新しい仲間達
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次話です。
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宿屋への帰り道。
北通りを宿屋に向かって歩いていると……。
ザッ!
突然目の前に黒装束の人物が屋根から飛び降りてきた。
「っく、油断した。あの方に何と申し開きをすればいいのか。」
女性の声だ。
どうしたんだろうと思ってしばらくその人を観察する。
夜の闇に溶け込むような色合いの装束だ。
・・・隠れることに慣れた人なんだろう。
今は頭の装束が解けて顔が見えている。
その姿を見てどこかの国の隠密だろうかねと思った。
髪を後ろでまとめていて顔も見える。
左まぶたには古い傷跡。
・・・それでも整った顔立ちだった。
暗闇に溶け込んでいるようでそれ以上は判断が出来ない。
そんな黒装束の女と目が合う。
その人は「ハッ」としてから左手で顔を隠す。
顔を隠しながらきつい目つきで俺を見る。
「貴様――今、顔を見たな?」
女の殺気が膨れ上がる。
普通なら足がすくむほどの圧。
……だが、不思議と恐怖はなかった。
それを見ていたアリスが「ヘファさん!」と叫んでいる。
ピィー!
そう思っていると、衛兵が呼子を鳴らして近づいてくる。
「こっちだ!こちらから声が聞こえたぞ!」
「逃がすなっ!」
「その先は北門だ、何としても逃がすな!」
声がだんだん近づいてくる。
不利を悟ったのか、夜と一体化したような装束の女の子が「ッチ」と言って煙玉を使う。
「貴様――次は必ず消してやるからな!」
白煙が一気に路地を埋めた。
思わず口元を覆う。
【ゲッホゴホ・・・。】
「ケホッ、ケホッ!」
アリスが咳き込む。
【アリス、大丈夫か!】
ハンカチをアリスの口元へ当てる。
煙が晴れた頃には、黒装束の姿はもう無かった。
「ヘファさん?」
【大丈夫、アリスは俺が守るからね。】
「ありがとなのです、ヘファさん!」
しかし、物騒な事を言っていなくなっちゃったぞ?
うーん、なんか面倒事に巻き込まれたかな?
煙の向こうから衛兵達の怒号だけが響いていた。
衛兵が近づいてくるがこれ以上面倒事に巻き込まれたくないので、アリスを抱えるとその場を後にするのだった。
どうやら無事に衛兵を撒けたようだ。
落ち着いた所でアリスを降ろす。
アリスは終始笑顔だった。
「楽しかったのですー!」
とか言っている。
肝のすわった子なのかな?
いや、何がおこっていたのか分からなかったのだろう。
【そうかー、楽しかったかー。】
と、アリスの頭を撫でる。
しばらく話しながら北通りを歩く。
この子が騒動に巻き込まれなければいいんだけれど。
そう『アリステリア』様に祈っておいた。
問題はあったが、宿屋にたどり着いた。
先程も来たが、ここはルイスちゃんのおすすめの宿である。
【アリスさんや?さっきの事は皆には内緒だよ?。】
「はいなのですー!」
そう約束してアリスに同意を求めてから、扉を開けて中に入ると部屋の中は暖かかった。
窓の方を見ると薪ストーブがあったのでこれが暖を取らせてくれているのだろう。
「ヘファさん、ハンカチありがとうなのです!」
【どう致しまして、もう咳は出ないかな?】
「大丈夫なのですー!」
この子の笑顔は本当に癒されるな。
さてと……ルイスさんは何処だ?
食堂のテーブルに視線を移すと奥のテーブルに、ルイスと三人の子供を見つけた。
晩飯時なのでガヤガヤと喧騒がしている。
他のテーブルも何か所か埋まっているようだ。
だがこの子達のテーブルにはカップに入った水が四人分置いてあるだけだった。
ルイスさんと別れる前に少しでもお金を持たせるべきだった。
気の利かない奴だな……。
俺の事だが……。
そう言えば入り口の看板に満室という札が張ってあったな。
商売繁盛でなによりだ。
厨房の方から、良い匂いが漂ってきている。
そういえば腹が減ったな。
タイミング良くアリスのお腹が「ぐ~」っと鳴る。
「あわわあぁぁ……。」
【もうちょっと我慢してね。】
「は、はいなのです!」
【良い子だね、アリス。】
そう言いつつ視線を戻す。
ルイスの周りにいる子達が話にあった三人なのだろう。
見るとテーブル席で六人掛けなので人数的にはちょうど良い。
【やあ、皆さん、こんばんは。】
手を振りながらアリスと近づいて行く。
「「「こ、こんばんはー。」」」
良かった、挨拶が帰って来た。
「お疲れ様アリス。ヘファイス……アンタもね。」
と、微笑んでくれているのは十六歳の学級委員のルイス。
先程とは別人のように気安くなっている。
嬉しい限りだ。
「寒い中、帰って来た所に悪いんだけど、先に紹介するわね。まずは……。」
「はーい!」
と、元気な声を上げたのは緑髪を後ろでリボンにまとめてポニーテールにしている女の子。
緑が地毛とはさすがファンタジー。
綺麗な赤い目をしている。
元気良く立ち上がって自己紹介をして来る。
「『リズベット』です!『リズ』って呼んでね。人間の十四歳、恋人募集中です!」⦅チラッ⦆
恋人募集中ってなぁ……。
【俺の恋人にはまだ早いぞ?】
「チェー、アタシの魅力が分からないのかしら?」
なんか俺を見てポーズを決めているんだが……。
視線を感じるが俺はロリコンじゃない。
頑張れよ、リズベット。
あと五年ぐらい経ったら大きくなって成熟しているだろうか?
おっと話がそれた。
【よろしくね、リズ。】
「こちらこそ!」
握手をする。
手を放すと話し始める。
【リズは今まで、どんな仕事をやってたんだい?】
「マオと一緒に狩りと採取ですね!」
ほほう、狩りとな?
おじさん興味出て来たな。
【この辺りだと何が獲れるの?】
「ウサギを追いかけるのが精一杯ですよ。弓でバビューンです!」
リズは身振り手振りで教えてくれる。
流石は元気っ子。
【なるほど、兎は逃げ足が速いだろうから大変だろうに、危険は無いのかな?】
「狼が来るのを感じたら全力で逃げてるの!危ない時はマオが教えてくれるの!」
マオって……この獣人の子の事かな?
だが危険には違いない。
【安全が一番なんだから、気を付けてね。】
「はい!で、速いっていつまで待てばいいのかしら?」
【俺の恋人には五年ぐらいは待ってもらわないとな。】
「それじゃあ行き遅れになっちゃうじゃない!アタシの魅力に気が付いたら後悔しても遅いのよ?」
【ははは、君は面白い子だね、リズ。】
リズは手を上げて元気に答えると席に座る。
ちょっと心配になって来た。
狼と言えば『ティンバー・ウルフ』か『グラス・ウルフ』辺りかな?
あの類はあまり強くなかったイメージがあるんだけどな。
だが、この子達には危ないのだろうから注意して欲しいものだ。
「そう言う訳で『リーダー』さん、何をすれば良いか教えてね!」
と、リズが言う。
ん?
リーダー?
【え?俺がリーダーで良いの?ルイスさんがやるんじゃないの?】
と、ルイスの方を向く。
最年長はルイスだからね。
「その方が都合が良いのよ。商業ギルドの登録をしてるのがアタシとアンタだけだもの。しかもほとんどアンタが作ったりするんでしょう?当然の権利だと思うけど?ふふっ。」
ルイスがニヤリと不敵に笑う。
この子押し付けてきやがった……まあ仕方がない。
【んっ、では、リーダーを務めます『ヘファイストス』です。『ヘファ』って気楽に呼んでくれると嬉しいな。当面の宿代と御飯代は俺が持つから安心してね。後は聞いてると思うけれど、頑張った子には給金が出ますのでよろしくね。】
「「「はーい!」」」
「ヘファイストス、ありがとうね。」
皆から元気な返事が返ってくる。
まぁ宿代なんかは必要経費だよね。
とか思っていると、ルイスが促して来る。
「落ち着いた所で次の人ね。」
その声を聞いた人物が静かに立ち上がって自己紹介をしだす。
「……ベアトリクスです。」
小さく頭を下げる。
本をぎゅっと抱き締めている。
【本が好きなんだ?】
「……はい。」
【いつも持ち歩いてるの?】
「……大切なので。」
【こちらこそ、これからよろしくね。】
ボソボソっと喋るこの子は黒髪のロングで後ろ髪に髪飾りを着けている。
前髪で目が隠れていて顔が良く見えない。
食事時だと言うのにその両手には年季の入った紙の本を抱いている。
よっぽど大切なのだろう。
手を差し出すと本から片手を放して応えてくれた。
リズと同じように握手をする。
すると安心したのかな?
ボソボソとだが話し始めてくれた。
「私はルイス姉と一緒に……採取と……物売りを……してました……。」
【採取か……と、言う事は秘薬とかを取っていたの?】
「はい……門のすぐ近くで取れるので……遠出しなくても済みますので……。」
【秘薬は重要になるから、これからもよろしくね。本が好きなら、文字の読み書きは出来るのかな?】
ちょっと顔が頷くように動いた。
「はい……。」
読み書きが出来るなら露店をする時は即戦力じゃないか。
後は・・・コミュ力かな?
ジーっと見ていると、恥ずかしいのだろうか頬っぺたを赤くして俺から視線を外すように椅子に座る。
で、最後の人物がこれまた元気に立ち上がって自己紹介をして来る。
「マオです!」
尻尾がぶんぶんしてるぞ!?
先程の話に出て来たこの子は……。
【猫人族?】
「はい!十二歳です!」
その耳がピンと立っている。
俺との話に興味があるのだろうか?
【狩りしてたの?】
「リズ姉と!」
【リズの言っていたマオとは君の事か、こちらこそよろしくね。あれ?……十二歳!?】
「獣人は人間と違って青年期が長いです!」
【その言い方だと子供の時が少ないのかな?】
「そうです。十二歳を過ぎると、これ以上身体は成長しないです。」
なるほどね、十二歳で成長限界が分かるのか。
嬉しいやらなんやら。
マオさんは見た目と年齢が一致しないんだなっと……。
握手を交わす。
銀髪ショートな元気っ子だ。
ショートヘアが似合うね。
腰の辺りから八十cm程の尻尾が出ている。
しかし、この体型で十二歳?
結構、大きいよね?
身体の成長に教育は付いて来ているのだろうか?
これから過ごしていく中で確認しよう。
【仕事は狩りをしてたの?】
「リズ姉と一緒です!」
【なるほどね。】
そう言えば、リズがそう言ってたなと思い出す。
「アタシには狼とかの足音を聞き分ける耳があるので!」
そう言って頭の耳を指さす。
ピクピク動いている。
そういえば獣人だからとかで差別はされないのだろうか?
【頼りになるね。ただ、慢心しないで危ないと思ったらすぐに逃げる事!】
「了解であります!」
そして椅子に座る。
アリス、ルイス、リズ、ベス、マオ。
五人全員女の子か、よく女の子達だけでやりくりしてたな。
……実はルイスって統率力すごいんじゃね?
【宿屋は三部屋とってあるから各二名で使ってね。組み合わせは適当に決めてくれるかな?俺はアリスと寝るよ。】
「わーい!ヘファさんと一緒なのですー!」
アリスが小躍りして喜ぶ。
「お兄さんとは、アタシが寝たかったなー……。」
と、リズが色目を使って来るが、軽く受け流す。
【まだ早いですね、却下です。】
即答するとリズが「ぐぬぬぬ。」と悔しがっている。
せめて、成人年齢になったら考えようかね。
それまでに育っていますように……。
いい加減に話に戻ろうか。
【それと部屋は十日は借りてあるので、君達の自由に使ってほしい。業績次第で泊まるのを伸ばすのか決まるので皆で頑張ろう!】
「「「はーい!」」」
皆のやる気が窺える元気の良い返事だ。
俺は簡単に自己紹介をする。
三人は初対面だから改めてね。
これから一緒に頑張って行く仲間だからね。
最初から気負いすぎないようにと言って話を締めくくった。
さて自己紹介が終わったのでそろそろ皆の腹も限界だろう。
料理を頼もうか。
皆が席に着くとメニューを見ている。
「アタシ、字は読めないわよ?」
「私もです!」
メニューを広げているリズとマオがそう言ってくる。
アリスは読めないだろうしな。
案の定、ルイスに読んでもらっていた。
ふむふむ、読み書きが出来ない子が三人か。
と、言う事で昼とは違う店だけれども、夜もオススメを六人分頼んでみた。
【字を『読み書き』する事と、基礎となる『算術』は最低限必要だから皆に覚えてもらおうと思います。】
「「「えー!勉強するのー!?」」」
勉強嫌いだろうの子、リズ、マオ、アリスの三人から不満の声が上がる。
【先生はルイスさんに頼むよ、俺は甘やかしちゃうからね。】
「分かったわ。」
談笑していると料理が来た。
「今日は寒いし牛の良い所が入ったから牛肉のシチューだよ!」
女将さんの威勢の良い声が響く。
各自の目の前に料理が並んでいく。
ビーフシチューといっても、茶色くない薄い白い色をした物だった。
皆の顔が嬉しさで満面の笑みになる。
「付け添えは黒パンとサラダだよ!シチューと黒パンはお代わりがあるからね!食い倒しな!」
威勢の良い女将さんに多めに銅貨を渡す。
「まいど!」
そう言って女将さんが厨房に戻って行く。
リズが言う。
「待ちきれないよー!」
ベスが微笑んでいるようだ。
「こんな料理……久しぶりね……。」
マオは涎が決壊しそうだ。
「お……美味しい、ゴクッ、ですか?」
きっと、皆、久しぶりの料理で味の想像が出来ないのだろう。
ジーっと料理を見ている。
「ゴクリッ、なのです!」
アリスさんは涎を飲み込んでおられるので、さっさと食べさせましょうか。
ルイスが皆を促す。
「お腹が鳴る前に食べましょう。」
引き続いて俺が言う。
【では、いただきます!】
俺がそう言うと皆が首をかしげる。
「「「いただきます?」」」
リズ、ベス、マオ、アリスから疑問が出る。
アリスさんには説明しましたよね?
【ああ、これは俺の故郷で「大地などのお恵みに感謝して食事をします、神様、毎日の糧をありがとうございます。」っていう事なんだ。】
「お兄さんの国の言葉なのね!」
「なるほどです……。」
「分かりましたー!」
「分かったのですー!」
と、四人が言っている。
【では改めて、「いただきます!」】
「「「いただきまーす!」」」
皆が元気に言ってくれる。
少しくすぐったいな。
と、俺は笑顔になる。
牛肉のシチューは皆に好評だった。
黒パンを付けて食べたりしている子もいれば、シチューをしっかり味わっている子もいる。
「ねー、お兄さん、お兄さん!これ美味しいね!」
そう言えば、リズの呼び方がお兄さんになっている。
それだけ懐いてくれたのだろうか?
「美味しい!美味しい!美味しい!」
アリスはモグモグと頬張ってハムスターになっているし・・・。
ベスはモゴモゴと食べながら「牛肉って柔らかいのね。」と感想を言っていた。
マオは美味しさのあまりだろうか、泣きながら食べていた。
あ、そうだ。
【お姉さんー!】
「はーい!」
と、返事がすると給仕のお姉さんがやってきてくれた。
食事の終わるころに各部屋にお湯の入った桶を二個ずつ頼んでおいた。
計六桶で銅貨六枚で頼めた。
風呂は貴族様の屋敷にしか無いらしいので、せめてお湯で体を拭いてもらおうと思って頼んでおいた。
隣で落ち着いて食べているルイスにタオルと石鹸を皮袋に入れて人数分渡しておく。
袋を確認していると石鹸を確認したのかルイスが慌てて聞いて来た。
「そ・・・そんなに匂う!?」
ルイスが慌てて体の匂いを嗅ぐと、真似をして他の皆が体の匂いを「クンクン」と嗅いでいた。
【俺は気にしないけれども、宿にいる他のお客さんには汚れているとか言われたくないだろう?それにさっぱりして寝ると気持ち良いんだよ?】
「わ、分かったわ。ちゃんと綺麗にするわね!」
そう言っているルイスの顔にも煤だろう物が付いている。
全員が慌てて頷く。
気にする所を見るとやっぱり女の子なんだよね。
会っている時間は少ないけど親しくなってきた感じがすると思う。
嬉しくて顔がニヤニヤする。
そうか、これが『家族団欒』ってヤツなんだよな。
今、俺はすごく幸せだと思う。
この家族という感覚は前世では長い間無かったからね。
皆が食べ終わるまで待ってから。
【ごちそうさまでした。】
それぞれが真似をして復唱する。
「「「ごちそうさまでした!」」」
そして食事は終わった。
食事が終わる頃には、アリスがこくりこくりと船を漕いでいた。
「アリス、寝る前に体を拭っておかないと駄目ですからね?」
「にゅー、がんばるのですー。」
・・・最初に会ったイメージと全然違うね、アリス。
そんなアリスを見て微笑んでいる。
「それでは、アリスを拭って来るわね。」
【お願いね。】
ルイスはそう言うとアリスをおんぶして割り当てられた部屋に運んで行く。
【皆も体を拭って気持ち良くなって、明日に備えようね。】
俺が言うと残っている皆から「「「はーい!」」」と元気な声が聞こえた。
各々部屋に移動していく。
俺も部屋に行き、準備された結構大きめな桶のお湯で体の汗を拭う。
桶の大きさは女将さんのサービスだろうか?
だとしたら良い宿に泊まれたね。
湯桶が二個あったのに気付いて慌ててルイス達の部屋に持って行った。
部屋のドアをノックすると体を拭いていた為にドアの外に湯桶を置いておく。
おっと、お約束はしないからね?
俺は自分の部屋に戻ると髪も洗ってみた。
体も良く拭う。
ああ、サッパリした。
タオルでよく水分を拭いてから服を着る。
約一時間後、今度は酒場となった一階に降りる。
食事目当ての客がいなくなり、酒場となった一階をぐるりと見まわす。
一階に降りたのは情報収集の為だ。
冒険者やお客さんの話から何が売れるのか等の『情報』が聞ければ良いなと思ったからだ。
カウンター席に座る。
【お姉さん、お酒は何があるの?】
給仕のお姉さんに声を掛ける。
異世界のお酒、気になりますね。
「エールがありますね。後はミードとワインです、どちらも水で薄めるんですがお勧めはミードかな~。」
普段が安物のビールだった俺は他の酒の銘柄なんか知らない。
エールがビールみたいな物だっけ?
【なら、お姉様がオススメしてくれたミードをお願いしますね。】
格好つけて頼んだけどミードって蜂蜜酒だよね?
違ったかな?
「はーい。」
と、言ってお姉さんは奥へ消えていく。
その後ろ姿を見る、うん良いお尻だ。
やはり成熟した体は良いね。
お近づきになりたい。
……溜まっているのかな俺?
さてと、本来の目的を果たすか。
周りの声に耳を傾ける。
集中しようかと言う所で。
「ハイ!お待ち、ミードだよ~。」
おっと、いつの間にか横にお姉さんが立っていた。
また気付けなかった。
この世界の女性達は気配を消すのが上手いのか?
代金とチップを支払ってミードのジョッキを受け取る。
チップが多かったからかお姉さんが頬にキスをしてくれた。
うふふ、キスしてもらっちゃったよ。
だが、あのお姉さんも侮れんな。
気配には気を付けていたはずなんだけどな?
さて、アルコールはこの体になってからは初めてだが……。
「グビッ……。」
うん、口当たりが良く飲みやすい。
蜂蜜の爽やかな感じで口の中がさっぱりする。
良いね。
後は飲みすぎないようにしよう。
明日があるからね!
さてと、改めて集中しよう。
『ガハハハ、ロングソードが飛ぶように売れるぜ!』
『鉄のか?』
『もちろん、鉄だ。ロウクオリティーだけどな!』
『鉄のハイクオリティーは出せば売れるからな、まあ、俺みたいな半端者にゃあ打てねえがな。』
ふむふむ……
『おい、聞いたかよ。ガジマーの馬鹿が耳を凍傷で壊しちまったらしいぞ。』
『冬に毛皮の張ってないプレートメイルなんか装備するからだぜ。』
『まったくだ……俺みたいに、スタッドにしときゃあ助かったのにな。』
『これでまた一人ベテランが消えるな。』
南無……
『ポーションて言えばよぉ……。』
『なんだよ?』
『値上げするとか聞いたけどよ、どうなってるんだ?』
『俺は高品質の上級品が売られる日を聞いたぞ?』
『マジか、話の信憑性はどうなんだ?』
『ちょっと待て、値上げって……ギルドは認めたのかよ?』
『いやそこまで行ってないらしい。』
値上げか……あれ?
売り時じゃねえ?
『鉱山街道にオーガが出るらしいんだ。いくつかのパーティーが依頼を受けたってよ。』
『マジかよ、じゃあ鉱山にはいかない方がいいな。』
『あそこにはエティンも出るから気を付けねえとな。』
ほうほう……
『鉱山の中のアース・エレメンタルがスゲエ数になったって聞いたぞ。』
『南西の町のかよ?』
『あの坑道にうじゃうじゃ沸いてるって話だぜ?』
『群れのモンスターなんかリスクだけじゃねえかよ。』
『そうだぜ、しばらくは鉱山に入れねえらしいぞ?』
アース・エレメンタル……ねえ。
『西街の色町は良かったな。』
『ああ、「ムーンライト」だろう?』
『そうだ、アンジェちゃん~、また会いに行くぜ!』
『俺の好みの子がいるんだろうな?』
『もちろんだぜ?』
『そりゃあいい、巨乳を扱っている店もあるがどうせ売れねえよ。』
『そんなの好きな奴がいるのかよ?気持ち悪いだけだぜ。』
『そうだぜ、それよりよ……。』
色町か……違う文化って言うのもいつか見てみたいね。
ん、こんな物かな?
集中を解く。
整理しよう。
優先すべき事は……。
1、ハイクオリティーの鉄製ロングソードが人気らしい。
これは鋼でハイクオリティーを作る予定なので問題はないはずだ。小金貨で三枚だし、高いから売れ
るかは分からんけどね。
2、ポーションは上級までの「高品質」の物が売れ筋らしい?
これはルイス達が頑張ってくれるから大丈夫だろう。
3、南西の森に「オーガ」が出るらしく討伐依頼が出たらしい。
オーガならゲームの時は雑魚だったから問題はないんじゃないかな?
優先する事はこの三個かな?
その中でも最優先として、ルイス達に南西での活動は止めるように言っておかないとね。
聞き耳を立てていた俺は集中を解く。
情報収集はこんな感じに纏まった。
オーガなんて、ゲームの頃なら余裕だったんだけどな、なんて思い出してしまう。
ゲームとは違うという事だろうか?
このオーガの件だけ何か引っかかりを覚えた。
とにかく、まだまだ分からない事だらけだ。
まさか――この世界のモンスターが強くなっているとか?
どうもスキル値三十ぐらいの冒険者が四人以上のパーティーを組んで戦う相手のようだ。
うーん、全体的に冒険者のスキルが低いような気がするんだよね?
鉱山の町の坑道内にはアース・エレメンタルが出る。
これも今のところは行く予定はない。
南西の鉱山町付近にはモンスターがいないそうだ。
鉄や鋼鉄の鉱石を採掘するのなら、そこが良いらしい。
なんと近くに高炉等の設備が取り付けてあるらしい。
高炉があれば鉱石をインゴットに出来るしね。
良い事を聞いたな。
女の子の話を聞いていて思う。
ああ、『アリステリア』様、是非にまたお会いしたい。
神都に行けば会えるのだが行く用事がない。
残念だ。
スレンダーな女性か……。
でもどんな女の子でも尊いよね。
あの柔らかい肢体なんかは・・・。
おっと、考えが脱線してしまった。
まあ中身はエロいおっさんなので勘弁してほしい。
と、今日の所はこんな感じかな。
残っていたミードをグイッと飲み干す。
美味かった。
もう一杯行きたい所だが明日もあるのでここで我慢だ。
俺にはまだやる事がある。
結構良い情報も貰えたしそろそろ寝るか。
酔っていると危ないので階段を慎重に上がる。
部屋に戻ると、アリスはすでにベッドの上で丸くなっていた。
毛布にくるまり、すぐに小さな寝息が聞こえてくる。
【・・・一日中つきあってくれてたもんな。】
苦笑しつつ、俺はベッド脇に腰を下ろした。
今日一日の情報を頭の中で整理する。
ギルド、商談、ポーション、フェアリー・ゲート・・・やる事は増えたが、悪くない進み方だ。
そして、ふと思い出す。
ステータス表示の件だ。
【少しだけ確認しておくか。ステータス、オープン。】
そう呟いて、意識を集中する。
すると――プレートの視界の端、右上あたりに薄く光るタグのようなものが見えた。
・・・ん?
今のは何だ?
意識を向けると、そのタグが少しだけ反応する。
【お、意識するだけで動くぞ・・・。】
言葉にした瞬間、画面が「開いた」。
まるで頭の中に直接表示されるように、情報が展開される。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ヘファイストス(Hephaistios) 男 十五歳:流浪の鍛冶師
ヒットポイント:30/30
スタミナ :20/20
マナポイント :20/20
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
STR : 30
DEX : 20
INT : 20
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【ステータス画面……か?】
やはり「そういうもの」はあるらしい。
さらに視線を滑らせると、スキル一覧が表示されている。
武器学、鍛冶、採掘、裁縫、魔法が50。
鑑定は80。
剣術50。
その他は20〜30程度。
【・・・なるほどな。】
やはり俺は生産寄りだ。
戦闘特化ではないが、十分にやれるラインではある。
問題は・・・別のところだ。
【他人に見えるのは、ここまでかな?ギルドで騒ぎにならなかったからこちらが他人に見えるようだね。】
思わず呟く。
【ギルドで何も言われなかった時点で、これが「公開情報」の限界か。】
もし鑑定持ちがいれば、この情報は丸裸になる。
いや、それ以前に・・・。
この世界の「常識」がどこまで共有されているか分からない。
【見せていい部分と、見せちゃいけない部分があるな。】
心の中でそう結論づける。
『アリステリア』様に軽く祈っておく。
どうか、不要なところまで晒されませんように、と。
するとふと、視界の隅に別の情報が引っかかった。
『アリステリア』様がくれたバッグ。
そこに、見覚えのない文字がうっすらと光っていた。
【Hephaistios】
・・・俺の名前だ。
専用装備なのか?
それとも、この世界の「所有権表示」みたいなものか?
【所有権タグ、か・・・なんだかゲームっぽいな。ふふっ。】
昼間実感したがとにかくこのかばん・・・普通ではない。
【これは・・・隠しておいた方がいいかな?】
直感的にそう思った。
まだ確証はないが、盗難対策にもなるし、逆に言えば「特別扱いされる要因」にもなりかねない。
【分からないものは、隠す。基本だよね。】
そう結論づけると、画面を閉じる。
視界が現実に戻る。
部屋は静かで、アリスの寝息だけが聞こえていた。
【・・・まあ、今日はここまでだな。】
軽く息を吐き、ベッドに横になる。
明日からは、鍛冶場だ。
俺の本当の戦場。
これで、この世界がどう動いていくのかな・・・少しだけ楽しみになっていた。
目を閉じる。
眠りは、すぐに訪れた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話、そろそろ本格的に行こうかな(仮 でお会いしましょう。
今後ともよろしくお願いします。




