表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/126

第十七話 行きは良いけど、帰りは怖い

「さーて、戻るぞぉー」


 馬車に乗り込み、次のエルフとの会談に向けて気合い十分の俺。


「待ってください!」


 だが、小人(フェアリー)族のロネッタが鼻先に飛び込んできた。


「うわ。な、なんだ? ロネッタ」


「ここから南東に向かって、ぜひ、私たちのクロートの里も仲間に入れて下さい!」


「いや、うん、エルフの後でちゃんと行くから」


「ホントですかぁ?」


「いやいや、嘘は言わないぞ。な? ローク」


「はい。ユーヤ様は正直なお方です。理由無くして嘘なんて言いません」


「ん? それって、理由があれば、嘘をつくってことですよね?」


「ああいえ、それは……」


 ロークが困った顔をするが、スキルを秘密にしてリリーシュに黙っていたり、外交でブラフを使ったりもしているからな。

 

「とにかく、エルフの後で行くから、約束しよう」


「エルフの前に行くというわけにはいかないですか?」


「いや、だって、先に南東に行ったら、遠回りにならないか?」


「いえいえ、そこはこのロネッタにお任せ! 近道があるんですぜ、兄貴。へへ」


 ロネッタが盗賊を真似たのか、親指を立ててウインクしているが。

 

「うーん、ロネッタが本当のことを言ってるかどうか、怪しいしなぁ」


「えーっ! 何でですか! 私、今までユーヤさんに嘘なんてついたことないですよ!」


 確かにロネッタが嘘をついた覚えは無いが、こいつとは会ったばかりの奴だし。

 

「ローク、地図を出してくれ」


「はい、分かりました」


 地図を見てみたが、どー見ても、ここからはエルフの国の方が近い。というか、手前にあるし。

 

「で、どう近道があるんだ?」


 一応、ロネッタに聞いてやる。 


「あー、私、地図見てもよく分かんないんでー」


「じゃあ、駄目だな」


「だいたい、ロネッタ。お前が急ぐ理由は何だ?」


 エマが理由を聞いた。

 

「それは、今まで話を聞いているとエルフがラスボスだって……」


 俺がラスボスと言っていたから、ロネッタはエルフの後はもう真っ直ぐに帰ると思い込んだようだ。


「あー、それか。いや、確かにエルフ族がラスボスだとは言ったが、あれは一番手強いって意味で言ったんだぞ?」


「じゃあ、小手調べでレベルアップして行きましょうよー」


「いやいや、遊びの旅行じゃ無いんだから、悠長にやってる時間も無いぞ。いつ狼牙族が攻めてくるか分からないから、それまでに準備をやらないといけないし」


「だーかーらー、近道の方がいいですって」


「それ、絶対、迷わないんだな?」


「んー、たぶん?」


 怪しい。ここは……。

 

「却下」


「エー」


「当然だな」


 エマも頷く。


「ま、まあ、ロネッタさんの気持ちはありがたいですけど、こちらの予定もありますし、それなりにルートを調べて来たので、予測の立たない道は避けたいんですよ」


 ロークがきちんと理由を言ってロネッタをなだめた。

 

「絶対、近道の方が早いのに……ぶぅ」


 機嫌を損ねてふてくされたロネッタは俺のリュックの中に入って、籠城してしまったようだ。

 ま、彼女のことだから、すぐ機嫌を直してくれるだろう。

 

「よし、出発だ」


「はっ」


 巨人の国を出て、再び、エルフの国に入った。

 


「近道の方が早いのに……」


「まだ言うか。後でお前の里にも寄るとユーヤは約束したのだから、それでいいだろう。もうその話は出すな」


 エマが叱ると、ロネッタはプイッと顔を背けて俺の頭の後ろに隠れた。

 じろりとエマが俺を睨むがそれ以上のことは何もしてこない。エマに対しては俺の後ろがが一番安全だと思っているようだ。

 俺ごと、パンチされなきゃいいな。


「エルフ族です」


 外から兵士が言う。

 通行許可を前に出してくれたから、話さえ通せば大丈夫だろう。


 俺がそう思って外に出ようとすると、エマが俺を手で制止した。

 

「待て、私が出よう。連中は弓を持っていたからな」


「ああ。じゃあ、頼む。友好的にな」


「分かっている」


 エマが外に出た。


「ラドニールの使者だな」


「いかにも。その様子なら、通行許可の件は話が通っているようだな」


「そうだが、長老が軍師ユーヤを歓迎するそうだ。小さな子供も交えての歓迎会を用意している」


 なんですと!? エルフの……子供!?

 

「あ、行きます、行きまーす! 喜んで行かせていただきます!」


 俺が手を上げて喜び勇んで外に出ようとしたが、むんずと俺をつかんで引っ張っる手があった。

 

「おい、何するんだ、レム」


「駄目だ、ユーヤ。奴ら、嘘を(・・)ついて(・・・)いるぞ(・・・)


「ええ!? あっ、エマ、戻れ!」


「どうした、ユーヤ。私の話し方はいつもあんなものだと、お前も知っているだろう」


「いや、そうじゃない。レムの嘘発見器だ」


「なに? ではどうする?」


「そうだな……ここは気づいていないふりをして――あの! ちょっとはぐれた仲間を迎えに行ってきます!」


 俺は外に向かって大声で言う。

 

「それは後で我らが迎えに行く。まずは料理が冷めぬうちに、長老の家に来てもらいたい」


 これはごまかしきれないな。

 

「総員! 逃走!」


 俺は叫んだ。


「私も出るぞ」


「あっ、エマ!」


 せっかく馬車の中に戻ってきたのに、また彼女が外に出てしまった。

 この馬車は金属製の車体だから、中にいれば安全なのに。


「一号車を先に行かせろ! 二号車は足止めする!」

「くそっ、三時の方向にも敵だ!」

「九時の方向にもいるぞ! 畜生、囲まれてるだと!?」


 馬車が急発進する中、緊迫した護衛の兵士の声が聞こえてくる。

 兵士は鎧を着込んでいるが、それでも顔は晒しているので矢に対して万全では無い。

 彼らも全員、助かって欲しいが……。


「レム、しんがりゲームの準備を……いや、駄目だな」


 俺は言いかけて止める。


「何でだ?」


「エルフは魔法の武具を持っているはずだ。持っていなくとも、彼らは強力な魔法が使える。レッドドラゴンでも、魔法の武具だと危ないからな」


「む、オレ様はエルフ共にやられるほど弱くないぞ!」


「戦ったことがあるのか?」


「無い、けど」


「じゃあ駄目だ。連中は賢い。長生きしてる分、レッドドラゴンの対処法も知ってると考えた方がいい」


「はわわわ、カンカンって、何か馬車に当たってますよぅ!」


「落ち着け、ロネッタ。この馬車は金属製でしかもドワーフの頑固職人の作だからとびきり頑丈だ。万が一、貫通しても、お前に当たる確率はゼロに近いし、俺の懐に隠れてろ」


「は、はい! あっ、あれは!」


「んん? あ、おい! ロネッタ! どこへ行く! 戻れ!」


 ロネッタは俺が止めるまもなく、自分で馬車の窓を開け、外に出て行ってしまった。

 

「なんなんだ、くそっ」


「ぎゃっ!」


 悲鳴が外から聞こえ、誰かが怪我をしたようだ。敵か味方かも分からない。

 外の様子を見たくなったが、流れ矢に当たっては、護衛してくれているエマや兵士達に申し訳が立たない。ロネッタの事が心配だったが、俺は歯ぎしりしつつ馬車の窓を閉める。

 

「ぐふっ! くそっ」


「ポールッ!!! 待ってろ、今助けるぞ!」


「オ、オレのことはいい、勇者様の馬車から離れるな!」


「だが、お前は来月、道具屋の娘と――」


「いいんだ。先に行けッ! ここはオレが一人で食い止めてみせる! 我が名はラドニール親衛隊ポール=アレクシス! 推して参る!」


「よせっ! ポールッ!」


 そんな声が外から聞こえてしまった。

 

「ああくそっ! 俺にスキルがあったら! こんな時に守られてて、何が勇者だ!」


 何もできない。腹立たしさを馬車の椅子にぶつけるしか無かった。その傷ついた俺の拳をロークが両手で優しく包む。


「ユーヤ様、ご辛抱ください。人にはそれぞれ役割がございます。あなたはスキルが無くとも、包囲網を作れたではありませんか。それはあなたにしかできなかったことです。兵士にも私にも、スキルに優れた剣姫でも、それはきっと無理でした」


「……分かった、ローク。そうだな、包囲網を作るのが俺の任務だ」


 そしてまだ包囲網はできたばかり。これから網を動かさねばならないのだ。


「逃すな! 追えッ!」


「防げーッ!」


「囲みを突破するぞ! 速度は落とすな!」


「い、いかん、アレは!」

「デカい! なんて大きさだ……」

「まずい、来るぞッ! 馬車を右に回せ!」

「駄目です! ま、間に合いませんッ!」

「いいから避けろォおおおおおお!!!」

「フハハハ、当たれぇえええ!!!」


 剣を打ち合う音が激しさを増し、敵味方の怒号が交錯し、さらに爆発音もそれに入り混じった。

 外の様子が見えない状態で、馬車がぐらりと倒れそうなほど大きく揺れる。

 おそらくエルフが魔法を使ったのだろう。

 馬車の内部はなんとか無事だったが、まずいな、外は大混乱のはず。


 だが、不意に、すべての音が消え、急に静かになった。

 馬車も速度を緩めて普通にまっすぐ止まる。

 

「開けてー」


 ロネッタが窓を叩いたので、俺は素早く窓を開けて彼女を招き入れた。


「ロネッタ! 早く入れ」


「ああ、慌てなくても大丈夫。近道に入れたから。やー、危なかった。二十人くらいで囲まれてて、もう駄目かと思いましたぁ」


「近道って……」


「木に時々、穴があるじゃないですか。アレですよ、アレ」


「いや、そう言われてもさっぱり分からんが」


 だいたい、それ、どうやっても馬車が通れない大きさだろ?


「あの、もう一台の馬車は?」


 ロークが外を確かめて聞く。


「あ、ヤバ。む、迎えに行ってくる!」


「お待ちを。追っ手に気づかれては逃げた意味がありません。隊長も、迎えは望んでおられないはずです」


 兵士が言った。


「ええ? でも、あのままじゃ……」


 ロネッタが置き去りになった兵士達を心配した。


「大丈夫、隊長達も全員スキル持ちで腕は立ちますよ。さすがに、剣姫相手ではかないませんけどね」


 兵士が笑ってみせる。

 レムが難しい顔をしたが、嘘だとは言わずに黙っていてくれた。

 

「仕方ない。先を急ぐぞ」


 俺は冷徹に言う。


「ええっ? ユーヤさん!? エマさんも来てないんですよ!」


「分かってる。彼女なら、飛んで逃げられるはずだし、追っ手まで呼び込んでしまったら、こっちは全滅の可能性もある。悪いが、俺はまだここじゃ死ねないんだ。包囲網はまだ機能していない」


「そんな……」


「行きましょう。エルフ達が気づく前に、ここを離れるべきです」


 ロークも言う。

 エマは俺たちの次の行き先は知っているし、小人の国の場所が分からなくても、ラドニールか竜人族の里には自力で戻ってくるだろう。

 

 きっと無事のはずだ。

 無事でいてくれ……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ