第二話
「……お嬢様」
「うん。そろそろ……かな。それにしても……」
チラッと外を見ると、外にはたくさんの人々が行きかっている。
「本当に……たくさんの人がいるのね」
「この辺りに朝に市場が開かれているそうです」
「……なるほどね」
実はアリアは先日のお茶会や先ほど言ったお兄様を訪れた時以外、外に出た事がない。
両親はお互いがお互い自分たちの都合ばかり考えて行動しているため、幼い頃からアリアの事は視界にすら入れてもらえず、基本的に使用人がアリアの世話をしてくれた。
そもそも、どこで攻略キャラクターたちと出会うか分からないという事もあって、あえて出なかった……というのもあるのだが。
「……」
正直、両親……特に母親はアリアに直接的な危害は加えないものの、宝石箱の中に入っている宝石以外のアリアの持ち物を勝手に持ち出したり使ったりする事もあるかなり困った人物で、そのどれも幼い頃に亡くなった祖母の遺品だった……。
どうやらアリアの祖母と母親はかなり仲が悪かった。
しかし、今の家の爵位は元々祖母の代に授かったモノという事もあって祖母が存命の時はあまり強く出られなかったらしい。
ちなみに父は嫁いで来た婿養子だった……と知るのは、この時よりももう少し後になるのだが。
「――と」
「どうやら着いた様ですね」
そして先にリアが颯爽と馬車を降りる。
「――お嬢様」
「うん」
周囲の安全を確認したリアに促されゆっくりと馬車を降りる……と。
「──こんにちは」
アリアの姿に気が付いたのか、キュリオス王子は馬車に近寄って声をかけた。
「……! で!」
アリアは「王子を待たせてしまった」という事実に驚き、思わず「殿下」と言いそうになると……。
「シー……」
王子はアリアの顔の前で人差し指を立ててそれを制した。
「……え」
アリアはその行動に固まっている……と。
「今日の散策は『お忍び』だからね。だから出来れば『殿下』とは呼ばないで欲しい」
「……」
言われてみると、確かに王子の服装はいつも着ているものとは全然違う。
「君もそのつもりだったのだろう?」
そう言って王子はアリアの目を指す。
分かりやすい頭ではなく、目の方を指したのは……多分『色変え』の魔法を使っているアリアに対する配慮だろう。
「……気づいていましたか」
「普通は気づかないほどの自然さだけどね。さすがだなぁ」
そう言いつつ王子は笑顔を見せる。
「恐縮です」
「ふふ、それじゃあ……そうだね。とりあえず図書館に向かいつつ市場の方を見て行こうか」
王子はそう言って自然とアリアの前に手を差し出す。
「?」
しかし、アリアはその王子の行動の意味が分からず固まってしまった。
「市場ははぐれやすいし、人も多いからね。あんまり護衛も付けられないから」
「な、なるほど」
いつものアリアであれば「男爵家の私が……」とかなんとか言って断っていただろう。
しかし、この時のアリアは思っている以上に市場を行き交う人の多さに圧倒されてしまい、思わず王子の手を取った。
「じゃあ、あの。お願いします」
「うん。任された」
アリアが手を取ってくれた事がよほど嬉しかったのか王子の顔は満面の笑みだ。
「……」
笑顔にアリアも思わず照れてしまった。
でも、この時のアリアは知らなかった。護衛が少ないという事は……それだけ自分で自分の身を守らないといけないという事を……そしてその意味を――。




