私が知らない
今回少し短めです。
私は何を願ったんだろう。
願い事なんて思いつく限りでも幾つもある。
どれが選ばれたのか、どういう基準で星の書は選別するのか分からない。
だけど一つ分かることがある。
あの時、私がアファを切る。そんな選択をしなくて良かった。
「命って...人じゃないといけないんですか。」
「人じゃなくても多分機能はする...だけど、一段と効率が悪くなる。」
その一言にホッと息をつく。
それなら家畜や魚、虫でもいい訳だ。...もしかしたら植物は、いや対象外か。
自分が木を切断した際、この機械はうんともすんともしなかった。
植物にも命はある。
そんな教えもあるが、どうやらあの鎌からすればそんなことはないらしい。
本来の鎌の用途はどうした。
鎌とは草を刈る道具だろう。
「例えば豚一頭刈り取って何日分の魔力になるんです?」
「それは実際にやってみないと分からないかも。」
そうなれば、色々試す必要はありそうだ。
しかし我ながら実に素晴らしい機械を手に入れた。人以外の変換効率のいい生物などを見つけたら、私は半永久的に魔中毒という病を気にする必要が無くなるようなもの。
....でも、ここで一つ疑問も湧く。
こんなものが何故、まだ星の書に残っているのか。
機械を使う人。その人ら全員に発症するとされる魔中毒。
その対策として変換機は最適とも言えるはずだ。
おそらく機械をある程度使用し、そして再度星の書を手に入れた人物の多くはこれを望むはず。
アサの話によれば、星の書には品切れという概念がある。
それなら、これが未だ残っていた理由とは一体...。
もしかして魔中毒の危険を無くしたい。そんな願い事だけじゃ足りないのか...?
「次これを使うのは多くの生物を集めた時になりますね。」
「...そうだね。」
どうしてだろう。
先ほどからアサの表情が固い。
何か思い悩んでいるみたいだ。
「どうかされましたか?」
「あっいや。」
アサは私から目を逸らし、黙り込む。
この感じは何か胡麻化そうとしているな。
そう思い私はアサの顔をじっくりと見つめる。
「....サファルちゃんは、もし人を殺す必要が出た時はどうするの?」
これは...魔力が尽きた過程での話だろうか。
もし自分が死にそうで、人を殺さなければいけない時か。
「私はそこまで生き永らえたいとは考えてませんよ。」
「本当に?」
アサはどうにも不安らしい。
今にも泣いてしまいそうな顔で私に尋ねて来る。
「...そこまで深く聞かれると、どうでしょう。どういうパターンなら私は誰かを殺してでも生き永らえたいと思うでしょうか。」
自分に問い掛けてみても、そう簡単には浮かんでこない。
「いや、別にそういうことを考えて欲しい訳じゃないの。ただこれには大きくて、危険な魅力が秘められていることを理解しておいてってこと。」
「分かりました?」
結局、私にはアサが何を言いたいのか。
分からないままだった。
「...そういえばサファルちゃん、ちょーっと今気になったことなんだけどさ。」
気分を切り替えたと言わんばかりに明るい口調になったアサ。
頬を掻きながら、何か気になったことがあるみたいだ。
「はい、なんです?」
「鞄、さっきからずっと持ってないけどどこに置いてったの?」
鞄...鞄は確かダンジョンを出た時にはあって、今も私の手元に....
そういえば、私はいつから両手で鎌を持っていたっけ。
なんだか最初から鞄は持っていなかった記憶がある。
矢で奇襲されて、アファが来て...木の裏で透明化したアサに気が付いて....
私は星の書片手に両手を挙げて投降した...。
そうだ!私は投降する時、木の裏に鞄を置いて出てきた。
そして戦闘の間、私は殆ど移動していない。
戦闘はかなり小範囲で収まっていたはずだ。
それこそ、焚火をしていた場所からすぐそこの....
私が記憶を辿って見た場所には...縦に二分割された木が倒れていた.....。
「あああああああああああーーーーーーーー!!!!!!!」
もしかして、もしかして、もしかして!!
私が切った木に押し潰されてる???!!!
慌てて私は倒れた木の下を探ってみる。
胸の鼓動は早まっているのに、全身の体温はとても冷たい。首筋から背筋まで冷や汗がこれでもかと溢れ出るのが分かる。
「どこ、どこにあるの!私の鞄~!!!」
それから脇の土を掘ったりして、見つけることが出来た...。
案の定木の下敷きにされ、少々緩い土の中に埋まってしまっている。
そこから見える私の鞄は、赤と白の彩りが土の茶に塗りつぶされ、金具が幾つか損傷しているのが分かる。
今すぐにでも救出してあげたい。
しかし木をどけようにも重く、私の力では一切動かない。
「アサ~。」
「煽られたので手伝ってあげませ~ん。」
「そんな~~~!!!!」
それからボロボロになった私の鞄が回収されるまで実に2時間の救出活動が行われた。
その間、私が半狂乱であったことは語るまでもない。
「結局、私の鞄の方がサファルちゃんのより綺麗だね。」
「言わないでください....ぐすん。」
ごめんなさいパルテンツァ様。
貴方様から頂いたこの鞄、たった一日でこんなにしてしまいました...。
「ん...ふぁあ???」
「随分悠長な寝覚めだね~」
私に抱えられながらラアナはいびきまでかいて寝ていたが、数秒してそれまでの記憶を思い出して来たらしい。
すぐに私の肩から降り、周囲を確認しだした。
「アファ、あの変態は!?」
「変態って誰。」
「ローブを羽織った変態だ!!私の尻ばっかり狙いやがって!!それに...それにあんな....あんな...。」
状況を語りながら涙目を浮かべる辺り、変な意味で散々な目に逢ったのだろう。
「どんな戦闘してたのよ...。もう戦いは終わった。私たちの負けだよ。」
「負けって...じゃあ星の書は...」
「使われた。そんでもって今は逃亡中~。」
「....そんな。」
私も現状を報告すると、ラアナは膝から崩れ落ちる。
ラアナは私と違って責任感が強い。
だから失敗という事実に酷く嘆いている様だ。
私は生きているだけ儲けもんだと思うのだが、この初任務。
ラアナはどうしても成功させたかったのだろう。
「どうする?報告偽る?」
ここに星の書はなかった。
そう報告することも出来る。
私たちが着いた頃には回収されていたと言えばどうにでもなるはずだ。
そもそもここは何度も調査が行われたダンジョン。
規模が大きいという理由のみで星の書があるのかないのかすら分からないというだけの場所。
そこに巨大な火柱が立ったという出来事から再調査を任されただけに過ぎない。
無いと言っても特段問題などないはずだ。
寧ろ『無かった』という情報だけで十分だと考えている。
「嘘は駄目だ。どうせ見抜かれるし、それよりも私がしたくない。」
...こういう時コイツ律儀だよなぁ~。
なんで自分の不利益になることが出来るんだろ。
これがラアナなりの心のコンパスってなのかな?
「...サファル。」
あのワードと共に、私を負かした奴の顔が思い浮かぶ。
私、なんであの時躊躇したんだろ。
ちゃんと狙えば相手の腕は取れたはず。
そしてあの大鎌なら両手では扱えない。
その後魔女に敵うかどうかは別として、躊躇わなければ勝てていた。
星の書を使われてしまったとはいえ、それを踏まえても相手の動きは素人同然。私の勝率は全体を見ても高かったはずだ。
でも私には躊躇いがあった。その一点、その一瞬を見抜かれて負けた。
なるべく人を傷付けたくないという気持ちが湧いて出たから。
そうしない為につけた力のはずだ。
圧倒的であればある程、自分は傷つかず、誰も傷付けずに済むから。
だけど足りなかった。
違う、力はあったはずだ。
でも、相手はなんだか力以外の何かがあった様な気もする。
覚悟というには軽薄で、希望と呼ぶには明瞭な...確か、そんな単語を吐いていたような。
「あっそうだ。夢...か。」
そういえば、私の夢ってなんなんだろう。
考えたこともなかった。物心ついた頃からこうなる運命にあったから。
「ラアナって夢ってある~?こうなったらいいとか。こうなりたい。みたいなやつ。」
「...そんなの、この任務が成功していたら。以外にあるのか?」
「そういうのじゃないんだよなぁ~。後悔ってよりは未来への羨望みたいな。...まぁいいや。帰ったら考えてみる。」
「帰りは走るか?」
「勿論~。」
お互い、溜まりに溜まったフラストレーションを解消する為に大地を駆けるのだった。




