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第十六話 巨人の国

 エルフの森を西へ抜け、俺たちラドニール外交使節団を乗せた二台の馬車は『狼牙(ローガ)王国』を回り込む形で巨人の国に入った。


「ここからは警戒を(げん)にせよ! 特に上空、前だけでなく横も後ろも気をつけるのだぞ!」


 護衛隊長の注意が飛ぶ。


「どうやら、ここからは私も警戒に出た方が良さそうだな」


 エマもそう言って、馬車から降りていったが、偵察をやってくれるようだ。

 

「書物では、巨人族は大人しい性格だとあったが……」


 少し物々しすぎると思って俺は言う。

 

「ええ、ですがユーヤ様、彼らも足下ばかりを見ている訳では無いので、うっかり踏まれないようにしないと」


 ロークが言って、俺はこの厳戒態勢の意味をようやく理解した。

 こういうのは実際に巨人と接したことが無いと、思いつかないだろうな。


「なるほどな」

 

「でも、この馬車は金ぴかなので、目立つ分、安全ですね」


「目立ちすぎて盗賊に襲われるかと思っていたが、割とそうでも無いな」


 ここまでモンスターには何度も出くわしたものの、盗賊には襲われていない。


「護衛の兵士も一緒ですからね。規模の大きな盗賊でも無い限りは手出ししてこないと思います」


「大盗賊がいない……ここまで通ってきた街道は治安が比較的良い地域というわけか」


「ええ、そうだと思います。中央砂漠のあたりだと騎士団すら避けて通る治安の悪い場所があるそうですが」


 中央砂漠は狼牙(ローガ)王国を越えてさらに向こう側、ずーっと西の方なので今の俺たちは心配する必要も無い。

 たぶん、行くことも無いだろう。

 

「巨人、発見しました!」

「前方注意!」


 さっそく、巨人国の住人を兵士が見つけたようだ。

 

 俺もちょっと様子を見てみようと思い、馬車を止めてもらい外に出た。

 

「おお、デカいなー」


 見上げると、少し向この畑で麦わら帽子をかぶった巨人の農夫が作業をしているのが見える。

 距離感がつかみにくいので正確な大きさは不明だが、四階建てのビルくらいはありそうだ。

 身長十メートルくらいかな。

 ただ、このくらいの大きさなら、踏む前に気づいてもらえるだろう。

 彼らからしてみれば、人間は猫くらいの大きさだ。

 

「ユーヤ様、どうしますか?」


「農夫なら、王宮とは無関係だろうし、そのまま邪魔せずに行こう」


 街道沿いに行けば城までたどり着くだろうし、コミュ力が高いわけでも無い俺は余計な接触は避けて先に進むことにする。

 

「私、巨人族って初めて見ましたー! 凄いですねー おっきいなー!」


 はしゃいでいつもより多めにくるくる回っているロネッタは怖い物知らずのようだ。

 

「アレだな、巨人族と出会ったら、低い声で、ゆっくり、そして静かにしておこう」


「そうですね」


「うむ」


「おー!」


 俺が提案し、ロークとエマとレムがウンウンと頷いて賛成する。

 

「えっ? なんでですか? なんでですか?」


 目の前をヒュンヒュンと飛び回るロネッタは自分より小さな存在を見たことが無いから、感じ方も分からないのだろう。まあ、うるさいと言ってしまうと彼女もショックを受けてしまうだろうし、俺はペちんとたたき落としたくなる手のウズウズを我慢しつつ、ロネッタの自由にさせておく。

 

 しばらく行くと、ドシンドシンと地面が揺れ巨人が近づいてきたのが分かった。

 

「停止! 全員、叫べ!」


「「「 えいえい、おー! 」」」


「駄目だべ、あんたら。巨人で無いもんは、そこの右の端っこさ通ってもらわねえと、危ねえべ」


「おお、これは失礼した!」


 窓を開けてみたが、巨人用の道の右端に、普通の人間用の道がちゃんと作ってあり、ガードレール代わりに石が等間隔に仕切って置いてあった。ま、教えてもらわないとただの飾りにしか見えないな。

 

「気ぃつけて行くだよー」


 気の良い農夫に見送ってもらったが、俺はため息をつく。

 

「どうしたのだ、ユーヤ、さっきの男、なにかまずいことでもあったのか?」


 エマが疑問に思ったようで聞いてきた。


「いいや、実に人の良さそうな、優しい感じの人だったよ。だが、気づいたんだ。巨人にとっては、自分に危害を加えるような天敵が少ない。だから、彼らは力があっても、戦闘的じゃないんだなって」


「ああ、なるほどな。確かに、巨人族が戦で活躍したという話は聞いたことが無い」


 包囲網への参加を呼びかける上では、戦闘の役割ではなく、それ以外の援助を期待して話した方がいいだろう。

 向こうもその方が参加しやすいだろうし。

 

 ただ、体の大きな巨人が前線で戦わないとなると、他の種族が快く思わないかもしれない。

 そのあたりは話し合いしかないが、なかなか難しいところだろうな。

 


 

 巨人族の城は、木造の一階建てで、どちらかというと大きなログハウスと言った感じだ。

 おそらく、彼らにとって手頃な大きさの石の確保が難しいため、木で家を作るしか無いのだろう。

 

 技術レベルは、竜人族よりは上のようだが、細かいところはやはり大雑把で適当に作ってあり、微妙なずれや隙間があちこちにある。

 

「ラドニールの使者だったべな。用件を聞くべ」


 干し草で編み上げた冠を被った王が、丸太の玉座に座って言う。

 それらしいローブを羽織っているが、どうも農夫っぽく見えてしまうのはなぜだろう?


「は、カール大王におかれましてはお目通りを叶えていただき、誠にありがとうございます。申し上げたき案件は二つございますが、まずは我らが国王マケドーシュ七世陛下より、親善の贈り物をお納めいただきたく」


「王様、ラドニールがこれを持ってきただよ」


 かごに入れた黒松露(しょうろ)を巨人の部下が渡す。

 目一杯入れてきたのだが、巨人が渡すときには人差し指と親指でつまんで渡す感じだ。

 王様も少し苦労しつつ、中身を取り出す。

 

「これは、種だべか?」


「いえ、黒松露でございます。ステーキの香り付けなどにいかがかと」


「くんくん、おお、ええ香りのするキノコだべや。これは高級品だべな。心遣い、感謝すると伝えてくんろ」


「ははっ、ありがたきお言葉」


「それで、もう一つの用は何だべや」


「は、話に聞くところ、こちらのゼトラ王国にも狼牙(ローガ)族が無法に縄張りを広げにやってきているとか。ラドニールもつまらぬ理由で彼らに戦を仕掛けられ、ほとほと困っております。ここは話の分かる者同士でお互い、助け合って行ければと」


「ううむ、それは、戦に加わって欲しいという話だべか?」


「いえ、そうなればありがたいですが、見ての通り、我らには戦士として名高い竜人族も仲間に加わっておりますので、巨人族の方々には後方支援をやっていただければと」


「まあ、何かを運んで欲しいと言うのなら、手伝ってやるだよ。木を切るのもええだな」


「はい。巨人族の得意分野で協力いただければ、こちらも助かります」


 前線には出たくないようだが、協力は前向きの様子。

 さっそく俺は『グレートウォール作戦』を提案してみた。

 

「柵だべか」


「ええ。狼牙族が乗り越えられないような大きな柵を張り巡らせれば、彼らも侵入を諦めるほか無いでしょう」


 もちろん、見張りも立てて、向こうの兵が崩しにかかってきたら、矢を射かけるくらいはしないと壊されてしまうだろうけど。

 とにかく対策をする、こちらの意思を相手に見せるのが大切である。

 

「よし、なら、一丁やってみるべか。連中には畑を荒らされる上に、サトウキビをもっとよこせと言われて困ってたところだべ」


 巨人族も狼牙族には嫌気がさしていたようで、トントン拍子で包囲網の話が進んだ。


「では、カール陛下、経済制裁の件、何卒(なにとぞ)、よろしく」


「分かってるべ。連中にはもう甘い顔はしないだよ」


 一礼して木造の王宮を後にし、馬車に戻る。

 

「やりましたね! ユーヤ様。あんなに上手く話が進むとは、ここまで来た甲斐があったというものです」


 ロークが飛び上がらんばかりの笑顔を見せた。


「そうだな」


 土木作業は戦においても重要である。

 道を作ったり、道を潰したり、塹壕を掘ったり、柵を作ったり。

 砦もいいな。

 巨人族が協力してくれれば、一夜城も簡単にできてしまうだろう。

 

 ここまでは幸先が良い。

 交渉を持ちかけたすべての国、ドワーフ族の『鉄血ギルド』と巨人族の『ゼトラ王国』に相次いで包囲網へ参加してもらうことに成功した。

 このまま西へ進んでカルデア王国と話し合うプランも考えていたが、先に近場のエルフを話をしてもいいんじゃないか。そう思えてきた。


 なぜなら、今、軍師ユーヤは最高にツイている! 

 いや、それだけでなく狼牙族の存在はそれだけ周辺国にとって脅威という証拠なのだ。


 それはエルフ族にとってもあまり変わらないはず。

 あの通行許可だけという話はツンデレ、そうに決まってる!


「よし、東へ戻るぞ!」


「はっ!」

 

 さあ、待たせたな! 次はいよいよエルフの幼女攻略だ!

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