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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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暫定という名の綱

暫定という言葉は、救いに見えて罠でもある。

猶予を与えるが、同時に監視を強める。

王都評議会の決定は、その両方を含んでいた。


翌朝から、報告の頻度が増えた。

朝、昼、夜。

変動の数値、範囲、兆候、住民の動き。

どれもが書類になり、即座に回覧される。


天象庁の執務室は、静かに忙しい。

誰も急かさないが、全員が遅れを恐れている。

綱の上を歩いている感覚が、共有されていた。


セシリアが、机に並べた記録を指で揃える。

「……暫定は、伸ばせない。」

「……切れる前に、結論を迫られる。」


ガルムが腕を組む。

「……切れたら、即落下か。」

「……分かりやすいな。」


ソーマは、外縁部の地図を見つめていた。

揺らぎは、相変わらず静かだ。

広がりは緩慢で、危険域には達していない。

だが、注目だけは確実に集まっている。


「……綱は、揺らすな。」

ソーマは言った。

「……だが、張りすぎるな。」


若い職員が首をかしげる。

「……張らないと、落ちませんか。」


「張りすぎると、切れる。」

ソーマは即答した。

「暫定は、緊張と緩みの間で保つ。」


昼、評議会から追加要請が届く。

市民向けの説明資料の提出。

安心を与える文言の検討。


「……来たわね。」

セシリアが低く言う。

「名前は出さずに、説明しろってこと。」


ソーマは、短く考えた後に指示した。

「説明はする。」

「だが、断定語は使うな。」

「予測、可能性、幅、その三つに限定する。」


資料は、読みづらくなった。

だが、それでいい。

読みやすさは、結論を急がせる。


夕方、外縁部から小さな報告が入る。

風向きの変化。

地表温の微増。

住民の体感に、違和感が出始めた。


リュミが目を閉じる。

「……空が……綱を……意識しています……。」

「……張られすぎると……抵抗します……。」


ソーマは、地図に印を一つ足した。

印は増やすが、線は引かない。

線は、境界を作る。


夜、屋上。

王都の灯りは、今日も規則正しい。

その規則が、綱を細くしている。


帳面を開く。

今日の記録は、短く、重い。


――暫定は、時間を買う。

――時間は、選択肢を守る。

――だが、張りすぎれば切れる。

――歩幅を守れ。


ペンを置く。

三日の猶予は、確実に減っている。

綱は、まだ持っている。

だが、油断すれば一瞬だ。


明日は、揺れが来る。

意図的な揺さぶりか、自然な変化か。

どちらでも、耐えなければならない。

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