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エルダーリッチに「不運」の呪いをかけられた剣豪少女、剣だけは最強ですが…  作者: ミコジ


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本当の仲間

仲間を募集する――そう決意したものの、霞はすぐに現実の壁にぶつかった。高難易度ダンジョンに潛るためには、寄せ集めの即席パーティでは心許ない。互いの能力を理解し、連携の取れた既存のパーティに加わるのが最善だ。しかし、それは同時に、自分の居場所を一から築かなければならないことを意味していた。


「今の私の運で、いい仲間と出会えるのかしら」


霞は自嘲気味に呟いた。ギルドの掲示板に「パーティ加入希望」の貼り紙を出してから数日。彼女の心には拭いきれない不安が渦巻いていた。


しかし、彼女の知名度は想像以上だった。ソロ最強の剣士、宮本武蔵の末裔、そしてその容姿端麗な美貌。霞がパーティを探しているという噂は、瞬く間にギルド中に広まった。


貼り紙を出した翌日、早速声をかけてきたパーティがあった。


「宮本霞さん、ですよね?」


声をかけてきたのは、黒ずくめの装備に身を包んだ男だった。年齢は30代半ばといったところか。その後ろには、同じく黒系統の装備をした三人の男たちが立っている。


「俺たちは『漆黒の蛇』っていうパーティだ。俺がリーダーの剣士ヨシタカ。こっちが盾士のカズ、魔法使いのマコト、ヒーラーのミノルだ」


ヨシタカと名乗った男は、人懐っこい笑顔を浮かべながら手を差し出してきた。見た目は悪くない。むしろ、歴戦の冒険者らしい風格すら感じられる。


「お前さんがパーティを探してるって聞いてな。俺たちも高難易度ダンジョンに挑戦しようとしてたところだ。あんたほどの実力者が加わってくれれば、これ以上心強いことはない」


霞は差し出された手を取り、軽く握り返した。嫌な予感がした。いや、正確には、彼らの笑顔の裏に何かがあるような気がした。だが、今の彼女に選択肢は多くない。


「とりあえず、明日一緒にダンジョンに潛って実力を見せてもらうわ。それで判断する」


「おう、もちろん構わねえ。俺たちの実力、しっかり見てくれよ」


ヨシタカは満足げに頷き、仲間たちと共に去っていった。その後ろ姿を見送りながら、霞は小さく息を吐く。


(大丈夫。もし何かしてこようとしたら、返り討ちにしてやればいい)


彼女は剣に絶対の自信を持っていた。物理最強と呼ばれる所以は伊達ではない。どんなに屈強な男たちが束になろうと、彼女の二刀流の前では無力だ。そう自分に言い聞かせ、翌日の約束に備えて早々に寝床についた。


翌朝、待ち合わせ場所に現れた漆黒の蛇の面々は、昨日にも増して霞を持ち上げた。


「いやー、まさか本物の宮本霞と一緒に冒険できるとはな!」

「ソロであのエルダーリッチを倒したって話、聞いてるぜ。伝説だな」

「しかも実物は噂以上に美しい。これは目の保養になるってもんだ」


最後の言葉に、霞は眉をひそめたが、黙殺した。男たちは口々に彼女を褒め称え、まるで崇拝者のようだった。だが、その賛辞の裏に隠された何かが、彼女の警戒心を微かに刺激する。


今回挑むのは、高難易度ダンジョン「嘆きの墓所」だ。アンデッド系のモンスターが多く出現し、中層以降は罠も凶悪になる。霞は前衛を務め、盾士のカズが彼女のカバーに入り、魔法使いのマコトが遠距離攻撃、ヒーラーのミノルが回復とサポートを担当する。リーダーのヨシタカは、状況に応じて前衛と中衛を動く遊撃役という陣形だった。


ダンジョンの入り口を抜け、薄暗い通路を進む。早速ゴブリンやスケルトンが現れたが、霞は難なく斬り伏せていった。彼女の刀は一振りで敵を両断し、その動きは無駄がなく美しくさえあった。


「すげぇ」

「これがソロ最強の実力か」


男たちは戦うことなく、感嘆の声を上げている。霞は敵を一掃した後、振り返って彼らを睨んだ。


「あんたたちの実力を見るために来たの。私ばかり戦ってないで、次は前に出なさい」


口調は厳しかった。彼女の目的は彼らが信頼に足るかどうかを判断することであり、いつまでも自分だけが戦うのは目的に反する。


ヨシタカは一瞬仲間たちと目配せし、ニヤリと笑って頷いた。「わかったよ、宮本さん。じゃあ次は俺たちが本気を見せよう」


次の広間に差し掛かった時だった。そこには先ほどの比ではない数のスケルトンが待ち構えていた。霞は腰の刀に手をかけ、前に出た。

「数が多いから、少し減らすわ」

霞が2刀を抜いてスケルトンに突っ込む。


「こっちは俺たちに任せてくれ」

ガイルが霞にに言い、左側に進み出た。その後ろで、魔法使いのゼクスが詠唱を始める。


「……」


霞は違和感を覚えた。ゼクスの詠唱はスケルトンに向けられていない。その視線の先は、明らかに――霞だった。

全てのスケルトンを倒した瞬間。

麻痺パラライズ


マコトの杖から放たれたのは、銀色の光線だった。それは一直線に霞へと飛来する。


麻痺の魔法。成功率は高くない。運が良ければレジストできる。いや、通常の冒険者なら、レジストできる確率の方がずっと高い。


しかし、霞の運は最悪だった。エルダーリッチに奪われた運命の歯車は、この瞬間、確かに狂っていた。


「なっ!?」


銀色の光が霞の全身を包み込む。指先が、足が、そして胴体が、まるで氷に閉じ込められたかのように動かなくなる。膝から崩れ落ち、床に手をつくことすらできない。完全なる麻痺状態だった。


「ははは! かかった、かかったぜ!」

「いやー、成功するとは思わなかったな。やっぱり運が良かったのか?」


男たちの笑い声が、霞の耳に遠く聞こえる。彼女は必死に体を動かそうとしたが、指一本動かない。魔力を込めて刀を抜くことも、ましてや立ち上がることもできない。


ヨシタカがゆっくりと近づいてきた。その手には、短剣が握られている。彼は霞の目の前でしゃがみ込み、勝ち誇った表情で彼女の顔を覗き込んだ。


「あんた、有名人過ぎるんだよ。美人で、強くて、武蔵の末裔だって? 正直ムカついてたんだ。こういう機会でもなきゃ、手が出せねえからな」


短剣の先端が、霞のシャツの襟元にかかる。布が切れる音が、静かなダンジョンに響いた。


「やめ…て…」


声にならない声が、霞の喉から漏れる。ヨシタカは楽しげに笑い、一枚、また一枚と彼女の服を切り裂いていく。シャツがはだけ、防具が外され、下に着ていたインナーも切り裂かれた。


他の男たちも近づいてきて、霞を取り囲んだ。剥き出しになっていく肌。露出した鎖骨、そして黒いブラに包まれた胸。


「おいおい、マジかよ。こりゃとんでもねぇ体してんな」

「早く全部脱がせちまおうぜ」


霞の心の中で、何かが悲鳴を上げた。剣を振るうことだけを考えてきた彼女が、これほど無力で、これほど辱められたことはない。男たちの手が彼女のベルトにかかり、ジーンズを引き抜こうとした時、彼女の口からついに悲鳴が迸った。


「いやぁぁーーー!!」


それは、彼女自身も聞いたことのない、少女のような叫びだった。剣士の誇りも、武蔵の末裔としての矜持も、その瞬間は全て剥ぎ取られ、ただの怯えた女性としての叫びがダンジョンに木霊した。


「うるせえな。こんなダンジョン、誰も来やしねえよ」


ガイルがそう言って、霞のブラに手をかけた時だった。


「何してるんだお前たち!!」


怒声が広間に響き渡った。ハッとして振り返る漆黒の蛇の男たち。広間の別の入り口から、別の冒険者パーティが現れたのだ。彼らは明らかに高ランクの装備を身にまとい、深層から帰ってきたばかりのような風格があった。リーダーらしき大柄な男は大盾を構え、後ろには弓使いと魔法使い、そしてヒーラーらしき女性が控えている。


「てめぇら、何してやがる!」

「まずい、ずらかれ!」


漆黒の蛇の男たちは慌てて逃げ出そうとしたが、駆けつけたパーティの連携は見事だった。弓使いが足元に矢を放ち、魔法使いが風の壁で退路を塞ぐ。大盾の男はヨシタカにタックルをかまし、地面に押さえつけた。残りの男たちも次々に拘束されていく。


ヒーラーらしき女性が、霞に駆け寄った。


「大丈夫ですか!? 酷い…」


彼女は霞の麻痺状態に気づき、すぐに状態異常回復の魔法を唱えた。温かな光が霞を包み、麻痺が解けていく。自由になった体で、霞は震えながら自分の胸元を隠した。


「服を…」


「ああ、もちろんです。裕樹、予備のローブを!」


魔法使いがすぐにローブを持ってきて、霞に差し出した。彼女は震える手でそれを受け取り、急いで身に着ける。黒い下着が隠れていき、ようやく人心地がついた。


「君、名前は? ここで何を?」


大盾のリーダーが尋ねる。霞は顔を上げられず、うつむいたまま答えた。


「宮本霞…です。パーティに入るためのテストをしてたんですが…騙されました」


「宮本霞? あのソロ最強の?」

「うそ、あの人がなんでこんな…」


助けたパーティのメンバーが驚きの声を上げる。霞は恥ずかしさと屈辱で、今すぐこの場から消え去りたい気持ちだったが、なんとか耐えた。


「俺は翼。『暁の盾』というパーティのリーダーをしている。このダンジョンの深層調査を終えて帰るところだったんだ」


翼と名乗った大柄な男は、拘束した漆黒の蛇の男たちを睨みつけながら言った。


「こいつらはギルドに突き出す。君も一緒に来てくれ。事情を説明しなきゃならない」


霞は黙って頷いた。暁の盾のメンバーは漆黒の蛇の男たちを縛り上げ、霞の身を気遣いながらダンジョンの出口へと向かった。


ギルドに到着すると、翼たちは漆黒の蛇の男たちをつきだし、受付で事情を説明した。乃亜は蒼白な顔で霞を見つめ、「そんなことが…」と絶句した。霞は簡単に事情を話すと、「疲れたから帰る」と言い残し、ギルドを後にした。


その背中を見送りながら、翼は眉をひそめていた。同じ冒険者として、ソロ最強と名高い剣士がなぜここまで落ちぶれたのか。そして、彼女が背負っている「何か」に気づいていた。


一方、アパートへの帰路を歩きながら、霞は考えていた。


(翼という男…。彼の仲間たちも、実力が高かった。何より、人を助けるという正義感があった)


これまでソロ一筋だった霞にとって、パーティを頼ることは敗北に思えていた。しかし、今日の出来事で痛感したのは、どんなに個人の力が優れていても、それを補完する仲間の存在がいなければ乗り越えられない壁があるということだった。


「お願いしてみよう…」


霞は拳を握りしめ、ギルドへと引き返した。


ギルドに戻ると、翼はまだカウンターで手続きをしていた。霞は彼の前に立つと、深々と頭を下げた。


「お願いします。私を、あなたたちのパーティに入れてください」


翼は驚いた顔を見せたが、すぐにニカッと笑った。


「あんたの事情はまだよく知らねえ。でも、助けを求められたら応えるのが俺たちのモットーだ。よし、話を聞かせてくれ」


こうして、宮本霞は「暁の盾」への加入を認められた。彼女の不運との戦いはまだ続く。しかし、今は心強い仲間がいる。彼らと共にアイテムを手に入れ、リッチを見つけ出し、今度こそ倒すために。


不運という名の呪いに立ち向かう、新たな戦いが幕を開けようとしていた。

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