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立花山で発見された遺体は、共に埋められていた遺留物などから時田康夫であると思われた。兄である時田和夫のことを調べ上げた書類やそのデータが記録されたUSBなどが見つかったのだ。
良明は、文音と朝比奈とともに福岡市の東区に入るとすぐに県警へと向かった。そこには、厳しい表情を浮かべた章子と服田がいた。その隣には、相沢の姿もあった。
「案の定、時田康夫は殺されていたのね」と相沢は、章子に話しかけていた。
「ええ。おそらく殺されていたと思う」と章子も答える。
良明が3人のところへ近づいていくと、薄暗い通路から管理官の古東が姿を現した。ゆっくりとした足取りで、章子と服田の元に歩いてきた。
「これは、これは探偵事務所の皆さまお揃いで」と言うと、古東は、朝比奈に視線を送った。そして、「朝比奈警部補。あなたは一体どこに行っていたのですか?こんな重大な時に」
古東の表情には鋭いものがあった。その目つきは、まさにライオンが獲物を狩るときのようなインパクトがあった。朝比奈も負けじと睨み返しているように思えた。元はと言えば、朝比奈の方が古東よりも上司であった刑事である。西沢美夜古の事件を取り調べたことが評価されて昇進したと良明は聞いていたが、古東はその事件の根幹が揺るぎそうである中で、危機感を募らせているのではないだろうかと、良明は感じていた。
「私が一人で行動をして、何か都合が悪いことでも?管理官」
その横で女刑事相沢は、困り果てた表情で2人の様子を見ていた。そして、相沢の右手が古東に触れた。
「まあ、私にとってはどうでもいいことだがね…」
古東はそう言い放ち、朝比奈から視線を逸らした。そして次は、服田の元へと向かった。服田は、一歩前に出て古東を睨みつけた。元同僚で、同世代のライバル関係にあった2人である。
「服田。お前は今日、建設会社に向かったそうではないか。何を調べた」
「お前に言うことはない。守秘義務だ」
「守秘義務?聞いてあきれるな。お前がやろうとしていたのは、富田幸助と西沢美夜古のつながりを調べることではないのか」
と古東が言うと、服田は大きな声を出して笑った。
「残念ながらな、違うな」と服田はお得意の嘘でまとめ上げた。
「古東さん」と相沢がまたも古東の肩に触れた。
「まあ、私には関係のないことだ。くれぐれも、警察の邪魔になるようなことはしないでくれ」と古東は言い、良明の方に視線を送ってきた。「特に君だ。高校生のときみたいにやってくれたら困るんだよ」
良明は不意に自然と笑いが出てきた。古東のその表情が可笑しくてたまらなかったのだ。古東が持っていたバッグを見つめた。そこには何か見覚えがあるキーホルダーが光っていた。
「古東さん。僕の才能を認めてくれて、まことにありがとうございます」
良明がそう言うと、古東は小さく含み笑いを浮かべて、暗い通路へと歩いて行った。良明は古東という男の不気味さをひしひしと感じていた。
「誰のおかげであの地位を手に入れたと思っている」と朝比奈が言った。服田も続けて、「本当に人が変わったな」とつぶやいた。
良明は文音に視線を送ると、文音も古東が歩いて行った通路をまっすぐに見つめていた。その表情は無表情であったが、「ポツリと一言、悪い人には見えないな」とつぶやいた。
「悪い人じゃないだよ。本当は」と朝比奈が文音の言葉に反応した。良明は「やっぱり人が変わったのですか?」と聞いた。
朝比奈は一呼吸おいて、「美夜古の事件が起きて、1年余りであいつ大出世した。管理官として指揮を執り始めてからだ。他人のことを思いやる古東が居なくなった」
服田も神妙な面持ちでうなずいていた。章子も同様に首を何度も縦に動かした。相沢は、「私はあんな古東さんしか知らないんだけどな」とつぶやいた。
良明は、西沢美夜古の事件が1人の人間の人格にも影響を及ぼしていることを悟った。そして、この空間で感じた違和感が体に染みついていた。




