第一話
「うーん……」
アリアは馬車の中でリアに小さい鏡を見せてもらいながら不自然なところがないか最終確認をする。
万が一にでも不備があっては王子に迷惑をかけかねない。
それに、実は『色変え』とも言われるこの魔法は比較的簡単な魔法に入る部類なのだが、それでも初心者はつまずきやすい魔法の一つでもある。
そう言われる理由が……。
「リア、後ろ……どう? ちゃんと変わっている?」
そう言うと、リアは「完璧でございます」と真顔で答える。基本的に思った事を遠慮なく言うリアの賛辞は素直に嬉しい。
「ありがとう」
「いえ。しかし……」
「?」
「ここまで見事に変わるのですね」
「ああ」
そう、先ほどアリアが気にした様に実はこの『色変え』の魔法。
自分から見える部分である「目の色」や「髪」は比較的簡単に変えられるのだが、問題は自分から見えない後ろ。コレがバラつきなく変えるのが難しいのだ。
アリアの前世では当たり前の様におしゃれなどで髪を簡単に染められていたが、この世界ではそんな技術はない。
だからこそ、この『色変え』は「いかに前後ろ差のない様にキレイに変えられるか」という事が重要なのだ。
「ですが、ここまでしなくてもよろしいのでは?」
「まぁ、出来れば目立つ事は避けたいしね。ほら、子爵以上の位を持つ人たちは黒っぽい髪と目をしている人が多いから」
そう、そして悪役令嬢であるクローズ様も同じ。
「――なるほど。賢明な判断です。ですが……」
「?」
「今日一日そちらの魔法を使用され続けるのですか?」
「ああ」
リアの指摘はもっともだ。
実はこの『色変え』の魔法はその難易度よりも意外に魔力を食うため、持続時間が短いという欠点がある。
だから本当であればこの魔法は目的地に行くまでの一瞬のカモフラージュとして用いられる事が多いのだ。
「今回の目的は町の散策と魔法図書館の訪問。魔法図書館は基本的に魔法を使える者しか利用されませんし、王族の方のみ利用出来る場所まででしたら大丈夫だとは思いますが……」
ただ『街の散策』となれば結構な距離を歩く事になり、魔法を持続させなくてはいけなくなる。それがリアにとって心配だったのだろう。
「それなら大丈夫よ。だってこの魔法を使ってお兄様の学校にこっそり行った事もあるのだから」
「なっ! それは……さようでございますか!?」
コレは誰にも言っていないお兄様とアリアだけの話だ。
でもまぁ、色変えの魔法を使ってメイドに化けて忘れ物を届けに行っただけなのだが。
「一度でいいから将来自分が通う事になる予定の学校をこの目で見てみたくてね」
コレが本音だ。
「執事のジルには迷惑をかけてしまったなぁって後で後悔したんたけど……」
それでも「この目で見ておいてよかった」と思っている。
「それに、お兄様にはすぐにバレてしまってちょっと怒られちゃったけどね」
「……なるほど。そうでしたか」
「ええ。お兄様はかなり鋭いから」
そう、実はアリアのお兄様は魔法探知能力にかなり優れており、アリアの完璧な『色変え』をすぐに見抜いたのだ。




