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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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白光の予兆、青年の呼び声

――白光。


南棟の奥の廊下。

通常なら魔導灯が優しく照らすだけの空間が、

いまは“神殿の儀式場”のように白く満たされていた。


しかし――

そこには“神聖さ”のような清らかさは一切なく。


ただ、

世界の構造が薄い紙のようになり、

光がねじれて漏れ出しているだけの“危険な輝き”だった。


「……っ!」

 リュミが目を覆う。


「この光……魔力じゃない……!

 世界の“表面”が薄くなってる……!」


「もうやだよそんな薄皮一枚みたいな世界!!」

 ソーマが叫ぶ。


「薄皮は世界の基本構造の話よ、落ち着きなさい!」

 セシリアも叫ぶが声が震えている。


光の奥から――

“足音のようなもの”が響き始めた。


トン……

トン……


規則的。

だが、重さがない。


「来る……来る……来る……!!」

 ソーマが震える。


「ソーマさん、こっちを向いて!!」

 リュミが手を握る。


イサナは杖を構え、

声だけで告げた。


「ソーマ。

 もし会っても絶対に“返事しないで”。

 名前で呼ばれても答えちゃだめ」


「……返事したらどうなるの……?」


「“互いの揺れが繋がる”」

 イサナはきっぱり言う。


「そうなったら――

 あなたは外側へ“引き寄せられる”。

 もう誰も止められない」


「返事しません!!

 死んでも返事しません!!!」

 ソーマが必死に頷く。


「死んでもは嫌!!!」

 リュミも必死。


そして――

足音が止まった。


白光の中から、

“人影”がゆっくりと姿を現した。


金の髪。

灰青の瞳。

薄い笑み。


昨日峠で出会った青年が、

まるで普通の人間のように歩いてきた。


「……やあ」

 青年は穏やかな声で言った。


「ようやく、会いに来れたね」


ソーマの全身が凍り付く。


(――声が違う。

 昨日より“近い”音だ……

 これは……俺の世界の……)


胸が痛いほど締めつけられた。


青年は一歩踏み出し、

両手を広げた。


「ソーマくん。

 迎えに来たよ」


「返事しない!!

 絶対に返事しない!!」

 ソーマは完全にパニックだった。


「ソーマさん落ち着いて!!

 返事してませんまだ!!」

 リュミが必死で支える。


青年は笑った。


「返事しなくていいよ。

 もう“声”だけで分かるから」


「声だけで分かるな!!!」

 ソーマが青ざめる。


青年はソーマに近づく前に――

イサナの前で足を止めた。


「……君が、邪魔をしたんだね」


イサナの顔が強ばる。


「昨日の“共鳴”……

 君、ソーマの揺れを“引き留めた”」


青年の瞳が、

ほんの少しだけ細められる。


「危ないよ。

 そんなことをすると、

 君の揺れが“壊れる”」


イサナは杖を固く握りしめた。


「壊れてもいい」


「イサナさん!?!?」

 ソーマが叫ぶ。


「ソーマの揺れを奪うなら……

 その前に私が壊す」


青年は小さく息を漏らした。


「ねじれているね、君の揺れ。

 “境界の子”はいつもそうだ……」


その言葉にイサナが肩を震わせた。


ソーマは理解できなかった。


(境界の……子?

 イサナ……?)


リュミでさえ息を呑む。


(この青年……

 イサナさんの正体を……?)


青年は改めてソーマを見た。


灰青の瞳が、

初めて“人間らしい温度”を帯びる。


「ソーマくん」


――その声。


ソーマは思わず目を見開いた。


(……これ……

 俺の世界の、アナウンサーの声に……近い……)

(なんで……なんでこんな……)


青年は穏やかな笑みで続ける。


「“天気予報”を聞いたね。

 君はずっと、僕の声を聞いてくれた」


ソーマの背が震えた。


――ザァ……


再び、耳奥で微かなノイズが走る。


青年の声と、予報の声が、

一瞬だけ重なったように感じた。


(まさか……

 まさか、この人――)


「僕は、君の世界の“最後の揺れ”だよ」


ソーマの呼吸が止まった。


リュミがソーマの腕を掴む。


イサナが杖を握りしめる。


セシリアが息を飲む。


ガルムが無言で前に出た。


青年はゆっくりと手を伸ばす。


「ソーマくん。

 君は――“戻る側”の人間だ」


「戻りたくないぃぃぃ!!!」

 ソーマが即答して叫んだ。


青年だけが、

穏やかに、優しく笑った。


「戻るよ。

 僕と一緒に」


その瞬間、

白光が一気に広がり――

床が“沈んだ”。


ソーマの足元が、

音もなく消え始める。


「ソーマ!!!」

 リュミとガルムが同時に手を伸ばした。


だが触れた瞬間、


――ビリッ!!


二人とも弾かれた。


「結界!?

 ソーマを囲ってる!!」

 セシリアが叫ぶ。


青年はただ優しく告げる。


「君の世界は、

 まだ助けを求めているんだ」


「いやだぁぁぁぁぁ!!!

 俺が助け求めてるのはこっち!!

 あんたじゃない!!!」

 ソーマが叫ぶ。


「言ってはだめ!!

 揺れが繋がる!!」

 イサナが叫ぶが――


ソーマの足元は、

すでに“別の気圧”へ落ちかけていた。


――そのとき。


床の揺れを裂くような光が走った。


「させません!!」


リュミの叫び。


「《風避けの結界》――

 全出力!!」


白い風が、

ソーマの体を包むように吹き上がる。


青年の白光と、

リュミの風が、

正面からぶつかった。


――ゴォォォオオオ!!


廊下に渦が巻き、

南棟全体が震える。


ソーマは両手で耳を押さえながら、

ただ必死に叫んだ。


「帰らない!!

 俺は帰らない!!

 この世界で生きる!!!!!」


青年の瞳がわずかに曇った。


「……ソーマくん。

 それでも――」


一歩、踏み出す。


「君は“鍵”なんだ」


――次の瞬間。


影が光を裂いた。


イサナが杖を突き立てていた。


「ソーマは渡さない!!」

 イサナの瞳が燃えている。


「外側のあなたなんかに、絶対に!!!」


青年の視線が、

初めて“敵意”を帯びた。


「なら――

 君から消そう」


――白光が、

イサナに向けて歪んだ。

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