第五話
「……」
──結局のところ「街の散策」なんて言っているどころではなくなってしまい、男たちはそのまま現場で即確保。連行という形で「王子とのお忍び」は終わった。
「……ごめん」
キュリオス王子が申し訳なさそうに言ったその姿を……アリアは今でもよく覚えている。
それは悲しいとか寂しそうとかそんな感じじゃなくて……本当に申し訳なさそうな……そんな表情で、前世のゲームの中でも見た事がない表情だった。
ただ「王子襲撃未遂」という事の大きさに対し、実はそこまで大きな騒ぎにはならなかった。
でも、それで済んだ理由の一つは……やはり出てしまったアリアの悪い「癖」のせいだと思われた。
ただ「今回ばかりはその「癖」に感謝しないといけないかも知れない」とアリアは思った。
なぜなら、そのおかげでキュリオス王子は怪我をする事もなく、犯人たちもすぐに捕まえられたのだから……。
ちなみに、本来であれば当時キュリオス王子を護衛していた人たちは「職務怠慢」と言う事で王子が襲撃された時点でその責任を取らされてしまうらしいのだが……。
どうやら今回はキュリオス王子がアリアを追いかけるためにその護衛を振り切ってしまった事の方が重大という事らしく、結果的に「お咎めなし」という事になったらしい。
「そう」
その話を後でリアから聞いて、アリアは「本当に良かった」とホッと胸を撫でおろした。
そして、キュリオス王子も今回の一件をものすごく反省したらしく、国王陛下も王妃陛下もそのあまりの落ち込むぶりからキュリオス王子をキツく叱るつもりはないらしい。
「まぁ、そんな事よりも……なんでしょうね」
そう、今回の一件。賊が狙っていたのは「リチャード王子ではなく、キュリオス王子だった」という事が調べによって明らかになった。
アリアとしては「意外にすぐに分かったなぁ」と思った。
本来であれば、こういった話はなかなか犯人が依頼主の名前を言わずに捜査が難航しそうなモノなのだけれど……。
しかし、どうやら仕事の割に報酬が少ない事に不満を抱いていた賊の長が腹いせに捕まってすぐに全て話したらしい。
「……」
その結果。彼らを雇ったのはリチャード王子を国王にしようとしている大きな貴族の一つである事が分かった。
アリアとしては前世でゲームをプレイしていて知っているのだが、こうした襲撃は実はキュリオス王子が魔法学校に入学した後にもキュリオス王子のルートで何度か発生している。
その原因は、魔法学校入学の時点で既に「ほぼ」リチャード王子で国王が決まっているという事だ。
普通に考えれば「ほぼ」と言う事は、そのまま行けば国王になる事は決まっていると言っている様なモノで、ただ月日が経つのを待てば良いだけの様に聞こえる。
しかし、どうやらこの「ほぼ」というのが一部の貴族にとっては気に入らないらしく、早く決定づけたいその貴族たちが暴走した結果……という事が原因らしい。
「考えてみたら、この時はまだその『ほぼ』すら決まっていない可能性もあるのよね」
つまり、今は絶賛王位継承争いの真っ只中という事になり、今回の一件が起きた理由も合点がいく。
「それにしても……」
今回の一件。
もちろん世間に出すワケにはいかない事件である事は重々アリアも承知だったのだが……。
実はこの一件でアリアの事は国王陛下や王妃陛下の耳に入る事となった。
そしてアリアとリアだけでなく、犯人逮捕などに関わった人たちにも箝口令が敷かれ、アリアには「王宮に来る様に」というお達しが出た。
「……」
いつものアリアであれば、この時点で天を仰いでいるところなのだが……それ以上に実は別の問題が発生していた。
それは──。
「はぁ」
実はあの一件以降。アリアはなぜか適当な場所で手をかざすと簡単な説明書きの……まるでゲーム画面の様なモノが見えるようになっていたのだ。
「なんか……ものすごく嫌な予感」
アリアはそう小さく呟いてその画面の様なモノを軽く払って消すと、また一人で今度は重めのため息をついたのだった──。




