旅路ー3
レイアール王国の王都、アウドグランは人口30万程度の大規模な都市である。
王城を中心に貴族や騎士階級が住う一等地、更
にその周りを平民が達の移住地である二等地、そして更にその外側に大規模な畑が広がる農村地帯の三重のエリアで構成されている。
まず貴族達が住う一等地の道路は石畳で舗装され雨が降っても地面がぬかるむ事はない、一等地の殆どの範囲には下水道が完備されている。
そこに住うもの達は中流以上の貴族達でそれに見合った豪勢な館に住んでおり、個人が広大な敷地を買い占めており、家々の間の感覚は広い。
また一等地の人口は1万に満たない程度にも関わらずアウドグランのほぼ半分の敷地を占めている。
そして二等地は平民や一部の下級貴族達の居住区で有り、木造の家屋が所狭しと並んでおり、一部の舗装された道があるが殆どが土が剥き出しの状態で雨が降れば中沼ができる、下水道などの設備は整っていない。
そこら中の通路では出店が出ており、一等地の閑静で静かな雰囲気とは打って変わっていぎやかで騒がしい。
そんな王都アウドグランの王城の玉座にて鎮座する者の姿がある。
玉座に座しているのは二十代前半程度の女性である。
彼女の容姿は金色の長髪に端麗な顔立ち、服装は王族が着るような豪勢さがあるドレスを身に纏っているが動きやすさを重視した作りになっている。
彼女こそが九代目国王にして初の女王、ヘルス・ハールーン・デール・ヘルゼウス=アウドグランである。
彼女の隣には二人の人がいる、護衛の若い黒髪の男の騎士、彼は王国最強と謳われる存在、エルド・ファダリア。
そして四十過ぎの白髪の男で、国のNo.2に値する宰相であるグラム・ドワデールである。
そして彼女の目の前に一人の神官服に身を包んだ聖職者らしき人物がいる、彼の腕には神聖リユニオン帝国の国家が刻まれた腕章を着けている。
「良く遠くから参られました、ウルシア神官長殿」
重々しい空気の中女王、ヘルスは口を開く。
「いえいえ、機関長と国家元首は同等の関係です、そこまで緊張なさらないでくださいな」
ウルシアはニィと穏やかで敵意のない、しかし何処か憎たらしい笑みを浮かべる。
「そ、そうですね……それでわざわざ遠くから一体何用でいらっしゃたのですか?」
「大した用事では無いのですが……アルグレの事です」
「アル……グレ……の件についてですか」
ヘルスは表情を曇らせる。
王都からそう遠く無い位置にある都市、アルグレに突如空間の裂け目が現れ、異形の怪異達が姿を現し現在なお占拠されていると言う前代未聞の異常事態が発生している。
そんなことを聞いてくるなどろくな用事では無いであろう。
「アルグレは我が国軍で奪還すら計画をしているので其方が干渉する必要性はーーー」
「その奪還計画をやめて頂きたい」
「へ?」
予想すらしていなかったあまりにもの反応に呆気ない声を漏らす。
「その、何故そのような事を……」
「貴方が知る必要はありませんよ」
「し、しかし‼︎ 理由すら知らずそんな事を許可するわけには……‼︎」
ヘルスは声を荒げる、その声には明らかに怒りと動揺が含まれていた。
「煩いですね……先代の様なりたいのですか?」
「くっ……」
ヘルスは奥歯を食いしばり、その喉まで上がってきた言葉を飲み込む。
そのあと今にも溢れそうな怒りを抑えるため数度深い深呼吸をする。
「いいですよね?」
「特に問題は……ありません」
「ですよね、八代目国王のようになりたくありませんもんね」
「…………もしかして要件はそれだけですか?」
「はい、これだけです、つまりはアルグレには手を出すなって事です、それじゃあ私は帰らせて貰いますよ」
「ま、まって‼︎ もう帰られると言うのか⁈」
「はい、こんなゴミ見たいな宿を提供するような国は長居したくありませんしね」
「ゴミ見たいな宿とは……ウルシア神官長殿には王都一の宿を手配した筈なのですが……」
その話を聞いてウルシア神官長は嘲笑するように笑みを浮かべる。
「ま、さ、か、あれが一流とは‼︎ 失礼失礼、我が国ではあの程度、三流に過ぎませんからねぇ……いやいやほんとうっに失礼な事を
にしても王都の街並みも酷い物です、まるでスラム街じゃありませんか、あっ、そんなことを言ったらスラム街に失礼なレベルですもんねー、強いて言うならゴミだめですか? じゃあ貴方はゴミだめの女王様ですかねぇ……」
「お、お前……良くも‼︎」
ヘルスは玉座から立ち上がりウルシア神官長を殴り掛かろうとする。
「ヘルス様‼︎ 行けません‼︎」
しかし、エルドがヘルスの腕を掴み静止させる。
「いけません、今は耐えてください、悔しいのは私も一緒です!」
ヘルスはその言葉を聞いて我に帰る、未だに治らない怒りを強引に押さえつける、それと同時にあのまま怒りに任せて殴りつけたらどうなっていたのかと恐怖心が込み上げてくる。
「まったく、これだから蛮国の王は……」
ウルシアはそう呟くと玉座の間を後にする。
「くれぐれもアルグレには手を出さないように」
アルシアはそう言い残すと扉の向こうへと消えて行った。
それと同時に張り詰めていた重い空気から解放されその場にいた者は安堵する。
ヘルスはそのまま力無く玉座に倒れ込むように座る。
「糞っ‼︎ なんで……国の長であるこの私が‼︎ 一国の機関長如きに‼︎」
ヘルスは悔しさと怒りのあまり何度も玉座の手掛けを強く叩く。
やがて拳が裂けたのか拳からは血が流れる、それは金箔で塗装された玉座を赤く染め純白の絨毯に染みを付けていく。
「何故だ⁈ 我が国は独立国でしょ⁈ 何故傀儡の様になんでもかんでも言う事を聞かなければいけないの⁈」
ヘルスの問いに対しグラムが答える。
「仕方ありません、我が国は200年前戦争で負けた訳ですし……それに彼の国と我が国の国力では雲泥の差があります、人口は約5倍、最大兵員動員数は約10倍、鉄の年間採掘量は32倍、軍船の数は57倍、食糧生産量は約13倍、魔導師数は20倍、更に我が国では実用化すらされていない竜騎兵が最低でも1000騎。
それに加え内政、外政、技術力、影響力の全てにおいて圧倒的さが有り、もしヘルス様がたてつこうものなら一瞬で消されるでしょう……それこそ先代の様に」
「……あははっ、なんかもうどうでも良くなってきた、もし神聖リユニオン帝国と戦争になったらどうなるの?」
「一ヶ月もしないうちに敗戦する事でしょう」
「そう……いつか、いつか、この屈辱は晴らさないとね」
ヘルスは胸に強く誓う。




