↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と小説家  作者: 彩葉もへじ
一章 プロローグ
PR
3/20

残る物語

「実は私ってこう見えて交渉上手かもね。」

 貰った財布を天高く放り上げながらアサンテは呟く。

「...そうですね。」

 私たちは今、屋敷から一番近い街の方に来ていた。

 着いた時には夕暮れ時で、大通りは多くの人で賑わっており、奥の方まで並んでいる出店からは様々な香ばしい香りが漂っている。

 建造物の殆どは煉瓦の屋根、石灰石を漆喰で塗られた壁。私の目に入る色は白、白、白。

 美しいまでに単調なこの景色。

 私はこんな素敵なものが並ぶ道を、真っすぐ歩めている。

 本来ならば、道端ですら許されないのに。

「この街はローズ家が近いことから奴隷反対の意識が高く、奴隷にも様々な権利が保障されています。」

「なるほどね~奴隷に優しい街ってことか。」

「はい。」

 それはきっとローズ家によるこれまでの実績のおかげだ。

 実際、道中に私たちが栽培した作物や肉。加工食などが道中で売られていた。

 ふと見たところ売り上げも申し分なさそうで、これは住民の方と良好な関係が築けている証拠だろう。

 いや、違うか。

 きっと私はそもそも外見からは奴隷であるだなんて誰にも分からない。

 顔に傷もないし、服は整えられているし、臭くないし、化粧だって。

 私はそういう生活をさせて貰っている。

 そういう幸せを頂いている。


 ならばこそ、主の命令は絶対。


 私は、今、私の目の前を歩く彼女を...。

 勿論荷物を奪うことが最優先だ。

 主からの命令は荷物を奪え→それが無理なら殺せ。

 つまり目的は彼女の”荷物”にある。

 それが一体何なのかは私には分からない。

 だけど、荷物を無くしたと知った時の彼女の反応と主の言葉。きっと相当貴重な物が入っているのだろう。

 貴族である主ですら手に入れないと思える程の物が。

 しかしそんな物、再び見つけたら今度は決して手放すことはないだろう。

 奪うなんて容易でないことなんて簡単に予想つく。

 だからこそ、最終的に私は....。

「ソファルちゃん聞いてる??」

 瞬きをした向こうから、アサンテは視界の真ん中で私のことを見つめていた。

「すみません考え事をしていました。」

「も~しっかりしてよ。私よりしっかりしてるんだから。今日の夕ご飯どうしようねって話。」

「そうですね...この辺りでは海鮮物が有名なので、新鮮な魚介を提供しているお店などはどうでしょう。」

「いいね!それでいこう!」

 人を直接殺した経験など私にはない。

 だけどやり方は知っている。

 一番手っ取り早く思いつくのはやはり寝込みを襲うことだろう。

 これが最も簡単で、最も単純だ。

 方法は絞首でも刺殺でも、あまり考えたくないが道具が必要ないという面では濡れタオルや枕での窒息なんかも考えられる。

 ...出来れば荷物、見つからないといいな。

 そんな甘い想いが湧いてしまうのは私がまだ未熟だからなのかな。


「んむ……でね、やっぱひ、おしゃかなはむひがいちばんなんだよ、けっきょく。」

 口に含んでいる物を飲み込んでから喋って欲しい。

 私の耳で聞き取った限りは多分、魚は蒸しが美味しいって言ってると思う。

「檸檬がいいですね。ハーブとバターが合わさって濃厚な味になっていますが、これのおかげで全体がさっぱりしていて食指が動きます。」

「評論家?」

「味覚と語彙力です。」

 私たちの食べ方は全く違う。

 私はナイフとフォークを巧みに使って魚の身を解しているのに対し、彼女は雑多にフォークで刺しては口に運び入れている。

 どちらかと言えば、ここで浮いているのは私の方だろう。こういった場所でもテーブルマナーを気を付けてしまうのはもう癖だな。こういった食べ方を学び、これまで使って来た。他の食べ方が出来ないんだ。

 マナーを知らない子供が、食器を雑に使うことが義務である様に、マナーを知っている私が、綺麗に食すこともまた義務なんだ。

「ところでアサンテ様、聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか。」

「いいよ、なんでも聞いて。」

 まずは何から聞こうか。

 最終的に聞きたいことまでの流れを作れるような質問は...

「探し物っていうのはどんな形状をしているんですか?小さなものなのか、それとも大きいのか。四角いのか、柔らかい布の鞄か。」

「トランクケースだよ。可愛い模様が付いた鞣し革のケース。サイズは、まぁ旅するには十分ぐらいの大きさで、サファルちゃんでも片手で持てるやつ。」

 特徴を聞くに、高値が付きそうな鞄。

 誰かに見つけられていたら、盗まれている可能性が高いな。

「...その、吹っ飛ばされたって場所覚えてますか?それが分かれば地図からある程度絞り込めます。明日はここの市場を散策して、見つからなかったら数日はその道中を探しましょう。」

「助かるねーこうやることをまとめてくれる子がいると。」

「ありがとうございます。ですが怖いのが、鞄は戻っても中身がない場合です。誰かに見つかっているなら、中身がない可能性は十分高いでしょう。」

 主が鞄に興味を持っている。なんてことはないだろう。

 私が聞きたいのはその中身。

 主が欲しがっている物は一体何なのか。

 もし鞄からソレのみが抜かれていて、私が空の鞄のみを持って行っても意味はないだろうしな。

「あーそれは大丈夫。私以外開けられないだろうし。」

「錠が付いているということですか?いや、だとしても壊せば鞄の中身は漁られます。鞄の錠っていうのは幾ら頑丈であっても開ける手段なんて...」

「いやいやそうじゃなくて、開けられる心配はないよ。あれはそういう物だから。」

 不思議と彼女は確信があるようだった。

 それほどまでに頑丈に出来ているんだろうか。

 旅に使うものだからそこまで頑丈だと重くて嵩張る気もするんだけど。

「じゃあ鞄さえ見つかれば万事解決ということですね。」

「そうなるね~。ん~ごちそうさま!」

 本人が中身は大丈夫と考えている以上、中身を尋ねるのは難しいな。

 なんせ私が聞く必要がない。

 ...まぁそう上手くはいかないか。

「では宿に向かいましょう。私が二部屋借りてきます。」

「え~一部屋でいいじゃん。女同士なんだからさ、また冒険譚トークしようぜ~。」

「いや、それではご迷惑に...。」

「ならないって~。それにお金だって無限にある訳じゃないんだからさ。節約しないと最後の方に苦労するかもよ。」

「その辺りは旅をしていたアサンテ様の方が慣れていそうですね。...分かりました、二人部屋一室借りてきます。」

 しかしこちらの方は上手くいったな。

 同じ部屋に泊まっていれば、その時になったら標的はすぐそこだ。

 そうして宿に向かおうとした時、ふと足が縺れる。

「ん?大丈夫?」

「問題ありません、ありがとうございます。」

 色々気張り過ぎて疲れが出たかな。


 それから問題なく一部屋を借りて、同じ部屋に泊まることになったのだが——

「ラフィキってさー、肝心なところで言葉足らずって感じじゃない?」

「....分かる。そもそもちゃんと自分の気持ちを伝えていたら起きなかったトラブルが多いっていうか、まぁそれによって事態が好転したこともありますけど....」

 私たちは完全に寝るタイミングを逃していた。

 私が一つ大きく見誤っていたことは、彼女の冒険譚に対する理解の深さだ。

 登場人物が多いこの御伽噺において、個々人の心情は詳しく描かれないことが多い。しかし細かな行動から見える心情など、そういった完全にマニアじゃないと考えないようなことも話せるし、話してくれる。

 つまるところ、とんでもなく話が合う。

「仲間を信用してるって本人は明言してますけど、私ならそんなに期待されても困るって状況に陥りそうです。」

「陥りそうっていうか、実際何人かその犠牲者だし。『お前なら、出来るよな。』って言われても出来ないもんは出来ないんだよ!!プレッシャー半端ないって!土壇場で自分の限界試されるのホントに迷惑。」

「ですよね~。」

 眠気でぽわぽわした中で言葉遣いにすら気配りが出来なくなりながらも、それでも面白い話をしているから寝たくない。

 そんな時間が続く。

 だけど彼女の方はまだまだ元気そうだ。

 旅をしていると生活バランスなんて定まる訳ないだろうし、慣れてるんだろうな。

「アサンテ様はいいですよね、私も昔旅してみたいなーって思ってたんですよ。」

「えー以外。」

「でないとラフィキ何度も読み返しませんよー。いつか私はこんな旅するんだって言って、これはお伽話だぞって言われても聞かなくて...。両親がいつも困ってた...。でもいつか絶対....」

 そう口にした時、自分が何を話しているか気付き口籠る。

 私が子供だった頃の話なんてこれまでしないようにしていた。

 過去の事を思い出すのは苦痛に繋がる。

 辛い過去が嫌でも思い返されるから。

「すみません、もうこんな時間ですね。そろそろ寝ましょうか。明日は市場の散策ですよ。」

「ご両親は...どうしたの?」

 私は俯きながら正直に首を振る。

 話を切り上げようとしたが、流石に無理矢理だったかな。

 まぁそうか。盛り上がってたのに急に冷めるんだもんな。

「...あまり聞きたくなかったんだけど、ローズ家って沢山の奴隷を従えてるんだよね。もしかしてサファルちゃんも、その——」

「はい。予想の通り私は奴隷の身です。」

 私は正直にそう言って、左脇腹に刻まれた蝶の焼き印を見せる。

 蝶はこの国にとって不幸の象徴とされており、それが押された私はこの国では奴隷であることを示していた。

「似合ってるね。」

「アサンテ様、冗談でも限度がありますよ。」

「本心だよ。私は蝶が好きなの。...そういえばトランクケースに可愛い模様が付いてるって言ったでしょ。それも蝶の模様なんだよ。」

 そんな悪趣味な。

 私にとって、この模様が刻まれるということは不幸の始まりでしかない。

 これが押されてから私の生活は地獄の様なものに変わった。

 あらゆることを受けた。

 本当にありとあらゆる苦痛を受けた。

 身体的にも精神的にも。

 この模様が消えるなら。と何度願ったか。

 そんなものが刻まれている鞄なんて....

「...待ってください。蝶の模様があるトランクケースなんですか?」

「うん。」

 これは幸か不幸か。

 もし鞄が誰かに見つかっていたとしたら、鞄が今どこにあるのか私には分かってしまった。

「明日、市場に行くのは止めましょう。代わりに向かうのは...神殿です。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。