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魔女と小説家  作者: 彩葉もへじ
二章 炎と氷の森
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17/20

私が叶えた物は

 息が苦しい。

 初めて人と戦いというものをした。

 アサに暗殺をしかけた時は、一方的だったし私は相手にすらなっていなかった。家が襲われた時は逆に一方的に制圧された。どちらも戦いなんて呼べるものではなかった。

 今回はお互いに武器を持ち、打ち合い、駆け引きをした。

 未だに手に慣れない実感が残っている。

 しかし高揚感はない。満足感も。達成感も。

 だけど緊張だけは解けない。解く訳にはいかない。

 鎌を相手の首元に構える。

 下手な動きをさせないように。

「どうして、最後私の心配をしてくれたんですか?」

 静寂の中、私は彼女に問い掛けた。

 彼女の落下攻撃に対して、私が腕を出したこと。

 その瞬間彼女の放った言葉。

 あれは私に危険を知らせるものだった。

 他にも違和感はあった。

 私は自分に戦闘の才があると思っていない。順当に考えて弱い方だろう。それがどうして訓練を受けた者に勝てたか。

 それは相手が恐らく手加減していたからだ。

 どの攻撃も私にとって避けれたり、受けられたりするもので、とにかく対応に回っていれば対処できる。そして彼女は相手を殺さずに疲労だけを溜めさせる。そんな戦い方をしていた。

 敵である私に対して。

「...だって、痛めつけるのも、痛めつけられるのもどっちも苦しいから。」

 理由は共感か。

「...そうですね。それには考えには同感です。」

 私も彼女と同じことをした。

 斧が刺さって地面から抜けない間に、斧ではなく彼女を切りかかることも出来た。

 だけどしなかった。

「サファルです。」

「え?」

「私の名前ですよ。サファルっていいます。」

「...普通こんな時に名乗る~?」

 なんだか、彼女とか貴方って呼び合うのが少し物悲しい気がした。

 でも確かにタイミングは違ったかもしれない。

「仲良くなれると思ったんですよ。最後まで相手の私の身を案じてくれたことに。」

「あっそ〜。」

 しかし仲良くなってくれるつもりは無いそうだ。

「でもなんで腕無事なの〜?」

「知り合いの魔女がいるんですよ。」

 私の発した『魔女』というワードに彼女は反応を示す。

 しかしその頭には?が浮かんでいるようだった。

「...魔女なんて、数千年前に絶滅したよ。生き残りなんているわけない。」

 そうか、機械(アーティファクト)を秘匿するということは、それについて詳しいも同義。

 もちろん魔力のことも。そして魔女の存在も既知。

 数千年前の秘匿された歴史についても知っているからこその否定ということか。

 しかしアサのことは知らないみたいだ。

「さて、どうですかね。」

 そんな会話をしていると、森の奥から誰かがやってくる音がする。

「う、腕だ!腕が来た~!!」

 森の中から現れたのは、淡い光に包まれた片腕。

「やっほー幽霊だよー。」

「ゆ、幽霊~!?」

「ハッハッハ、この子オーバーリアクションで可愛いね。」

「ふざけてないで姿を見せてください。」

「...こっちの子は可愛くない。」

 私が頼むと、アサは全身の姿を見せる。

 それに加えて、背後には1人の女の子が糸で吊るされ、蝶に運ばれていた。

 気絶しているみたいだが、彼女と同じ服であることから推察するに...

「ラ、ラアナ!?!?」

 やっぱり仲間か。

 と、すればラアナというこの女の子が矢を放ったということだろう。

「いやー中々厄介だったよ。骨は折れてないけど。」

 そう言いながら、アサは捕らえた子を自分の周囲にクルクル回して弄ぶ。

「...スカートの中見えてるので止めてあげてください。」

「なんかお尻が大きいのがコンプレックスなんだって彼女。」

「聞いてませんから!!」

 そうこうしているとアサもこの場での状況を理解し始めたらしい。

「あれ、まさか勝っちゃうとは。本当ならこの子を人質に逃がしてもらおうと思ったけど手間が省けたよ。」

 そう言って、アサは捕らえた子を彼女の方へ動かす。...何故か後ろ向きで。

 丁度抱えられるぐらいの場所になったところで糸を消し、落下させた。

「この子を連れてさっさと帰りなよ。私たちは君らと違って殺生を嫌うんだ。」

 アサは彼女らを痛めつけるつもりはないらしい。

 それよりも互いに不干渉でいたいというスタンスなんだろう。

 私も殺生は嫌いだ。それだけで気が楽になる。

「これ...蝶の魔法ってことは、貴方まさか...」

「聞いてなかった?早く私らの目の前から消えろって言ってるんだよ?」

 アサの放ったその威圧によって、彼女はそれから何も言わずに仲間を抱えて去っていった。

 それから暫くして、彼女の姿が木々の隙間からでも見えなくなってきてから漸く私の肩の荷が下りた。

「...これ、どうしますか。」

 最初に気になったのは地に落ちた発光体を拾う。

 彼女が扱っていたクリスタルの武器を生み出す機械(アーティファクト)。

 これを彼女が拾い直さなかったのは、身代金という意味だろうか。

「さぁ、要らないなら貰っちゃえば。」

 そんな落とし物をくすねるみたいに...。

「アサは要らないんですか?」

「だって荷物が嵩張るでしょ。」

 ローズ家で使い終わった機械(アーティファクト)をぽいぽい捨てていた李、星の書を集めている割にはアサは機械(アーティファクト)に興味がない。魔力が潰えた物はゴミのように扱うし、再利用できる技術があるのにそうはしない。

「でもこれ機械(アーティファクト)ですよ!?私の命綱!!」

 最後の確認として私はアサに問い掛ける。

「これ使い込まれててもう魔力殆ど残ってないし、それにその鎌があるからなぁ...。」

 アサは私の鎌を指さす。

 ...確かにこれがあれば魔中毒対策の魔力は補填出来る。

 それでも、あればあるだけいいじゃないかと私は思うんだけど。

 でもよかった。アサがここまで要らないというなら私がこれからすることにも文句はないはずだ。

「サファルちゃん。どうしたいの?何か気がかりなことでもあった?」

 彼女は私と同じ奴隷。多分機械(アーティファクト)も雇い主から授かったものだろう。アサは雑多に扱うが、それは秘宝に近い価値がある。任務に失敗し貴重な機械(アーティファクト)を失ったとなれば彼女は多分....。

「すみません、少しこれ預かっててください。」

 私はアサへ鎌を渡し、彼女が去って行った方向へ向かう。

「...これって。」

 アサは、1人取り残されその鎌を眺めるのみだった。


 暗い森の中で見つけられないかもしれないと思ったが、予想は外れ私が探し始めてからすぐに彼女らを見つけることが出来た。

 人を抱えていたということもあり、そこまで遠くには行けてなかったみたいだ。

「あの!!」

 私が呼び止めても、彼女は足を止めない。

 確実に声は聞こえているはずなのに。

 しかし止めなくても追いつきはする。

 私は彼女の前に立ち、行く先を塞ぐ。

 流石にここまでしたら、彼女は足を止める他ない。

「何の用~?」

 不機嫌そうな顔。抱えた子は未だ目覚めてはいないようだ。

「...これを返しに来ました。」

 私は握っていた発光体を差し出す。

「これ....なんで?」

「生憎、魔女に機械(アーティファクト)は必要ないんですよ。ゴミを置いて行かれても困ります。」

 態々表現を悪くしても素直に受け取ってはくれなそうなので、半ば無理矢理にそれを握らせる。

「私はもう貴方方を恨んではいません。それなりに復讐はしたつもりですし、だからこれは後腐れを無くすためです。気持ちの決着ってやつですよ。」

 このまま、彼女が罰を受けるのは寝覚めが悪い。

 いや、一応任務は失敗している訳で罰自体はある。だけど、最悪の結果にはならない。

「なんで...私、貴方を襲ったんだよ?」

 ...私も可笑しな話だと思う。

 初めて刃を交えた相手。要は敵。

 恐らく今後も旅する中で、彼女らの組織とは必ず巡り会い対立する。

 ならば、私達の素性を知る人間は出来うる限り少ない方がいい。

 合理的に考えればそもそも逃がさず始末した方がいいんだろう。

「ただ...心のコンパスに従っただけです。」

 この選択が実際に合っているか、間違っているかは関係ない。

 ただ、こうすることが自分にとって最も満足できる選択だと思うから。

「まるでラフィキみたいなこと言うんだね。まぁそりゃそうか。」

「気付きました?好きなんですよあの台詞。」

「私は嫌い。あの物語の全てが。」

 彼女はどうやらラフィキの冒険譚は好きではないらしい。

 ただ、嫌いという一言は単に性に合わないという理由ではなく、何か深い事情がありそうだった。

「...アファ。」

「はい?」

「アファ!それが私の名前。恩を売ったつもりかもしれないけど、これに感謝したからって次に見かけたら私たちは手加減しないよ。...特にあの魔女と一緒に行動しているなんて。」

 名前を教えてくれたが、その後に出たのは敵対宣言。

 もしかしたら、と思ったけどそれは無理みたいだ。

「サファル。貴方がどこまで知っているか知らないけど、あの魔女はとても危険な存在だよ。出来ることならこのまま...いや、いいや。精々今日の選択を悔やむことね。」

 それは私を心配しての言葉だろうか。

 アサは危険...か。

 ...彼女は私の知らないアサを知っているんだろうか。

「それじゃあね~。」

 そんな疑問を抱えながら、薄っぺらい笑顔を浮かべてアファは今度こそ去って行った。

 次に会うときは容赦しないと言わんばかりに。

 追いかけはしなかった。

 そっちは既に私のコンパスが指し示す方向ではなかったから。


 私はアサのいる場所へ戻った。

 その頃には既に朝日が上がり、森の暗闇が一気に晴れ、周囲の様子がしっかりと見えるようになっていた。

「サファルちゃんは随分無茶したみたいだね。」

 どこかアサの表情が暗い。

 何かあったのだろうか。

「そうですか?」

「自分で分かってないの。その腕の怪我、暗くて見えなかった?」

 何を言っているのかと自分の腕を見ると、肘から上にかけて痣が出来ている。

 これが出来たのは明らかに斧を逸らした時だろう。

 あの時は興奮していて気付かなかったが、やっぱり無傷とはいかなかったか。

 それに、この怪我を自覚してから痛みがズンズンとやってくる。

「どうしましょう...。あ、ならその鎌が持つ魔力で治してください。」

「...いや、相手から貰った分があるからそれで治すよ。」

 アサが私の傷へ手を差し伸べると淡い光と共に、痛みがみるみる引いた。

「...。」

 しかし治った後もアサは苦い顔をし、黙り込んでいる。

「...サファルちゃん。星の書に何を願ったの?」

 口を開いたかと思えば、尋ね事。

 この時点で私は、この腕を治すことが出来ないことを悟った。

「自分でも分かりません。教えて貰った通りに手を合わせた途端光出して、したら黒い塊が出てきて...」

 私がそう言うと、鎌は唸りを上げて折り畳まれていく。

「あ、そう丁度こんな感じに。」

 そして最初見た時と同じ黒い立方体となった。

 しかし今回は宙に浮くことなく、ボトっと落ちる。

 ...それはまるで、魔力を失ってしまったかのように。

「こんな理論式見た事ない...。」

 アサでも見たことの無い機械(アーティファクト)なんてあるのか。

「じゃあこれの機能とかは分からないままですか...。」

「いや、それなら分かるよ。ただかなり複雑だし、複数の機能があるから一部分だけだけど。これかなり最新のタイプだと思う。」

「機械(アーティファクト)なのに最新なんですね...」

 なんだか矛盾を感じる表現な気もするが、まぁ機械(アーティファクト)が作られていた時代でも最後の方の技術ということという解釈でいいだろう。

「これにはもうほんの少ししか魔力が残ってない。多分、あと一回鎌を振るえば使えなくなるよ。」

「...そうですか。」

 必死に手に入れた機械(アーティファクト)も、すぐに魔力は切れてしまう。

 私の寿命は、あとほんの少し伸びたに過ぎないようだ。

「すみません。私が星の書を使ったばっかりに、こんな燃費の悪い物を呼び出してしまいました。」

「...いや、これは燃費が悪いとか、そういうものではないよ。本当に最低限の魔力しか込められてないんだ。」

 アサは思う。

 これは罪だ。

 私の罪が生み出した産物だ。

 そして、それを目の前の少女が呼び出した。

 これが持つ機能を伝えるべきか?

 その答えは否。絶対に伝えるべきではない。

 もし適当な機械(アーティファクト)であればこんなことにはならなかったのに。

 これでは、状況的に説明せざる負えない。

 こんなもの、運命というよりは神の悪戯と呼んだ方が合っている。

「...これは変換機。文字通りあるものを吸収し、それを....魔力に変換する。」

「そんなの、最高の機械(アーティファクト)じゃないですか!!」

 いや、これは最高なんかじゃない。これは最低最悪の機械(アーティファクト)。

 魔力を欲し、魔力に依存し、魔力に囚われた者が最後に行き着いた方程式。

「これは、命を魔力に変える変換機。これは命を刈り取り、それを魔力へと変える死神の鎌。」

 だから私、尋ねたんだよサファルちゃん。

 貴方一体、何を願ったの?

勘の鋭い人は気づけましたか?

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