二体目の兆し
空に浮かぶ“それ”の内部で、
脈打つような揺れが走った。
一瞬、
王都全体の空気が
わずかに“遅れた”。
「……今の……」
セシリアが、
魔導計を睨みつける。
「揺れの周期が……
変わった……?」
リュミは息を呑み、
必死に同調を続けていた。
「……さっきまで……
“均す”揺れだったのに……
今は……
“選別”に近い……」
「選別……?」
ガルムが眉をひそめる。
イサナが、
低く言った。
「……学んでる。
“どこを取れば、
効率がいいか”」
ソーマは、
空から目を離さなかった。
(やっぱり……
ただの自然現象じゃない……)
◆
◆二つ目の影
空の割れ目――
その奥で、
別の歪みが生まれた。
最初の“それ”より、
ずっと小さい。
だが、
明らかに“意図”を感じさせる動き。
ノアが、
声を震わせる。
「……ソーマ……
あれ……
僕の世界で……
最後に現れたものと……
似てる……」
「最後……?」
「……一体目が……
世界を“薄く”して……
その後……
“選ぶ存在”が、
降りてきた……」
セシリアが、
はっと顔を上げる。
「……まさか……
前哨と本体……?」
リュミの声が、
かすかに震えた。
「……空が……
“二段階”で壊れる……
そんな……」
ガルムが、
斧を強く握る。
「……ふざけんな……
じゃあ今のは……
まだ“準備運動”かよ……!」
◆
◆役割が分かれ始める災厄
ソーマは、
歯を食いしばりながら
考える。
(最初の“それ”は、
高さでなぞるように
構造を集めている)
(……世界の“表層”を
均一にする役割……)
(じゃあ――
二体目は……)
空の奥で、
小さな歪みが
ゆっくりと向きを変えた。
高さではない。
**“場所”**を、
見ている。
「……来る……」
ソーマが低く言った。
「今度は……
高さじゃない……
意味のある場所だ……!」
「意味……?」
セイルが問い返す。
ソーマは、
即座に答えた。
「人が集まる場所。
歴史が重なってる場所。
――“王都の核”です」
全員が、
同時に息を呑んだ。
「……中央聖堂……」
リュミが呟く。
「……王城……」
セシリアが続ける。
ノアは、
震える声で言った。
「……世界が……
“どこを残すか”を……
決めに来てる……」
◆
◆選ばせないために
ソーマは、
一歩前に出た。
(これ以上……
“選ばせる”わけにはいかない)
「セイル長官」
「言え」
「一体目の誘導は、
続けてください。
南の採石場へ」
「二体目は?」
ソーマは、
一瞬だけ黙った。
(予報はない。
でも――)
(今は、
俺たちが“予報”だ)
「……俺が、
“意味”をずらします」
「どうやってだ?」
ガルムが聞く。
ソーマは、
王都の地図を指差した。
「中央聖堂と同じくらい
“意味が重い”場所を――
意図的に作る」
セシリアが、
すぐに理解する。
「……大規模魔術陣……
人為的な“歴史点”……!」
リュミは、
小さく頷いた。
「……私の同調で……
空に……
“祈りの重さ”を……」
イサナが、
静かに言う。
「……影で、
“偽の核”を編む」
ガルムは、
斧を肩に担いで笑った。
「……つまり……
“囮”だな?」
「そうだ」
ソーマは、
空を見上げる。
「世界に、
別の選択肢を見せる」
◆
◆災厄の視線
その時。
二体目の歪みが、
ぴたりと動きを止めた。
一瞬。
――“見られた”。
ソーマは、
はっきりとそう感じた。
ノアが、
青ざめる。
「……見てる……
ソーマを……
“選ぶ側”を……」
空の奥で、
歪みが
わずかに形を変えた。
まるで――
こちらの行動を、
待っているかのように。
ソーマは、
ゆっくりと息を吸う。
(……来るなら来い)
(世界に選ばせないためなら――
俺は、
何度でも“予報になる”)
王都の空は、
二つの異なる歪みを抱えたまま、
静かに、
次の局面へ進もうとしていた。




