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6-9

 6年前に西沢美夜古が犯したとされる5件の殺人のうち、4件は5件目の被害者となった時田和夫が実行犯であった可能性が高まった。良明は、自信をもってそれは間違えのないことであると言えるような気がしていた。そして、現在消息不明となっている時田和夫の弟である時田康夫は、それを知っていたに違いない。

「急いで福岡に戻り、調べなおしだ」と朝比奈が言った。しかし、そんなことをすれば福岡県警は冤罪で逮捕した被疑者を死刑囚にしたという汚名をかぶせられることになる。退職間近の朝比奈は、県警を追い出されると退職金をもらえない由々しき事態になるかもしれない。

「朝比奈さん。いいんですか?」と良明は、朝比奈に聞いた。

「大丈夫だ。別に県警を挙げて調査をするとは言ってない。むしろ、古東がそれを許すわけがない」と朝比奈は言った。

 それもそのはずであると良明は思った。管理官の古東は、6年前西沢美夜古の取り調べを担当した刑事であるのだ。美夜古の犯行を裏付ける自白供述を取った古東にとって、それが冤罪だということになれば、管理官の地位を追われることにもなるであろう。

「お前の探偵事務所で調べる。古東より使える奴がいるからな」

 朝比奈はそう言って、福岡市に向けて車を走らせ始めた。車内の文音は疲れ切った様子で黙り込んでいた。やってないのに犯行を認めた姉への怒りや冤罪に追い込んだ警察への怒りといった、いろんな感情にさいなまれているのであろう。

 朝比奈が走らせる車が、海老津付近に差し掛かったところであった。突然、良明のスマホに着信が入ったのだ。良明が画面を見ると、そこに母親の名前が記されていた。母親の章子は、6年前に3件目の被害者となった私立高校校長の山本晋平を調べるとために、山本が務めていた高校へ行っていたはずだ。

 良明が耳にスマホを当てると、すぐに「スピーカーにしてくれない」という声が聞こえた。良明は画面のスピーカーマークをタッチしてスピーカーモードに切り替える。すると、「大変なことが分かったわ」という章子の大きな声が車内に響いた。

「校長だった山本は、6年前の都市開発に地主として関わっているんだけど、当時に資料を山本の金庫から発見したの」

「金庫?どうやって開けたの?」と良明は聞いた。

「警察のふりしたに決まってるでしょ」

良明は、章子も服田もやることは同じであと思ってしまった。

「そしたらね、当時の計画には時田和夫も関わってるんだけど、時田は騙されてたみたい」

「誰に?」

「1件目~4件目までの被害者たちに」

 良明は騙されていたとはどういうことだと考えたが、見当つかなかったので章子に尋ねる。すると章子は次のように答えた。

「当初の予定は、地主の1人であった時田和夫を取り込むために、孤児院を大きくする方針を立ててたのよ。でも、時田が都市開発に賛成して、協力を宣言した瞬間、孤児院をつぶす計画になったのよ」

 良明は、時田和夫が4人を殺す動機を確認することができたと考えた。朝比奈も、大きくうなずき「この動機なら説明がつくな」とつぶやいていた。

「それからもう一つだけ気になることがあるんだけど」と章子が言った。

「何?」

「山西徹也くんが学校に残していた荷物見てたのよ。そしたら、徹也くんが西沢美夜古と映ってる写真を見つけちゃった」

「何だって?」と良明は思わず叫んだ。疲れ切って後部座席の背もたれに持たれていた文音も身を乗り出す。

「美夜古さんは孤児院にボランティアに行ってたらしいわね。そして、徹也くんも母親から虐待を受けてここに入ってた。だから、ここに移る徹也くんは11歳かな」と章子が言う。

「お姉ちゃん…」と文音が悲痛な声を出した。章子はさらに衝撃的なことを話し始める。

「でね、この写真の裏にこう書いてた。おそらく徹也くんの字。絶対に、美夜古お姉ちゃんの冤罪を暴く。死んでもいい」


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