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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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決めない理由を決める

期限の四日目。

評議会からの呼び出しは、もはや穏やかな体裁を保っていなかった。

要請ではなく、出頭。

それだけで、圧の質が変わる。


円卓の間は、広く、静かで、逃げ場がない。

発言者の声が、必ず全員に届く構造だ。

ここでは、曖昧さは長く生きられない。


議長が口を開いた。

「未分類事象について、いまだ定義が提示されていない。」

「残り三日で結論が必要だ。」

「本日は、その理由を説明してもらう。」


理由。

つまり、なぜ決めないのかを、決めろという要求だ。


ソーマは立ち上がり、深く一礼した。

手元の資料には触れない。

今日は、厚みではなく言葉で受ける必要がある。


「理由は一つではありません。」

「ですが、結論は明確です。」

「決めないことでしか守れない可能性がある。」


場内に、かすかなざわめき。

議長が手を上げ、制した。


「抽象論は不要だ。」

「具体的に述べよ。」


ソーマは頷く。

「未分類の変動は、外縁部にあります。」

「住民干渉が少なく、王都モデルの影響を受けにくい。」

「この条件下では、干渉そのものが性質を変えます。」


「それは推測か。」

評議員の一人が問う。


「観測事実です。」

「過去事例でも、初期介入が固定化を招いた例があります。」

「固定化は、短期的な安全をもたらします。」

「しかし長期的には、破断点を作る。」


別の評議員が口を挟む。

「だが、名を与えず放置すれば、市民不安が増す。」


「不安は、名で消えません。」

ソーマは即答した。

「一時的に隠れるだけです。」

「むしろ、誤った名は、誤った安心を広げます。」


沈黙。

誰もが、その言葉の重さを測っている。


議長が、低い声で続けた。

「では問う。」

「いつまで決めないつもりだ。」


ソーマは、視線を逸らさない。

「決められる条件が揃うまでです。」

「変動が収束するか、性質が自ら明確になるか。」

「あるいは、危険域に達した時。」


「それでは遅い。」

評議員が言う。


「遅いからこそ、意味があります。」

ソーマは静かに返す。

「早すぎる決断は、選択肢を殺す。」

「遅れは、可能性を残す。」


その瞬間、評議会の空気が変わった。

賛同でも反発でもない。

責任の所在が、はっきりと一人に寄った。


議長が言った。

「では、その遅れの責任は誰が負う。」


「私です。」

ソーマは一歩も引かない。

「判断しなかった責任も、判断した場合と同じく。」


評議会は、短い協議に入った。

囁き声。

資料をめくる音。

時計の針が、やけに大きく聞こえる。


やがて、議長が結論を告げた。

「三日後、再度判断を求める。」

「それまでの間、未分類を暫定容認する。」

「ただし、進捗報告は毎日提出せよ。」


暫定。

容認。

猶予は、削られたが消えてはいない。


夜。

天象庁の屋上。


風は弱く、雲は低い。

リュミが静かに言う。

「……空は……まだ……待てます……。」


セシリアがため息をついた。

「……理由を決めるって、消耗するわね。」


ガルムが肩をすくめる。

「だが、逃げ切った。」


ソーマは、王都の灯りを見下ろした。

逃げたのではない。

踏みとどまっただけだ。


帳面を開く。

今日の記録は、こうだ。


――決めない理由は、未来を守るための盾だ。

――盾は、持つ者を選ぶ。

――選ばれた以上、下ろすまで立て。


ペンを置く。

期限は、確実に迫っている。

だが、理由は決まった。


次は、その理由を保ち続ける番だ。

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