台風一過
新しい物語が綴られました。
お楽しみ頂ければ、幸いでございます。
それでは、お楽しみください。
日が陰って来た。
そろそろ晩御飯の時間だ。
炊き出しのメニューは何にしようか。
俺達だけ良いのもを食う訳にはいかないので、調理番の兵士と一緒にカレーを作った。
辺りは巨釜からのカレーの暴力的な匂いが漂っている。
約1500人分のカレーを作ると、後を兵士達に任せ、嫁さんと共に二人の姫君の元へと行く。
二人の御姫様にカレーを持って行くと、入り口に二人の護衛の人が立っていたので二人にもカレーを渡す。
少しでも暖かくしてほしい物だね。
そう思ったので騎士の二人には防寒具を渡してある。
頭からフードを被るタイプの物だ。
これとカレーで少しでも暖を取ってもらえればね。
カレーは大好評だった。
「アーサー様の料理には、毎回驚かされますわね。」
「左様ですわね、姉様。この色にして、この味。」
「二人に同感ですね、旦那様の頭の中にはどれ程のレシピがあるのであろうか?」
「セリス、私は諦めたぞ。ただ、美味い物を食べているので舌が肥えてしまって困るのだがね。」
【この料理は、スパイスの組み合わせで微妙に味が違って来るのですよ。】
「素晴らしいですわ、これ程の物とは・・・。」
「アーサー様、レシピを頂く事は出来ませんか?」
【構いませんよ、こちらになります。】
そう言ってリーゼ様にカレーのレシピを渡す。
リーゼ様は、そのレシピを大事そうにしまう。
だが、さすがのカレー様。
皆様に大好評を頂き、その日の晩御飯は終了したのであった。
二人の姫君はカレーを食べた後に疲れたのか建ててもらった天幕に引っ込むとベッドで眠ってしまったようだ。
見張りも王国から出して、ライダーの二人にも休んでもらう。
公国からとは言え試験的にワイバーンに乗って来たのだ。
二人の姫君を乗せるだけでも相当のプレッシャーがあったはずだ。
疲れで何かがあれば、危ないからね。
爺さんに頼んで手配すると、見張りをすると言っていた二人の騎士も他の天幕の中で眠ってくれた。
その近くに俺達の天幕を張ってもらった。
一つだけ確認したい事があったので、セリスとクレアをおいて天幕から出る。
師匠に会って話しておきたかったのだ。
その後の師匠はどうしているのだろう。
エキドナは特殊個体とは言え、あんなにも綺麗に負けたのだ。
エキドナの種族は、ゲームでも見た事が無いからね。
そっちも気になる。
俺も負けていたかもしれないからな。
あの時は空気が吸えなくて対戦を拒否したから、ああなっていたのは俺かもしれない。
そんな事を思うと会って話をしておきたかったのだ。
師匠のいると言う天幕へと向かう。
オーガの牙の天幕とは別に用意されていた。
【師匠、いらっしゃいますか?】
「坊主か、入って来るが良い。」
【失礼致します。】
天幕に入ると中央にある暖を取る焚火をはさんで師匠とエキドナがいた。
【エキドナもいたのですね、師匠、調子はどうですか?】
「っか、皆にも心配されたが、わしは平気じゃよ。」
【ヘファイストスも来たか、まあ、座るが良い。】
火を囲んで対面している二人の脇に座る。
「いやぁ、完全に負けたわい。あそこまで完全に負けるのは久しぶりじゃよ。」
【そうですか・・・それで、何を話されていたんですか?】
「エキドナの今後についてじゃよ。坊主が育てるんじゃろう?」
【その予定でジャスティンさんには許可をもらっております。】
「うむ、それでな。武術を、拳術を極めたのなら、もう一度対戦をさせてもらおうと思ってな。」
【我は一向に構わんと言う話をしていたところよ。】
【師匠は負けず嫌いですからね。】
「そうよ、坊主にも負けておるからの。何時か再戦する機会を作ってくれよ。」
【ヒヨコをいじめて楽しいですか?】
「なんのなんの、もう親鳥じゃろうが・・・坊主の思う様に強き者を育てるが良い。」
【そうだ、ヘファイストス。貴様にはその責任があるからな。我を最強の生物にせよ。】
【まあ、頑張らせて頂きますよ。】
「それで、坊主よ。無明を見てくれるか?」
【構いませんよ。】
師匠から刀を受け取る。
【「鑑定」・・・あれ?師匠、これって・・・。】
「うむ、エキドナと対戦した後にこうなっておったのよ。」
【エキドナ、鎧化した鱗はどうなってました?】
【うむ、斬られていた。更に剝がれていた。我の竜燐鎧を削るジュウベイは、とても良い剣士なのだと言う事だ。】
【そうか、細かいですが・・・戻ったら、念の為に研いでおきましょう。】
そう言って師匠に愛剣を返す。
「頼むぞ、坊主。」
【お安い御用ですよ、それと、エキドナ。】
【何だ、ヘファイストス?】
【落ち着いたら拳術を教えます。ディアナと一緒に育てますので、よろしくお願いしますね。】
【うむ、ディアナもダンも良い武人である。それを育てたのはヘファイストスとジュウベイだと聞いている。】
【俺の方はそんな大したものではありませんよ。ただ、一つだけ言っておきます。】
【聞こう。】
【世の中は広い、上には上がいると言う事を忘れないように。】
【うむ、それは思い知ったのでな。素直に受け入れよう。】
【それなら、貴女は良い拳士になりますよ。】
【良いではない、最強になるのだ。】
【大きく出ましたね、俺だってそう簡単にやられませんよ?】
【ケケケ、そう来なくてはな!】
こうして師匠とエキドナとは遅くまで話をした。
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次の日、解体現場の視察と言う名目で二人の御姫様を案内する。
セリスとクレアには爺さんのやる事の手伝いを頼んでいる。
要するに書類仕事だ。
朝御飯を済ませると二人は爺さんの天幕へと行ってくれた。
俺はアーゼ様とリーゼ様の御機嫌とりらしい。
洞窟内を案内する。
「もっと慎重にやってくれよー!」
「お前の給金では一生支払えないかもしれないんだぞ!」
「・・・盛況なのですわね。」
「姉様、今日は槍を作る為の牙の買い付けです。一体あたりから約三十本ほどしか取れませんので希少品です。」
「一本作るのに一本の牙が必要なのですね?」
【そうですね。ただ、ドラゴンの牙については、魔槍の部類に入りますので練成が出来ません。】
「左様なのですか、アーサー様?」
【はい、それなので完成させた時の、鍛冶師の力量で槍のプロパティー、つまり性能が決まります。】
「それならば、安心でございますわね。」
「そうね、アーサー様以上の鍛冶師はいらっしゃいません。」
そう言う二人から熱い眼差しが・・・。
頑張るしかないよね。
でも運なんだよな。
俺は、運には自信が無い。
視察を終えると爺さんとの交渉が始まる。
話し合いが終わると、満足げなアーゼ様とリーゼ様が出て来た。
心配して天幕の中を覗き見る。
爺さんがしょんぼりと肩を落としているのが分かる。
良い結果が出なかったか・・・。
まあ、リーゼ様との「舌戦」では俺も勝てないだろうしね。
アンタは頑張ったよ、爺さん。
内政に特化した人材でも見付けてあげないとね。
満足そうな顔をして天幕から出てきた二人。
「アーサー様、お待たせいたしました。」
「おかげさまで良い取引になりましたの。」
【おかげさまって、俺は何にもしてないですよ?】
「うふふっ、そのうちに分かりますわ・・・それで、アーサー様に荷物を受け取って頂きたいのです。」
【俺に預けると言う事ですか?】
「ええ、何か不都合がありまして?」
【鎧の方は誰の分を作るか?と言うのは後日でよろしいのですね?】
「はい、私達の寸法は隅々まで御存じのはずよね?」
「知っているわよね?」
【御二人が成長していないとは言えませんので、作る時は採寸致しますよ?】
「あら、また私達の身体を調べて頂けるのね?」
「楽しみにしておりますわ。」
二人はニヤニヤと俺の方を見る。
くそう、小悪魔の様に可愛いからなぁ。
これ以上、下手な事を言ったら怖い事になる。
ただ、これだけは言っておかないとね。
【もちろんでございます、俺の弟子が責任をもって採寸致します。】
「「・・・。」」
氷のように冷たい眼差しが俺を射抜く。
ひい、ほ、ほらみろ怖いんだよこの二人は・・・。
でも、仕方が無い事だよね。
我慢してもらおう。
【御二人のこの後の予定は、どうなっていらっしゃるのですか?】
「あら、それを言えば付き合って下さるのかしら?」
「そうね、どうなのかしら?」
【お試しいただきたい物がございまして、「化粧品」と言う物なのですが。】
「「けしょうひん?」」
【はい、女性の為に作りました、毒の無い「白粉」、肌をプルンプルンにする魔法の水で「化粧水」、後はお顔を整えていただける魔法の「ファンデーション」の、三種類でございます。】
「そ、そのような物があるのですか!?」
「アーサー様、そ、それを見せてくださいませ!」
【少々お待ちください。後はそれを落とすクレンジングジェルです。】
テーブルを取り出し、その上に容器に入った化粧品を四種並べる。
【アーゼ様、リーゼ様、こちらでございます。】
二人の目つきが鋭くなる。
【左から、白粉、化粧水、ファンデーション、クレンジングジェル、でございます。こちらが使用する際の覚書です。】
そう言うと二人は肯きあった。
まずは白粉から見る様だ。
木の容器をねじり開け、声を上げる。
「白い、ですが・・・。」
「粉ではございませんのね?」
【はい、クリームタイプにしてみました。実践もしてあります。】
「アーサー様、実践はどなたにされたのかしら?」
【俺の嫁で、ルイスとナナリー、サーラにしております。痒みを起こす事もありませんでしたし、化粧落としをする際も何も不具合はありませんでした。】
「大切な嫁にですのね・・・分かりました、それでは私につけていただけるかしら?」
「御姉様、よろしいのですわね?」
「私がアーサー様を心から信頼しているのだと言う事を分かって頂く為ですわ。」
アーゼ様に見つめられた。
「それならば、姉様。私もつけて頂きましょう。私もアーサー様に信頼を寄せている者でございますので。」
リーゼ様にも見つめられた。
【御二人共、よろしいのですね?】
何と言う訳でもないが、二人からの信頼を頂いているとは・・・。
期待には応えないとね。
「ええ、私達は貴方様に絶大の信頼をよせております。これ以上は言葉は不要ですわね、まずは私からつけます。アーサー様、よろしくお願い致します。」
女性の顔につける物だ、何かがあってからでは遅い。
その為にルイスやナナリー、サーラにも実践させてもらったんだ。
この二人はそこまでの信頼を俺に・・・。
その信頼に応えるように綺麗にして差し上げようではないか。
【では、天幕をお借り致しましょう。】
そう言って爺さんに許可を取ると天幕へと三人で移動する。
人気が無くなっているのは気のせいだよな、爺さん?
【こちらの天幕らしいですね。】
「では入りましょう。」
アーゼ様がそういったので天幕の入り口の幕を上げる。
二人が入ったのを見送ると俺も入る。
真ん中にベッドのある部屋だった。
・・・爺さん、狙ってやってねえだろうな?
先程の机を取り出し化粧品達を並べて行く。
少し熱めの湯桶を準備してまずはクレンジングからしてもらう。
この二人は流石に国の顔なので肌が整っているように見える。
だけど苦労しているのも分かる。
この世界に革命をおこす製品達なんだ。
女の子には、もっと魅力的になってほしいからね。
前世では当たり前だったけれど、転移した今世では必要ないだろうと思っていた。
でも、神様の悪戯なのか、悪魔の誘惑なのか、一部とはいえ俺にはあの世界の化粧品が作れるんだ。
今世でも使わなくてどうする?
作れるのは化粧品だけではないけれどね。
まずはその信頼に応える為にアーゼ様から試させてもらう。
その話は昼過ぎにまでわたり、二人から大絶賛を受けたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アーサー様、この化粧品と言う物は素晴らしいですわ!」
「左様ですわね。他にも何か作るおつもりなのですか?」
【ええ、色々と・・・例えば、今の石鹸は泡立ちが良くないので新しい物を作るつもりです。】
「まあ、石鹸でございますのね。私達も身体を洗う時に気になっておりまして・・・そちらも期待させて頂きますわね?」
「アーサー様、是非に作って頂きたいですわ!」
【はい、石鹸は消毒と言う物が出来るので、子供達にも安心安全に使って頂けます。それとシャンプーとリンスを作ります。】
「しゃんぷー?」
「りんす?」
【これも女性の為に作らせて頂きます。】
「どのような物でございますの?」
【こちらの二つは髪の毛の具合を整える物でございます。】
「髪の毛の!」
「具合を整える物!?」
【はい、こちらも革命的な物で、はうぁぇ!?】
二人が詰め寄って襟首をガクガクと揺らす。
「アーサー様、是非にっ!是非に御作り下さいませ!」
「左様ですわ!髪の毛はお手入れが大変なのですわ!」
この後も襟首をガクガクされて大変だった。
解放された後も、ハイになった二人に御奉仕したのは言うまでもないであろう。
こ、ここまでの物とは・・・恐るべし。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【で、では・・・作れましたら、御二人に連絡すると言う事で。】
服を整えながら二人に言う。
「大至急でお願い致しますわ!」
「そうですわ、こればかりは至急でお願い致しますわ!」
【分かりました、出来るだけ早く致しましょう。】
「リーゼ!」
「御姉様!」
ガシッと抱擁を交わす二人。
そんなに楽しみにされたら、作らない訳にはいかないですよね。
レシピは増えたから近いうちに試させてもらおう。
ルイス達にも言っちゃったしね。
・・・頑張ろう。
昼間から腰がかったるい。
でも気持ち良かったです。
着替えの終わった二人を連れて作業工程を見てまわる。
こちらも終盤のようだ。
「・・・リーゼ、目的は達成いたしました。そろそろ本国へ戻りますわよ。」
「はい、姉様。」
【そうですか・・・それでは、お気を付けてお帰りください。】
「アーサー様、連絡をお待ちしておりますわ!」
「そうよね、今度はちゃんと連絡しなさいよ!」
【分かりましたよ、必ず連絡いたしますね。】
「ふふっ、楽しみが増えましたわ!」
「左様ですわね、姉様!」
「では、そろそろ戻りましょう。」
「はい、姉様。」
爺さんに二人が帰ると言うとセリス達も見送りに来てくれた。
二騎のワイバーンの所へ行くと騎士の二人が跪く。
その騎士の膝と肩を使い、華麗にワイバーンに跨る。
騎士が馬具のようになっている物を掴みこれもまた華麗に跨る。
バッサバサと羽ばたくワイバーン。
【二人共、気を付けてお帰り下さいね!】
「アーサー様、ドリュカス公も壮健であれ!」
「セリス様、クレア様、アーサー様の事、頼みますわよ!」
「言われずとも!」
「主君の事は任せたまえ!」
助走をつけるとワイバーンは羽ばたき飛んで行く。
その速度には見るべきものがある。
しばらく見送っていた。
先程まで体温を感じられるところにいたのにな。
ちょっと寂しい。
でも、二度と会えない訳では無い。
豆粒のようになったその背中に・・・二人に負けないぐらい、頑張らないとな。
遠くに行ってしまった、その背中に語り掛けてみた。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
まずは、いつものから!
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それでは、次話 ディアナとエキドナ(仮 で、お会い致しましょう。
御疲れ様でした!




