第二話
そうこうしている内にあっという間に当日を迎えた――。
「――お嬢様。大丈夫ですか?」
ただでさえ緊張しやすい状況のはずなのに、なぜかリアはいつもと変わらない様子でアリアに尋ねる。
「きっ、緊張してきたわ」
正直、リアの冷静さを分けて欲しいくらいアリアは今までに感じた事のない緊張感に包まれていた。
「……」
前世では散々貧乏くじを引かされてしまった故に人前に出る事も多く肝が据わっている方だと思っていたアリアですら、今回はさすがに緊張している。
いや、前世の場合は「誰かしらやらないといけない」といった場面だったからこそ嫌々ながらもしていたが、今回は状況が全然違う。
あのお茶会にも陛下と王妃様はいたが、それ以上にあの場にはたくさんの参加者がいて、アリアはその中でも目立たない存在の「モブ」という立ち位置で、挨拶ももはや流れ作業の様だった。
しかし、今回はアリア一人でこの国でトップに君臨するお二人に会わなければならない。
コレで「緊張するな」と言う方が「酷」というモノではないだろうか。
「だっ、大丈夫かしら。ドレスに着られていない?」
キュリオス王子がくれたドレスがとても高価なモノだという事は普段気慣れていないアリアにもすぐ分かった。
だからこそ「馬子にも衣裳」という状態になっていないか不安だったのだ。
「大丈夫です。とてもお似合いですよ」
「そっ、それなら良いけど……やっぱり不安ね。失礼がないようにしないと」
「マナーの勉強もずっとされています。大丈夫かと」
リアがいつもと変わらず淡々とした様子でアリアの質問に答える。
「そうだと……良いのだけど」
「大丈夫です」
正直、いくらリアに「大丈夫」と言われても不安でいっぱいなのは何も変わらない。でも、こうして冷静な人を見ると……自然と自分も落ち着いてくる。
「ですが、お嬢様が緊張されてしまうのも分かります。今からお会いするのは国王陛下と王妃陛下ですから」
「……ええ」
ゲームの中で国王陛下と王妃陛下が出てくるのはリチャード王子とキュリオス王子各ルートのどちらとも終盤だ。
主人公はかなり活発で物怖じしない性格として描かれていたし、前世でプレイヤーの立場だったアリアはどこか客観的に見ている様な……それこそ「お客さん」としてそのプレイ画面を見ていた。
「……」
しかし、今回は当事者でこの世界を生きる人間。ここで対応を間違えてしまえばその時点で「ジ・エンド」となってしまう可能性だってある。
「……ジ・エンドなんて簡単に言えちゃうんだから怖い話よね」
「どうかされましたか?」
「――いいえ。こっちの話よ」
「?」
不思議そうにこちらを見ているリアを誤魔化しながらアリアは微笑む。
「そう……ですか」
「ええ」
「ところで……」
「ん?」
「まさかドレスと共にネックレスも送られて来ているとは……」
「ああ、コレもほんのお詫びのつもりらしいわよ。面倒な事に巻き込んでしまったから……って」
そう言いつつアリアはネックレスを触ると、ネックレスにあしらわれている宝石が淡く光る。
キュリオス王子が送って来たネックレスはあえてたくさん宝石が使われている様な目立つモノではなく、一つの宝石が使われており、その宝石は控えめながらも存在感を感じさせる。
「……」
アリア自身そこまでアクセサリーを持っているワケではないモノの、豪華なモノをふんだんに使用しているモノではなくシンプルなモノにしたところを見て、キュリオス王子のセンスの良さを感じた。
「でも、そこまで気に病まなくても……とは思うのだけど」
そう「巻き込む」といった点ではむしろアリアの方が申し訳ないと思っていた。
なぜなら、王子がアリアと関わった事によって今回の事件が起きたからだ。そして、結局のところ事の発端はやはりあの『お茶会』という事になってしまう。
ただ「あのまま言いたい放題されたい放題で黙っていられたか」と聞かれると、答えは「NO」になるのだが。
「キュリオス殿下が『お詫び』とおっしゃられているのでしたら、その謝罪は素直に受け取るのも一つの手かと」
リアの言葉にアリアも「そうね」と答える。
そもそも、コレを送って来たのはキュリオス王子で、その理由が「お詫びの気持ち」というのであれば、ここは素直に受け取っておくべきだろう。
「それにしても、あの時はもう少し上手くやればよかったわ」
そうアリアがリアにも聞こえない様な声で一人小さく呟いた瞬間。
「お――っと」
「……」
どうやら馬車が止まったらしく、リアはそのまま馬車を操縦している人と何やら話こんでいる。
「――お嬢様」
「うん」
リアの言葉を受け、馬車を降りよう扉に手をかけた時――。
「え」
突然何の前触れもなく馬車の扉が「バンッ」と大きく開かれた。




