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魔女と小説家  作者: 彩葉もへじ
二章 炎と氷の森
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19/20

貴方の顔

 その後、私たちは集落へと戻っていった。

 勿論その間に彼女らと遭遇することに注意を払って。

 森の中をなるべく周囲に軽快しながらゆっくりと移動し、集落に着いたらそこの人間に尋ねたり。

 しかし誰も彼女らの姿を確認してはいないらしい。

 馬車も今日はまだ一台も出発してはいないようだ。

 どうやったかは分からないが、神隠しかの様に彼女らの姿は忽然といなくなったのだ。

「さて、どうしましょうか。」

「どうするって?」

「せっかく余裕が出来たんです。ここで一泊するのもやぶさかではないでしょう。」

 ここに来た時は、タイムリミットのせいで急ぎ足でダンジョンへと向かってしまった。

 正直、この場所を堪能出来たかと言われたら「ふざけるな。」というのが率直な意見である。

 それから私たちは、このセグレトの森で今日一日を過ごすことにした。

 ...とは言っても、集落に着いた時にはお互いの疲労は限界で、宿を借りてすぐ私たちは眠りについた。

 目が覚めた時は既に昼過ぎ。

「起きてくださいアサ。」

 寝相でところどころ服がはだけている...。

 これじゃあ風邪をひいてしまうだろうに。

「だめ~。もうあと5年。」

 冗談かもしれないけど、貴方が言うとあり得そうで怖いんだよ。冗談だと言って欲しい。

 起こそうとしていると、扉がノックされる。

 そこにはここの長が連れを二人程連れて立っていた。

「サファル様...ですね。」

 どこか心そこにあらずの様子。

 一体どうしたんだろうか連れの人まで変な方向を向いて...。

「あ、あぁ。すみません。別のところで話しましょうか。」

「そ、そうですね。そうした方がいい。」

 お互い、今目にしたものに関しては忘れることにした。


 そのまま私は長の家へと招待された。

「今、お茶を淹れますので。」

「いえ、お構いなく。」

 そうは言っても、既に用意してたかのように私の前には茶が置かれた。

「お久しぶりです。昨日から来られたと聞いてはおりましたがすぐさまダンジョンの方へ向かったと。それで、パルテンツァ様はお元気ですかな。」

 私はこの集落に何度か訪れている。

 ローズ家の屋敷から近いし、交易も行われているからな。

 その規模は大きく、あの街の燃料は殆どがここで賄われている程だ。

 交流はローズ家先代の頃から行われ、その歴史は長く、深い。

 勿論、私が奴隷であることも知っている。

「はい。最近はここにも来れていませんが、近々お越しになりたいとおっしゃっておりました。」

 実際は元気とは程遠い、一家全滅の危機に瀕しているがそれは伝えない。

「では今回はサファル様と、あの方のみということで?」

「....まぁそうなりますね。訳がありましてこちらのダンジョンの調査をしていたのです。」

「そうなのですか....。しかしダンジョンの調査はこちらとしても助かります。なんせあの火柱は昼夜を問わず上っているものですから。しかし無くなっていないところから見るとあれは...」

 やはりここで暮らしている人にとって、あの存在は気になるところなのだろう。

 すみません。全責任は私と共にいたあの女性にあるんです...。

 でもそんなことを話す訳にはいかないので、私はアサのことは伏せた上で原因について答えた。

「成程、それではサファル様のお考えによると当分消えることはないと。」

「はい、正確な期限までは分かりませんがこれからも立ち上ると思います。しかし、あれを決して塞ごうとは思わないでください。塞ぐと現在噴出しているガスが別の場所に噴出し、最悪大火事に発展してしまいます。」

 こう考えると、鉄球の大きさがあの穴以上でなかったのは不幸中の幸いだった。

 あの鉄球がもし穴を塞ぎ、そして入口の方までガスが噴出した時のことを考えると足元がおぼつかなくなる。

 ここはそこら中が火の燃料となり、拡大を防ぐことなどほぼ不可能で、その全てが火に飲み込まれる。

 それから発生する被害は目を瞑りたくなるものだろう。

「肝に銘じましょう。それと他の者にも勝手なことをしない様にと伝えておきます。」

「はい、それがよろしいかと。」

 このことが皆に伝われば、少なくとも災いを消すなんていう目的で火を塞ごうとする愚かな行為に及ぶ輩は出てこないだろう。

「...例えば、ここで火事が起きた場合どのように対処するのでしょうか?」

「ご安心下さい。火の元を扱う場合は湖の近くで行うよう義務付けてますし、日々注意を払っております。」

 ...。

「私がダンジョンへと向かう際、乾いた土地がありました。そちらに移住するといったことは無いのでしょうか、」

「お言葉ですがサファル様。私たちはこの森のこの木々に住まう一族でございます。共に過ごし、共に生きてきた。この暮らしは私達の誇りなのです。」

 ...本当に、何も考えてないんだな。

「...こちらこそ皆様へ、そしてこの森への配慮が足らぬ発言をしてしまい申し訳ございません。」

「いえいえ、こちらこそ何分不自由な暮らしを好んでしている変わり者ですからお気になさらないで下さい。」

 現状に不満がないからだろうか。

 ダンジョンから火が上がった時に全焼のリスクを考えなかったんだろうか。

 それとも、滅ぶならそれもまた運命と受け入れているのか....。

「ですがなんとも意外でした。初めてですよねサファル様のみでお越しになるのは。」

 話題は変わって、今度は私について訪ねてくる。

 確かに私は常にパルテンツァ様の隣に立っていた。

 だが今回はアサという恐らく見覚えのない者の隣にいる。

 これでは訳が気になって仕方ないだろう。

 でも、どうしようか。

 先ほどから濁した表現をしてきたが、もう伝えるべきことは伝え終わった。

 今、私が既にローズ家の人間ではないことが知られたらどうなるだろう。

 とても良い未来があるとは思えないが...。

「大変申し訳ございません。現在私の雇い主は変わりまして、今はその方と行動を共にしているのです。パルテンツァ様がいらっしゃらないのはそういう理由です。」

 しかし私はあえて、ここで自分の立場を教えることにした。

 どうせここにはもう用事はなく、これから何度も訪れない。

 ここを発つのも今日か明日辺りになるだろう。

 ...決して五年なんてことにはしない。

 もしそれならこれまでのローズ家の努力の証を見たいと思ったからだ。

 だがその反応は私の予想通り、彼の目の色が変わった。

 当然と言えば当然だった。案内人の男が私に向けた侮蔑の態度。

 そこの長が彼らと違う訳がない。

「...ほう、なんと。これはこれは、なんともまぁ。」

 私の言葉を聞くや否や、すぐに長はどこかへと去っていった。

 更には出されたお茶ももったいないと言わんばかりに使用人が下げる。

 まぁ当然そういう反応をするよな。

 私への敬語はローズ家がバックにいたからこそ。

 立ち退きを要求しないのは、それでも私が無縁ではないと考えているからだろう。

 数年はパルテンツァ様の横にいた訳だし、そこまで無下には扱えまい。

 しかし彼らにとって他の者に雇われた奴隷など、最早敬う必要など何処にもない。

 パルテンツァ様がどれだけ意識改革に勤しもうと、こんな近くの集落にすら奴隷制度に対する差別は解消されていない。

 こう言っては何だが、ローズ家程の力を用いた慈善事業ならもう少し実現性のあるものに目を向けた方がいいと思ってしまう。それ程の根深さがこの国にはある。

「はぁ。気分悪い。」

 分かっていたが、結局彼らも権力に屈しただけの演技なんだろう。

 こんなことになるなら、口に出すんじゃなかった。

 いや、結末はどうせ一緒か。

 私は直ぐに家から立ち去り、そしてアサのいる宿へと戻った。

 

 そこには既に体力は満タンと言いたげな様子のアサ。

「さぁ、ここのグルメでもなんでも遊び尽くそう!!」

「いや、今日にでも適当な馬車でも捕まえて次の場所へ行きましょうか。」

「飽きるの早くない!?」

 理由を話してもいいのだが、そうした場合にアサがどんな行動をとるのかなんて想像出来ない。

 彼女は私たち奴隷という存在を尊重してくれている。

 差別的な行動、発言に対しては激昂してくれる程に。

 しかしここでいざこざを起こされれば、それはそのままローズ家との問題として降りかかるのかもしれない。

 今、ローズ家は瀬戸際に立たされている。

 迷惑はかけられない。

「せっかく準備したのに。」

「その気持ちは嬉しいのですが、ここの料理は殆ど輸入品で基本美味しくないですよ。それに水も携帯食もアサが寝ている時に既に購入しておきました。」

 辛うじて私の鞄が鞄としての役割を全うできるぐらいに保たれていて良かった。

 若干歪みで中が見えているが、多少の衝撃で開いてしまうといった事は無い。

「シゴデキ過ぎて逆に私の自由が損なわれてる気がする...。」

 勘違いして欲しくないのは、私は別に自分が奴隷かどうかなんて気にしてないし、奴隷解放にもそこまで関心はない。

 寧ろ解放される方が問題が大きいと思っている。

 国の経済の基盤となる産業。特に農作の殆どは奴隷による力作業によって成り立っている。

 それによって作物を安価に流通しているのだ。

 これを無くしてしまったら、大規模なインフレーションが発生し最悪通貨信用不全となってしまう。

 ローズ家では決して口に出さなかったが、パルテンツァ様もその問題には気付いていたはずだ。

「サファルちゃん、何かあった?」

 しまった、顔に出ていたか。

「いえ、特に何も....。」

 しかしアサは私から目を逸らさないまま不安げに見つめている。

 結局私も人。理屈では納得できても感情として処理できるかと言われればそうではない。

 自分を蔑まれたことに対して無視できる程無関心ではないのだ。

「やはり嘘は付けませんね。これに関しては馬車の中でお話しします。」

 それから私たちはやけに熱心に売り込んでくる御者と交渉しセグレトの森を出た。


 窓の向こうにはダンジョンの方角から立ち上っている火柱が少し見えた。

「全く変な話です。」

「どうしたの?」

「私もアサと同じでここが変だと思ったんですよ。文化として理解出来ても、やっぱりおかしい。なんせ、あそこにあるものはその全てが燃えやすいもので出来ています。空気も、木も、土も、ダンジョンの地下には大量のガスだってあった。住人は皆木の上で木製の住処で暮らし、あらゆる物が木製。あれほど火と相性がいい場所なんて知りません。今回は火柱が縦に伸びてくれましたが、それ以外にもあそこには多くの危険が眠ってる。」

 例えば雷が降ったとして、それで火事が起こったら?

 外から来た人が火を使い、間違えて引火してしまったら?

 火を恐れるのは結構だが、火事が起きた時の事を考えていなさすぎる。

 大体どうして地上に住もうとしないんだ。

 私たちがダンジョンへ向かう際も、帰る際も比較的乾いた場所にあると思っていた『地上に暮らせない理由』なんてものは見つからず、開拓すれば今すぐにでも移住出来るだろう。移動は不便だし、住処では釜戸も使えない。これでは発展が遅れて当然だ。

 それにレンガ造りの家でも建てられたら火事のリスクも幾分か減らせる。

 それなのにそうしない。

 自ら火を恐れる癖に火を遠ざける努力だけで、火を飼い慣らす努力をしていない。

 これでは先ほど挙げたようなことが起きた時に、対処のしようがないだろう。

 損害を被るのは貴方達ではなく、そこと交易している人達にも及ぶというのに。

 ...アサにはそういう文化を楽しめと言っておいて、結局私もリスペクトが出来ていない。

 勿論、これらは全て私の憶測でしかない。

「人は変われる。なんていうけどさ、基本的に人は群れてると変わらないよ。特に時の流れに身を任せてるだけなら意識なんてものは一切変わらない。」

 要はそういうことなんだろう。

 今、それは起きていない。だから対応する必要がない。今が合っている。

 そういう意識が集団に形成されてしまっているんだ。

「結局、奴隷に対する意識も同じなんでしょうね。」

「なんの話?」

「さっきの続きですよ。試しに私がもうローズ家の人間じゃないと伝えたら、途端に目の色が変わったんです。」

「もしかして、態々馬車でこの話をしたのって...」

「アサなら何をするのか分かったものではないので。」

「私のこと狂犬か何かだと思ってるでしょ!」

 バレたか。

 ただ、その怒りに満ちた表情を見ただけで私の選択が間違っていないことは明らかだった。

「...アサ、私が今何を考えているか教えましょうか?」

「うん、聞かせて。」

「このまま、あの森に住む人には何も変わって欲しくないって考えてました。」

 このまま彼らが変わらなければ、いつか必ず痛い目を見る。

 それはこの地について知りよく分かった。

 だからこれは当てつけだ。

 当てつけで言っている。

「忘れてください。...ただの一奴隷の戯言です。」

「そう?私にはサファルちゃんが酷く悲しんでいるように見えたよ。」

 私はパルテンツァ様の努力を知っている。その妻ヴェリタ様の夢を知っている。

 だが、彼らの懸命な活動は隣の集落にすら伝わっていなかった。

 無駄だったんだ。

 その事実が私にはとても悲しい。


 奴隷の私は夢を叶えた。今も叶え続けている。

 なのに貴族の彼等の夢は叶いそうにない。

 その差は一体なんなのだろう。

 アファは奴隷の夢なんて叶う訳ないと言った。

 これはきっととてつもなく叶いづらいという意味だろう。

 それなら、ローズ家は夢を叶えやすい地位でありながらその身の丈にすら見合わない夢を持った愚か者ということだろうか。

 人と人の間にある差別を無くしたいという願いが、そこまで身の丈を必要とするような願いだろうか?

 私の中の理想と現実が入り混じるが、決して合わさらないのが分かる。

 夢...夢か...。

「そういえば、アサには夢ってあるんですか?旅する目的は星の書を集めることみたいですけど。」

「正直私の人生もうエンドロールみたいなものだからなぁ。あれを集めてるのだって、この世界に魔力の残滓を無くすための後始末みたいなものだし。」

 エンドロールか。もうやりたいことなんてやり尽くしたという意味だろうか。

 そういえば、アファと話している時に気になったことがあった。

「星の書を集めてるなら、彼女らと一緒に行動するのがいいんじゃないですか?彼女らと目的は同じですよね。」

 どちらも機械(アーティファクト)の回収。それによって魔中毒の被害者を減らすという目的では共通している。

 彼女らは少々血の気が多い印象だが、協力出来ない程ではないと思う。

「あいつ等の目的は私とは違うよ。私は機械(アーティファクト)をロストテクノロジーにしたい。だけどあっちは機械(アーティファクト)の代用品を作ろうとしてる。そのためのサンプル集めってのが本懐。あの武器見たでしょ?あれは水晶機って言って、現代に作られた機械(アーティファクト)。あいつ等はもう一度魔力に満ちた世界を作りたいんだ。」

「それの何がまずいのでしょうか。」

 話を聞いていると、相手を否定する気がなくなってくる。

 寧ろアサのやっていることの方がかなりもったいないことをしていると思う。

 だって魔力が再び満ちた世界なら逆説的に全人類が魔中毒に怯える必要はなくなり、アサだって自由に魔法を使える。

 機械(アーティファクト)は活気を取り戻し、便利な世の中になるはずだ。

「...サファルちゃんが思っている程、あの時代はいいものではないよ。勿論今より便利なことは多いし、色んな事が出来たけど、そのせいで人々は我慢というものを失っていた。」

 どこか遠い目をして語るアサ。

「なんでも出来るから、さらに出来ないことを出来るようにする。その行き着く先がどんなものだったか教えてあげようか?」

 そう言ってアサは私の額に指で触れる。

 すると、私の脳内に様々な情報が流れ込んできた。

 そこは今ある世界とは程遠く、薄暗いのにどこも明るい。

 活気があるのに生物がいない。

 綺麗に漂白された空間が空までも覆いつくしていた。

 視界は動かせず幾つも無機質な場面を流し込まれ、その度に悲しい気持ちになる。

 そして、最後に映し出されたのは何かの巣のような場所だった。

 広い空間の中央には大きな柱が立ち、その周囲を不思議な球体が天井まで覆っている。

「これは....?」

「これが魔法があった時代の終極点。中央に聳えるのが自己思考魔法っていうもので、自らが新たな魔法を開発できる。最早人が魔法を生み出すのではなく、魔法が魔法を生み出す時代になったんだよ。そして周囲にいるのは人。生きるために必要な部分だけを残されて、人は生きてるのか死んでるのか分からないまま一か所に集められた。そして頭の中の空想でただ快楽だけを貪り続ける。本人たちは幸せそうだったけど、私にはそうは見えなかったな。」

 軽く説明されただけでは私は全てを呑み込めない。

「魔法を使う世界が行き着く先があそこって考えたら、私はもうあんなもの無くした方がいいって思う。」

 額に触れられた感触が無くなると、場面は戻される。

 最初に目に入ったのはアサが強く嫌悪しているであろう顔だった。

 ...一体アサは、これまで何を経験してきたのだろうか。

 私には何も分からない。

 ただ残ったのは壮絶もないものを見せられたという感想だけだ。

「これは...全て、アサが経験したものなんですか?」

「違う、これは起こりえた未来。...こうやって話してみると結構ややこしいね。またこの話は詳しくするよ。今はサファルちゃんも一杯一杯でしょ。」

 アサの言う通り、私は頭が発熱を起こした時の様に重い。

 情報をそのまま送り込まれる感覚は、まるで何かを無理矢理何かを覚えさせられ、大きく負担がかかるみたいだ。

「...すみません。少し横になります。」

 頭痛が激しい。

 座っているのすら辛いなんて相当だ。

「それならほら、こっちに。」

 アサは私の横へと座り、自分の足をぽんぽんと叩く。

 まさか、膝枕するつもりか。

「...駄目です。そんな子供みたいな。」

 しかし限界も近く、倒れ込む形で膝枕されてしまった。

 柔らかく、温かい熱がじんわりと伝わってくる。

 アサの優しい香りが安心感を感じさせ、眠たくなってくる。

「私からしたら皆子供みたいなものだよ。」

 子守歌を歌い、私の頭を撫でてくれる。

 これでは本当に赤子にでも戻ってしまったみたいだ。

 しかしそれは、なんだか...とても、心地いい....。

「アサ、ありが...とう。」









「....眠ったかな?」

 私の膝の上に寝ている少女の頬をつついてみる。

 しかし起きるどころか反応すらなく、どうやら深い眠りに入ったようだ。

 これなら多少何かあっても起きることはないだろう。

「さて...。」

 私は借り受けていた一つの黒い箱を手にする。

 変換機。

 これ自体には魔力がほとんど入っていない代わりに、命を代価に魔力を生成することが出来る機械(アーティファクト)。

 古代の天才が生み出した不可逆への抵抗。奇跡の転換理論。

 彼女から鎌を受け取りその機能を確かめるまで、まさかその理論が完成しているとは思わなかった。

 ...まぁそんなことは置いておいて。

「あと一時間して私が戻って来なかったら、そもまま目的地まで向かっちゃってください。」

 そっと馬車を降り、周囲に人のいない場所まで歩いていく。

 誰にもバレない場所で鎌の形態へとそれを変化させた。

 現状のままでは残り一回しか使えないのだが、それは私に使わせてもらおう。

 そしてそれを私の首元まで運ぶ。

 この変換機は刈り取った命から生命エネルギーを抜き取り、それを魔力に変換する。

 それはつまり、何かを殺すという行為に対しその次の段階を設けるというもの。

 それなら、不死の私はどうなる?

 殺された私は復活をするのか、それとも殺された後の変換という機能によって復活を妨げられるのか。

 もしかしたら、私の命は膨大な魔力へと変換されるかも。

 どちらにしろ、やってみれば結果は分かる。

「ごめんね、サファルちゃん。私が死んだら私を呪って。」

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