植物モンスター 触手のようなツタ
深層階へと足を踏み入れた途端、空気は一変した。湿り気を帯びた重い空気が肌にまとわりつき、壁や床には得体の知れない苔や菌糸がびっしりと生い茂っている。薄暗い視界の中で、スカウトである理央が手招きをした。
「気をつけて。植物型の反応。『腐敗のトレント』です」
理央の警告が終わるか終わらないかのうちに、通路の陰や壁の隙間から、ドス黒い緑色をしたモンスターたちが襲いかかってきた。木々が腐り、異様な進化を遂げたような醜悪な姿だ。
「来るぞ! 理央、下がれ!」
翼が怒鳴り、大盾を構えて前に出る。彼の広い背中が、トレントの太い枝のような腕の打撃を受け止める。ドンッ! という重い音と共に、床の石版がひび割れた。翼の筋肉が隆起し、その一撃をねじ伏せる。
「私も行く!」
霞は翼の背後から飛び出し、トレントの懐へと滑り込んだ。ソロの時とは違う、絶対的な安心感のある背中。その背中を信じているからこそ、霞は迷いなく剣を振るうことができた。
しかし、である。
霞がトレントの幹を斬りつけようとした、その瞬間。足元の影から、するするといくつもの細いツタが蛇のように伸びてきたのだ。
「えっ…きゃっ!?」
不意を突かれた霞は、回避することができなかった。ツタはまるで生き物のように素早く彼女の右足首に巻きつき、強烈な力で引っ張ったのだ。バランスを崩し、床に倒れ込む霞。しかし、ツタはそこで止まらなかった。
「離しなさいっ!」
更に別のツタが左足首に、そして両手首に絡みつき、一気に引っ張り上げた。霞の体は無理やり大の字に開かされ、空中に吊り上げられてしまう。まるで処刑台にかけられたかのような無様な体勢だ。
「霞さん!」
理央が叫ぶ。しかし、翼は目の前のトレントの猛攻を受けており、身動きが取れない。盾で攻撃を防ぐだけで精一杯なのだ。
霞は必死にもがいたが、ツタは鋼鉄のように強固でびくともしない。その上、この植物型モンスターはただ動きを封じるだけではなかった。
「んっ…あっ!」
一本の太いツタが、霞の股間の割れ目に沿うように滑り込んできたのだ。服の上からでもわかるほどの太さで、秘所をグリグリと無遠慮に押し上げてくる。硬い表皮の節くれ立った感触が、一番敏感な部分を容赦なく刺激する。
「いやっ…そこっ…ああっ!」
声が漏れた。剣士として鍛え上げられた精神力も、この理不尽な凌辱には抗えない。ビクビクと体が跳ね、恥ずかしい声が喉から溢れ出す。これも呪いのせいなのか。こんな卑猥なモンスターに絡め取られ、悦ぶような声を上げてしまうなんて。
「待ってて!今助ける!」
理央が短刀を抜き放ち、霞に向かって走る。同時に裕樹も詠唱を開始した。
「焼き切れ! ファイアボール!」
裕樹の手から放たれた炎の球が、霞を拘束しているツタを正確に焼き尽くしていく。焦げ臭い匂いと共に、ツタの拘束が緩んだ。理央が素早く残りのツタを短刀で切断する。
ドサッと床に落とされた霞は、すぐに体勢を立て直した。顔は真っ赤で、息も荒い。股間に残る嫌な感触と、声を漏らしてしまった羞恥心で、頭の中が真っ白になりそうだった。
だが、その恥ずかしさは瞬く間に激しい怒りへと変わった。
「このっ…エロ草がぁぁぁーーー!!」
霞は絶叫した。愛刀を逆手に持ち替え、未だ翼と対峙している本体のトレントへと突進する。翼が盾で敵の視線を逸らした一瞬の隙を突き、霞は神速の踏み込みを見せた。
「許さない!」
二刀流の乱舞。右の刀がツタを刈り取り、左の刀が幹を裂く。怒りに任せた鬼のような形相で、霞はモンスターを一瞬にしてただの切り刻まれた植物くずへと変えた。切り口からドロリとした樹液を撒き散らしながら、モンスターは絶命した。
荒い息を吐きながら刀を振るい血振りをする霞。その顔にはまだ紅潮が残っていた。
「大丈夫? 霞さん。災難だったね」
理央が心配そうに駆け寄ってくる。
「…これも、呪いのせいかしら」
霞は力なく呟いた。どうしてこうも、恥ずかしい目にばかり遭うのか。剣士としての威厳も何もあったものではない。
ふと視線を感じて横を見ると、裕樹が顔を真っ赤にしてそっぽを向いていた。おそらく、さっきの自分の声や様子を目撃してしまったのだろう。余計に恥ずかしくなる。
そして、一番肝心な人物。
「おーい、これ見てみろよ! 魔石のでかいのが出たぞ! これはいい金になる!」
翼はと言えば、切り刻まれた残骸の中からキラキラ光る魔石を拾い上げ、無邪気にはしゃいでいた。さっきの霞の悲鳴も、エロティックな光景も、まったく気づいていない様子である。
「…はあ」
霞は深いため息をついた。この鈍感さに呆れるやら、ある意味安心するやら。とにかく、これ以上ここにいたくない。
「行きましょう。先に進むわよ」
パーティは再び進軍を開始した。いくつかの小部屋を片付け、罠を解除しながら奥へと進んでいく。そしてついに、最奥の扉の前に辿り着いた。このダンジョンの主が待つ場所だ。
「ボス部屋だ。気を引き締めろよ」
翼の声に全員が頷く。重厚な扉を押し開けると、そこには巨大な骸骨騎士が待ち構えていた。デスナイト。強力なアンデッドモンスターだ。
(リッチじゃない…)
霞は少しだけ残念に思った。このダンジョンにエルダーリッチがいるかもしれないという淡い期待は外れたようだ。だが、だからといって手を抜く理由にはならない。
「うおおおぉぉ!」
デスナイトが巨大な大剣を振り下ろす。翼がそれを盾で受け止める。ガギンッ! という激突音が部屋中に響き渡る。
「今だ! 霞!」
「ええっ!」
ボス戦といえど、やることは変わらない。翼が壁となり敵の攻撃を受け止め、その隙に霞が敵の懐へと飛び込む。理央が的確に敵の目を狙う矢を放ち、裕樹が弱点属性の魔法を叩き込む。真白は翼の損傷を即座に回復し続ける。
完璧な連携だった。
ソロであれば死んでいたであろう攻撃も、仲間がいればただの攻撃チャンスに過ぎない。霞の二刀流がデスナイトの鎧を切り裂き、その中の骨を砕く。
「はあっ!」
最後の一閃。
デスナイトは断末魔の叫びを上げることすらなく、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
戦闘終了。
目当てのアイテムもリッチの手掛かりも得られなかった今回の探索だったが、パーティとしての連携と強さは十分に証明された。特に霞の剣技は彼らにとって最大の戦力であり、翼の盾は霞にとって絶対的な安心感をもたらしていた。
「よし! 帰還するぞ! お疲れ!」
翼の明るい声に、皆が笑顔で応える。
霞も刀を納め、汗を拭いながら小さく笑った。
理不尽な辱めもあったし、不運のせいで散々な目にも遭った。でも、不思議と心は軽かった。
この仲間たちとなら、いつか必ず呪いを解き、リッチを見つけ出せるような気がしたからだ。




