの王宮には庭園がいくつかあってね。おまけにものすごく迷いやすいと来た」
「なっ、なるほど」
そこまで言ってもらえばアリアもさすがに分かった。
「本当であれば使用人が対応すべきなんだろうけど……」
「けど?」
「あのお茶会での一件。実はお母様の耳にも入ってね。その詳細を知ったらもうカンカンに怒っちゃって……それで、お母様から『あなたが行きなさい』って」
「そっ、それで殿下が来られた……と」
アリアが結論付ける様に言うと、キュリオス王子も「そういう事」と言って頷く。
「まぁでも、お父様もお母様の言っている事に納得していたみたい」
「……」
「それに、二人とも早く君に会いたいから僕に案内をさせたいんだと思う。ほら、僕はここの構造をよく知っているから」
「そっ、それは……恐縮です」
多分、今日呼ばれたのは「事件の詳細」というよりも「アリア自身の事を色々と聞きたいから」という事はアリアも何となく分かっている。
「――君の事はいつかお父様にもお母様にも話さないといけない事だとは思っていたから……ちょうど良かったけどね」
「……」
それは王子に「魔法の事」を知られてたから何となくアリアも察していた。
ただ「それがいつになるか」という明確な時期までは分からないままで過ごしていたので、アリアとしては「意外に早かったな」という感じていたのが正直な感想である。
「君は……自分の事を知られるのは不本意かも知れないけれど」
「!」
アリアは思わず驚きの表情でキュリオス王子を見ると……。
「君は自分の話になると身構えるからね。さすがに僕でも分かるよ」
「……」
「――でも、コレだけは知っていて欲しい」
「なっ、なんでしょう」
「僕が君に興味を持っているのは『魔力』じゃなくて、君自身の事だって事を……ね」
キュリオス王子が笑顔ではなくいつになく真剣な表情で言うと、アリアはその表情に思わずドキッとしてしまい「え」と事を言う暇もなく、王子に手を引かれてそのまま馬車を降りたのだった――。




