旅路ー5
裕太達はクシア村を出発し街道から外れた草原地帯を進んでいた。
地面に舗装された形跡は一切なく様々な雑草が生い茂っている。
その中には日本人である裕太に馴染み深いものやそうでないものが混在しており、あたりの草原を形成していた。
そんな草原を早朝から6時間程度歩いていた裕太の前にどこまでも続く高さ3メートル程度の城壁が目に映ってくる。
「なんだ? あの壁は……?」
「あれは聖帝の国境線よ、多分それの目的よりもモンスターや亜人の侵攻を防く事が主目的だろうけどね」
「それで、俺達は聖帝の領内を通っていくんだよな? どうやって行くんだ?」
「あの壁を越えて行く」
フェミルはさも平然にそう答える。
「そんな事にして大丈夫なのかよ……」
「問題ない、神聖帝国いえどあんな長い壁に兵士を常備できるほどお金は無い、巡回してる兵士に見つからなければ良いだけ」
「もし見つかったら?」
「問題ない、何度も通ってるが見つかった試しは一度しか無い」
いや、あるのかよ‼︎
っと突っ込みを入れたくなったがそれをグッと堪える。
「その時は何とか逃げ切れたし、2、3人くらいなら何とか交戦も出来る、それに向こうの精鋭が相手でも裕太がいるから多分大丈夫」
「あんまり事を大きくはしたくないんだよなぁ……そこ通るしかないみたいだから行く他無いけどさ」
そうして三人は壁の前あたりに着く。
遠目から見れば小さく見えた壁は近くで見れば自分の身長の2倍近くまであり、その壁が何処か威圧感を感じさせる。
そんな壁が地平線の彼方まで続いているのだ、これ程の物は国家が傾く様な膨大な資金、資材、人材が必要であり並大抵の国家では満足に建設することすら不可能であろう、これが如何に神聖リユニオン帝国の国力が高いかを示している。
壁には一定間隔で壁面に壁の上部へ登る、梯子状の凹凸があり上へと登れる様になっている、またこれも人間の足では登りやすく、人間とはかけ離れた形状の足を持つモンスター等が登りにく様に緻密に計算された物になっている。
「成る程、向こう側が聖帝領か……対してこっち側とも変わりは無いんだな」
裕太達は壁の上部へと登り、地平線が見える草原を一望する。
「流石に、こんなだだっ広い草原を全部整地出来るほどの国力は無いわよ」とミリスは答える。
「壁沿いに警備兵は巡回してるから取り敢えず壁からはなるべく早く離れた方がいい」
「えぇ、それが賢明ね」
「それでこれからの進路はどうするんだ?」
「壁沿いから少し離れた位置から東側にずっと進む、そうすれば目的地に着く」
「成る程な、それじゃあ此処に長居するのは良く無いんだろ? さっさと行こう」
「勿論そうする」
そうして裕太達は壁を後にする。
その後は今まで同様に何も無い平原を数時間歩く事になる。
相違点があるとすれば有事の際に防衛の要となる無人の小要塞を目にする機会があった程度だ。
その際に無人の事を良い事に、ファミルが備蓄品として置かれていた食料の類をこそ泥よろしく掻っ払ってきた事くらいだろう。
「人参にじゃが芋、玉ねぎ、それなりに良い収穫だった」
フェミルは袋いっぱいに詰まったそれらを見て何処か嬉しそうに言う。
「あんた、よくそんな勇気あるわよね……」
「なんか、もう慣れた」
フェミルはさも平然に答える。
「絶対ロクな死に方しないわよ?」
「私もそう思ってる、多分避難さ死に方はする、多分、きっと……
それは置いといて半日くらい歩いてたしお腹が空いた、取り敢えず食事休憩にしたい」
「それもそうね、私も歩き疲れたし……それじゃ裕太、ご飯の用意お願い」
「なんで俺が飯担当みたいになってんだよ……まぁいいんだけどさ」
「それじゃあこれ」
フェミルはそう言うと野菜類が詰まった袋を裕太に渡す。
裕太が袋の中身を覗くと人参が4本,じゃが芋7個、玉ねぎ3つ程入っている。
「残念だけど肉とかの類は無かった」
「確かに保存が効くものが多いな、まぁ取り敢えずこれで作れそうな物作ってみるか」
三人はしばしの休憩に入るのだった。




