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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第四章

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未分類のまま進め

未分類という言葉は、天象庁では嫌われる。

理由は単純で、扱いづらいからだ。


分類できない現象は、予測できない。

予測できないものは、計画に組み込めない。

計画に組み込めないものは、責任の所在が曖昧になる。


だから本来、未分類は一時的な状態でなければならない。

調査され、数値化され、定義され、名前を与えられる。

それが、天象庁のやり方だった。


だが今回、ソーマはその流れを止めた。

外縁部の魔力変動は、意図的に未分類のまま残された。


その判断は、すぐに軋みを生んだ。


翌日の内部会議。

議題は、例の外縁部変動だった。


「未分類のまま観測を継続する理由を、改めて説明してください。」


発言したのは、王都本部から派遣されている監査官だった。

表情は穏やかだが、声に感情はない。


ソーマは立ち上がらず、席に座ったまま答えた。


「理由は二つあります。」

「一つは、現時点で干渉すると変動の性質が固定される可能性が高いこと。」

「もう一つは、王都内部の観測モデルが、この変動を前提としていないことです。」


監査官が眉をわずかに動かす。


「前提としていない、とは?」


セシリアが続けた。


「王都の観測モデルは、長年のデータを基に構築されています。」

「しかし、そのほとんどは管理領域内の事例です。」

「外縁部、かつ住民干渉の少ない場所での継続的揺らぎは、モデルに存在しません。」


「だからこそ危険では?」

監査官の声は冷静だった。


「危険です。」

ソーマは即答した。

「ですが、未知であることと、即座に排除すべきことは同義ではありません。」


会議室が静まる。

誰も、すぐには言葉を継げなかった。


ガルムが腕を組んだまま口を開く。


「管理した瞬間、安全になると思ってるなら、それは幻想だ。」

「俺たちは今まで、管理したことで起きた災厄も山ほど見てきた。」


監査官は、一拍置いてから言った。


「あなた方は、“管理しない未来”を許容するというのですか。」


「許容ではありません。」

ソーマは首を振る。

「選択です。」


「管理しないことで生じる責任も、理解しています。」

「それでも、今回は“決めない”という決断をしました。」


監査官は、それ以上追及しなかった。

ただ一言だけ、こう告げた。


「では、その未分類が問題を起こした場合、責任は誰が負いますか。」


ソーマは、少しだけ考えた後に答えた。


「私です。」

「天象庁ではなく、王都でもなく。」

「この判断をした、私が負います。」


その言葉に、セシリアが一瞬だけ目を見開いた。

ガルムは何も言わず、歯を食いしばった。

リュミは、胸元を押さえたまま俯いた。


会議は、それで終わった。

正式な承認も、否定も出なかった。


だがそれは、事実上の黙認だった。


夜。

天象庁の屋上。


王都の灯りを見下ろしながら、セシリアが静かに言った。


「……責任、背負いすぎよ。」


ソーマは、夜空から目を離さずに答える。


「分かってる。」

「でも、未分類のまま進むなら、誰かが名指しで背負わないといけない。」


リュミが、小さな声で言った。


「……空は……その選択を……覚えています……。」

「……重いけれど……拒んでいません……。」


それは、肯定でも祝福でもない。

ただ、世界が記録したという事実だった。


ソーマは帳面を開く。

いつものように、短く書く。


――未分類は、逃げではない。

――決めなかったという、明確な意思だ。

――未来を閉じなかった責任は、必ず戻ってくる。


帳面を閉じる。


王都は今夜も静かだ。

だがその外側で、分類されない何かが、確実に育ち始めている。


それを見ないふりはしない。

だが、急いで名前をつけることもしない。


その選択が正しかったかどうかは、まだ誰にも分からない。

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