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魔女と小説家  作者: 彩葉もへじ
二章 炎と氷の森
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13/20

初めてのダンジョンへ

「これは....なかなか凄いですね。」

「まぁ遠目から見てアレだから、近くならこうなるか....。」

 ダンジョンの入り口から凡そ2時間。

 私たちは無事、火柱が立ち昇る場所へと到着することが出来た。

 崖を上ってからは足元が全く見えないという理由で、仕方なくアサの魔法を使い足元を照らしてもらったが、一日で辿り着けたので良しとしよう。

 しかし実際にその場に来てみると火柱の迫力に圧倒されていた。

 熱くない距離から見ても、その太さは凡そ直径三メートル強程の大きさに達していると思われ、そこから溢れ出る炎は夜空を貫いている圧巻の光景だ。

 周囲が開けているのも目立つ理由の一つだろう。

 なんでこんなことにになっているかは周囲を確認して分かった。

 周囲には幾つか切り株があり、恐らく火が拡大し、山火事になるのを恐れたセグレトの森の住人が伐採を行ったんだろう。火にある程度近づくことも出来る人間がいる様で安心した。しかし伐採した木をここから村へ運んだのだろうか?

 ....まさかこの穴に投げ込んだ、とかはないよな?

「永遠の炎ですね。」

「なにそのかっこいい名前。」

「天然のガスが発火して、ずっと燃え続けることをそういうんです。昔本で読みました。」

 最初はダンジョン内のトラップが作動したのかと思ったが、一週間以上も燃え続けるトラップなんか普通は作らない。なんせ追い返す為には過剰すぎる。

 とすれば、これは自然の産物。

 きっとダンジョン内の空間の、どこか密閉されていた場所に満ち満ちていた天然のガスが引火と共に高圧で噴射され続けているんだ。

「一体ダンジョンで何をやらかしたらこんなことになるんですか?」

「怒んない?」

「怒りませんから。」

 そんな怯えた表情しなくても...。

 私をなんだと思っているんだ。

「いや~珍しくトラップが多く仕掛けられた道があって、一々注意するのめんどくさいなぁって。」

「それで?」

「別に誰かいる気配も無かったしここなら大丈夫かなって魔法を使ったらなんか爆発しちゃって...」

 多分魔法によって何かトラップが作動し、その爆発によって閉じ込められていた空間が解放され、かつそこから漏れたガスが引火したことでこのような状況になったと。

 アサの配慮の無さが生み出した状況というよりは、偶然の連続で起きた事故って感じだな。

「....これダンジョン内の機械(アーティファクト)無事ですかね?」

「アレは壊そうと思って壊せる物じゃないから大丈夫。」

 どうやらアサはここにある機械(アーティファクト)が何か分かっているみたいだ。

 でも壊れていないようなら安心した。もし壊れるような物だったら、この時点でほぼ私の死が確定したからな。

 もしそうなったらこの景色を楽しめなかったかも。

「...綺麗だなぁ。」

 私はこの自然が生み出した光景を眺めていた。

 起源はアサとはいえ、この火柱は今自然の力によって維持されていると思うと興奮を抑えられない。

 こんな景色を見たかった。日常では絶対に拝むことのできないあり得ないを目にしたかったんだ私は。

 いつの間にか、ここの空気がもつ香りや味が自分の中に刻まれていく。他にも肌に刺さる熱、炎の弾ける音。

 ここで見たことを忘れない様にと五感の情報を覚えていく。

「へへ、お互い泥だらけだね。」

 火柱を眺める私の視界の中に笑顔のアサが現れる。

 彼女のローブは土にまみれ、足元も泥まみれだ。私の方を見ると、それはもう同じ様に汚れていた。

 急斜面を上ったり、沼の様な大地を歩いていたんだ。こうなるのは当然。

 これも新しく貰った物だったのに次の日にはこの有様。送り主からしたら激昂ものだろうか。

 ...いや、あの人なら喜んでくれるか。

「でも、私の鞄の方が汚れが少ないですよ。」

 私の鞄は未だ新品同然の輝きだ。それどころか炎の光に当たって革の輝きを増している。

 汚れそうになった時身を挺して庇った甲斐があったものだ。

「別に競ってる訳じゃないのに。お互い汚れてるね、そうだね。でいいじゃん!」

「所々で煽ってきたのはアサの方じゃないですか。」

 急斜面を登る時に向けてきた「君に出来んの~?」と聞いてくるような視線。

 そんなものを要所でされた。

「....あ、結構根に持つタイプなのね。」

「私、やられた借りは返す主義ですよ。」

「元貴族怖いなぁ...。」

 それから私たちはその場で少しばかり休憩をした。

 「すぐ行動した方がいいんじゃないかなぁ...。」と、心なしの提案をしたところ、どうやら火柱の下はトラップが多く仕掛けられていた道であり、アサは可能な限り体力を回復させて突入したいらしい。

 それに予想だと、この下から機械(アーティファクト)がある目的地まではそんなに距離がないようだ。

 私はまた適当なことを言っているんじゃないかと心配になり理由を聞いてみたところ....

「そもそも隠し通路自体がダンジョンの奥の方にあったものだし、さらにトラップが多く仕掛けられた場所は目的地直前に多い傾向にある。なら、私たちの目的地はここを下ってすぐの場所にある....!気がする....。」

 やけに自信が無さそうにアサは自分の意見を言ってくれた。

 彼女に確信はないんだろう。それだけダンジョンは多種多様だし千差万別の形式がある。

 それでも経験上そういった傾向がある。

 そういう根拠。所謂勘というものは信用できると私は判断した。


 

 そして休憩は終わり、いざダンジョンへ行くこととなる。

「要はこれから私たちはこの火の中に突っ込むんですよね?」

 しかし火柱の前に立つと冷静になった頭が「馬鹿なことは止せ。」と危険を知らせて来る。

「安心しなって、私の魔法がビシッと守ってあげるから。」

 守られている守られていないという問題じゃない。

 火の中に飛び込むっていうのは普通に死ぬイメージしか湧いてこないんだ。

 私は魔法の原理なんか知らないし、どう守られるのか知らないけど、とてもこの熱量の中で生命を維持できている気がしない。

「えっと、その魔法っていうのは具体的にどんなものなんでしょうか。...例えば水で包むとか、それとも肉体を熱に耐えられるようにするのか。それとも...」

「めんどくさいなぁ怖いなら怖いって言いなよ。」

「いや、そんなこと言ったってどうせ行かなくちゃいけないんです。だから、最低限安全が保障されているのかの最終確認をですね!」

 私は怖くなんかない。

 でも死ぬのは嫌だ。

 決して怖くなんかない。

「足震えてるよ。」

「...。」

 自分の足を見てみると、それはもう大きく震えていた。

 目の前に熱の塊があるというのに、冷えた汗だけが湧き出ている。

「これは武者震いってやつです。なんせ初めてのダンジョンですからね!!!」

「手、繋ごっか。」

「へっ?」

 そう言ってアサは私に手を差し出す。

「何があっても私はサファルちゃんを守ってあげるから。」

 オレンジ色の光に照らされた柔らかな笑みを浮かべ、包み込んでくれる言葉に私にくれる。

「初めてのダンジョン、楽しんでこ!」

 ...どうして、この人は私にこんなにも優しくしてくれるんだろう。

 私は始め、この人の荷物を盗もうとして、さらには殺そうとまでして。

 なのに旅に出たいって気持ちを尊重して態々旅に連れてってくれた。

 奴隷の私に酷い命令一つせずに楽しく話してくれて。

 こんなに浅はかで正直なことを言えない様な、性格の悪い私に怒ること一つせずに。

「私は...怖くなんかありません。...でも、手は繋いであげます。」

 私はアサの手を取る。

 お互いに冷たい手が触れあって、徐々に熱を帯びてくる。

 それは私に大きな安心感をくれた。

「行くよ。」

 アサの鞄から光が溢れる。

 しかしその光の大きさはこれまでのと比べても弱々しい。

 それでも、小さな蝶は着実に私たちの周囲を覆う。

 それらは半透明の薄い膜へと変化し、私たちを閉じ込めてゆく。

 完全に包み終わると同時に私たちの体が玉の中心に浮かび、まるで巨大なシャボン玉に包まれたみたいに火柱の方向へ運ばれる。

(本当に、こんな薄い膜で大丈夫だろうか...?)

 なんて不安は不思議と湧いてこなかった。

 そして膜が炎へと当たる直前、アサが私の手を強く握った。

 どうしてか気になって振り向くと、そこには目を強く輝かせるアサの顔があった。

 その瞳は、炎が膜と接触する瞬間を待ち望んでいる様だった。

 それは、まるで冒険譚の中の自分の魔法を試すことが大好きなフィラーシャ。失敗を繰り返しても、魔法のことをこよなく愛する彼女そのもの。

 本の中で表現された彼女がもつ美の面の象徴。

「いける、いけるいける。私の魔法ならこの程度...!」

 なんかそれフラグっぽいからやめて欲しい...。

「いける!!」

 直後に衝突。

 すると私たちを覆っていた膜が火柱の勢いによって高速に回転する。

 しかし割れることはない。そして宙に浮いてる私たちが回ることはない。

 膜が、私たちに届くはずの熱、気流を全て受け流していた。

 しかし完璧では無いのか、徐々に膜の中が熱を帯びてくる。

「熱っ!」

 何かに触れてしまった私が当たった所を見ると、手のひらの公が火傷している。

 膜の方は熱々になっていて、それに触れてしまったようだ。

 この中も絶対安心という訳ではないらしい。

「行くよ!」

 膜全体が炎に包まれ、アサのその掛け声をすると同時に、私達は重力に引っ張られる様に急落下し始める。

 体の姿勢は徐々に前傾姿勢から、頭部が下へ。

 風は感じないのに、オレンジと赤が混じり合った場所を落下している光景だけが膜を通して目に映る。

 落下する速度もどんどん加速する。

 その勢いのせいで膜は変形し、見るからに不安定となるがアサは動きを止めない。

 そのまま最高速で、私達は...高く噴出した火柱を下って行った。



「起きてー、起きてーサファルちゃーん。起きないとキッスするよ〜。」

「...アサにされるなら、いいですよ。」

「ヒャ!?」

「なに真に受けてるんですか。馬鹿なこと言ってないで行きますよ。」

 落下した衝撃は無かったものの、少し気を失ってしまったみたいだ。

 そんな中、アサの馬鹿な目覚ましによって目を覚ます。

 痛恨のカウンターを食らっている姿を見れたところで、私は立ち上がり自身を確認する。

「あれ、そういえばまだ膜が...」

 私達は未だあの膜の中にいた。

 少し形状は変わって、シャボン玉に包まれているのではなく、それぞれの体に薄い服を来ているように張り付いている。

 てっきり突入後は要らないものかと思ってたんだけど...。

「当たり前でしょ?火柱上がってるんだから、ダンジョン内も今はアツアツだよ。」

 確かにダンジョンの中は明かりなど無いはずなのに明るい。

 近くには火柱があるんだ。

 となれば熱も当然か。

「ありがとうございます。気が付きませんでした。」

「守るって言ったでしょ?有言実行!」

「それを言うなら...これを超えてからですね...」

 光が届いていない奥へ続く方向。

 そこには数を数えるのが嫌になるほどのシルクのような糸が張り巡らされている。

 糸の1本1本が炎の光を反射して、1つの模様の様に広がっているのが、何層も重なっている。

 まるで、侵入者を糸で絡め取る為みたいに。

 こんな糸の使い方なんてあの生物しか思いつかない。

「あれは、蜘蛛の糸ですか?でもここは巨大な蟻が生み出したのが有力だと...。」

「糸を出す蟻か、蟻みたいに巣を作る蜘蛛でもいたんじゃない?」

 考察も何もない話だけど、そんな特徴を持った生物なら可能か...。

 他に考えられるのは、例えば共生。蜘蛛と蟻が共存関係で同じ巣に住んでいた、とか。

 あとは、リユースした可能性。蟻が生み出した巣をその後は蜘蛛がそのまま使ってた...とかかな。

 にしても、外って高温なんだよな。

 それでも艶めかしく張っている糸。

 恐ろしく頑丈なのは勿論、耐熱性もいいんだろう。

「あれ持って帰れないですかね?」

「はぁ?!何言ってんの?こんなもの触っただけでもう...べたべたして気持ち悪いんだからぁ!」

 アサって蜘蛛苦手なのかな。

 だから最初吹っ飛ばしたのかも。

「大丈夫ですよ。見た限り、ここに蜘蛛はいません。」

 蜘蛛の糸だって、蜘蛛がいなければ意味はない。

 糸の意味は一時的な足止め。その間に蜘蛛が獲物を捕食するという流れ。

 蜘蛛がいなければ絡まったとしてもゆっくり丁寧に剥がしていけば害はないんだ。

「それは...そうだけど...。あんなの持って帰って何に使うの?」

「それは...まぁ、愛でるとか?」

「どういうこと。」

 収集癖っていうんだろうか。

 不思議な物って手元で満足するまで弄ってみたいと思ってしまう。

「まぁ今はそもそも触れないよ。膜の外側って界面活性剤みたいな役割を持ってくれるから、どれだけ触ってもヌルヌル抜け出せるよ。あと、足元が熱かったら言って、そこだけ歩く為に薄くしてるから。」

 アサが言った通り、実際に蜘蛛の糸に触れてみると、一切くっつく事は無く滑る様にして避けることが出来た。

 そのおかげで、私は何も気にすることなく歩き進める。

「これ凄い便利ですね。」

「既存の魔法を私なりに改良したんだよ。」

 なるほど、既存の魔法を改良...。

 そんなこともできるんだな。

 でも薄い膜を張って、表面をヌルヌルさせる魔法って元は一体どんな魔法なんだ。

 それから私達は蜘蛛の糸の先にある魔道具のある場所へと向かっていった。








 サファルとアサンテが本格的なダンジョン攻略を始めた頃。

 深夜のセグレトの森。そこにある集落付近に一両の馬車が到着する。

 馬車引きの男は到着した途端、これまでの疲れが全て体に覆いかぶさるような倦怠感に襲われる。

 それもそのはず、三つは先の集落から丸一日馬車を動かし続けた。

 自分が手綱を引いた二匹の馬もゲッソリしている。

 男は慌てて水を用意し、馬たちはそれに飛びつく様に飲んでいる。

 これが終わったら沢山ご飯を食べさせてあげよう。

 そうこうしていると、荷台の扉が開く。

「ようやく着いたお尻痛い...。」

「お尻大きいんだから大丈夫でしょ〜。」

「ぶっ殺す。」

 どれもこれも原因はこの2人。

「でも確かに、これなら走ってきた方が早かったかもね〜!」

 不思議な恰好をしたこの2人が有り得ない条件を突き付けて来たのが原因だ。

 前金含め、金払いがいいから請け負ったものの、次同じような服をした奴が来たら絶対に仕事は断ろうと男は誓う。

「だから私はそうしようって言ったのに!!」

「も~怒んないでよ。経費で下りるんだから使える分は使っておかないと。」

 二人の内、一人がどこからか不思議な道具を取り出す。

 それが不思議な発光を見せると、その光に口を近づけた。

「ラアナとアファ、二名現着しました。これよりセグレトのダンジョンで起きた異常に関する調査及び星(・)の(・)書(・)の捜索を始めます。」

 誰もいない場所に何かを報告している。

 不気味とは思ったが、もうこれ以上関わりたくない。

 金を受け取った後、そのまま集落の方へ向かっていった二人を見送り、自分は少し遅れて集落に向かうことにした。

「帰りを依頼される前に、他の客見つけるか...。」

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