旅路ー6
食事を終えた裕太達はその後もどこまでも続く草原を進んでいた。
その頃は日も傾き始め,そろそろこの辺りで野営しようと言う事になった。
昇格試験の時に野営した時と同様の簡易テントを作り、裕太は夕食の準備をしていた。
「どうしたんだよ……フェミル,そんなマジマジ鍋を見つめて……」
フェミルは裕太がコトコトと煮詰めていた鍋を凝視していた。
「いや……どの様な物を作るか気になってただけ」
「嗚呼,別に大した物は作らないぞ、と言うか作れない,材料も調味料もろくに持ってきてないしな,味は塩味以外作れないし」
「それでも裕太の料理はそれなりに美味しい」
「そうか? そう言ってくれると嬉しいけどさ,にしてもミリスはどうしたんだ?」
「テントの方で休んでる,足が痛いとか言ってた、まぁ私もだけど、にしても裕太は疲れて無いみたいだけど」
「まぁな、これも転移者の力のお陰ってやつだろうな、昔の俺なら速攻でダメだったろうけどな」
「裕太が来る前にいた世界はどんな世界だった?」
フェミルはふと聞いてくる。
「……そうだな、この世界みたいにモンスターは居ないし、人間だけで獣人やフェミルみたいな感じの人種は居ない、後は文明が少し進んでいるくらいか?」
その答えに対する,ミリスの反応は意外な物だった。
「そう……想像してたよりあんまり面白い世界では無いみたい」
「確かにフェミルの言う通りだ……でもなんでそう思うんだ?」
「確かに話を聞く限り、モンスターと言う脅威もなく文明も此処よりは進んでいる決して住み心地の悪い世界では無いと思う、でもなんだか不思議と興味は湧かない」
「ふーん,そんなもんなのか? 良くはわからんが……」
「それで料理は何時ごろできそう?」
「まぁもうそろって感じか?」
「ミリスもそろそろ呼んだ方がいい?」
「嗚呼、そうしてくれると助かる」
フェミルはミリスを呼びに簡易テントの方へと向かって行った。
裕太達が現在いるところからおよそ15Kmの地点に武装した集団の姿がある。
人数は三十人程度、彼ら全員が鎧を身に纏っており槍や剣を武装している。
彼らの装備は統一されており何処か大きな組織へ所属している事はひと目でわかる。
そして彼らの鎧には神聖リユニオン帝国軍旗が刻まれている。
彼らは神聖リユニオン帝国軍、第九師団に所属する第二十一小隊である。
リユニオン帝国軍第九師団はこの草原地帯から待っとも近い街、アルマ=カラマータに駐屯地を構える部隊で小隊規模に分かれモンスターが帝国領内に入る事を防ぐ事を主任務としている。
そしてその任務の特質状、軍内でもかなり過酷な部類に入るだろう。
と言うのもこの平原は広大で、それに合わせて建造された壁も百Km近い長さがありそれを一個師団ーーーつまり四千人程度で巡回するのだから休める日など滅多にない。
それに加えオーガやトロール等の強大な力を持ったモンスターと戦う事も多く死者数も多く出していると言う危険性も高い。
「ふわぁぁ……眠い……後何時間歩けばいいんだよ」
四ヶ月前に入隊した新兵、クドルは同僚のメルクスに話しかける。
普通なら新兵がその様な愚痴を零したならこっぴどく怒られるだろう,しかしその発言を咎める者は誰もいない、それ程にこの任務はきついのだ。
「日が明けるまでだ……そしたら一旦駐屯地に帰って第十三小隊の連中と交代するらしい」
「って、アルマ=カラマータまで歩きで三日はかかるじゃねぇか、それまでふかふかのベットはお預けか」
「違いない、暫くはテントで我慢するしかない」
メルクスは苦笑する、その時だった。
「小隊ーーー行進やめ‼︎」
小隊長が休憩の掛け声を上げる、クドルは数時間ぶりに地獄の行進から足を休める事ができた。
「ふう……」
クドルは力無くその場に崩れる様に倒れ込む。
あたりを見渡してみれば他の兵士達も同様にあたりに倒れる様に座り込んでいた。
「そこのお前‼︎、万一に備え辺りを警戒しておけ」
小隊長は獣人族のまだ幼さの残る少年に命令を下す。
「は……はい、了解致しました……」
地面に座り込んでいた少年は疲労が溜まりに溜まった足を無理くり起こし、辺りの警備につく。
「にしてもあいつも大変だよなぁ……獣人だからって小隊長に目をつけられてるからな」
その光景を見ていた、クドルはそう呟く。
「仕方ないさ、神聖リユニオン帝国内で差別対象の獣人が兵士になる事が出来たことすらも奇跡に近いだろうな、世界には獣人が一等種族で俺達人間が奴隷の国だってあるんだ、そこはお互い様だろ?」
「まぁ、それもそうなんだがなぁ」
メルクスは懐から干し肉を取り出してクドルに投げ渡す。
「やるよ、食える時に食っとけ……」
「嗚呼、助かる、ありがたく頂くわ」
「お前は馬鹿だから、直ぐに個人携帯用の食料を食い尽くしちまうもんな」
「ははっ、今度から気を付けるさ」
クドルが干し肉を口に運ぼうとした時だった。
「大変です‼︎、触手の化け物がもの凄いスピードで迫って来ています‼︎」
警備についていた少年は急に慌てだし、大声で叫ぶ。
「あ? 何も見えないじゃねぇか⁈」
辺りは日が完全に暮れ、夜の闇に包まれつつあった、しかし明かりもない、どこまでも続く草原地帯だ、10メートル程度先は完全なる闇でロクに遠くを見ることすらできない。
そして少年の指差す方向は夕闇で何も見渡す事ができない。
「何を言ってる⁈、暗くてなんもみれねーぞ⁈」
「僕は獣人です、人間よりもずっとずっと耳も夜目が効きます、だからネチャネチャ音を立てながら近づいてくるあの触手の化け物が見えるんです‼︎」
少年は余りの兵士達に早く逃げる様に促す、しかし逃げるそぶりを見せない彼らに焦りをあらわにしていた。
「貴様……もしや我々をかく乱させるつもりでやってるのか⁈」
小隊長は少年に怒鳴りつける。
「そんなつもりは有りません、本当にアレが迫ってきているんです‼︎」
「嘘をつくな‼︎ 」
小隊長は少年を思いっきり殴り飛ばす。
「がフゥ⁈⁈」
少年は殴られた衝撃で地面に倒れ込む。
「どうやら制裁が必要な様だな……」
小隊長は少年の胸ぐらを掴み無理やり起き上がらせる。
「ほん……とうなんです……早く逃げて」
「まだ言うかぁ‼︎」
小隊長は再び少年を殴りつけようとする。
―――その時だった。
グシャァァと言う音と共に小隊長の腹部に何かが突き刺さる。
「なんだ……何が起こっている……?」
小隊長は恐る恐る自分の腹部を見る。
そこには黒色の一般の触手が小隊長の下腹部を鎧ごと貫いていたのだ。
凄まじい量の血液が溢れ出しており、真下の草原を濡らしていく。
その場にいた兵士達は絶句する、勿論小隊長の腹部に未知の触手が突き刺さった事もでかい、しかしその背後のその触手の本体の存在の方が衝撃的だろう。
小隊長の背後には数メートルの漆黒の粘液に無数の触手や目や口がある怪物が居たのである。
「お、お前ら……助けてくれ……‼︎ 俺ら今年子供が生まれるんだ……だからこんなところで死ぬわけに……」
その瞬間その怪物は別な触手を鞭の様に靡かせ、小隊長の首あたりに振り下ろす。
「そんな……嘘だあぁぁぁ‼︎」
小隊長の首から上が綺麗に切断され地面にボトッと落ちる。
(嘘だ……ろ?)
小隊長は自らの体が首から上が血を吹き出し仁王立ちしている姿を見る、そして自分の首が今、体から切り落とされ地面に転がってることを理解する。
ーーーそしてそれが彼の見た最後の光景になった。
兵士達に小隊長が無惨にやられた事により動揺が走る。
「なんだ、あいつは‼︎」
「あんなモンスターいるなんて聞いたとこないそ⁈」
「きょ、距離を取れ‼︎ やられるさぞ‼︎」
その怪物は目の前の獣人の少年を無視し、奥の兵士達に向かう。
その姿からは予想する事も出来ない、凄まじい速度で迫り、触手を振るう。
一人、二人、三人と次々に殺されていく。
「うおおおぉぉぉ‼︎」
一人の兵士が槍を怪物の粘液質に突き刺す。
しかし槍は粘液質にズブっと埋まりダメージを受けてる様子はない。
その怪物は鞭の様な触手をあたりに手当たり次第振るう。
伸縮自在な触手は辺りの兵士を次々に殺害していく。
鎧をつけてようが盾で守ってようが関係なく貫き押し潰し無惨にも殺されていく。
たった数秒で怪物の周りにいた約半数の兵士が殺される。
「ば、化け物ダァァァァァァァァ!?」
「に、逃げろ‼︎」
兵士達はそれぞれが恐怖に駆られ逃げ出そうとする。
しかし逃げ出そうとする者から次々と伸縮自在な触手に貫かれ殺されていく。
「こいつ……逃げ出そうとしている者から殺している……」
メルクスはそう呟く。
「嘘だろ……?」
クドルは免れない死を覚悟する、頭には瞬時に今までの思い出が流れていく、恐らくこれが走馬灯という物なのだろう。
他の兵士達も逃げれば殺されると言うことを察しその場に萎縮する者、嘆く者、放心状態になる者様々だった。
「ヒィィィィィィ‼︎‼︎」
その怪物は鳥の様な甲高い鳴き声を上げる。
数日後、第二十一小隊の消息不明につき偵察隊を派遣するが壁からそう遠く無い位置で小隊が無惨にも殺され全滅している状態で発見された。




