6-8
朝比奈が車を走らせること約1時間と10分。北九州市の若松区にやってきた。時田康夫の話によると、西沢美夜古が犯した5件の殺人の最後の被害者となっていた時田和夫は、実際には前の4件の実行犯らしい。そして、和夫がこの若松区にある店で、凶器を購入したとなっている。
まず、その店を探してみることにして、朝比奈は車を海岸沿いで走らせていた。この町は見るからに工業地帯であり、昔はかなり発展していたらしい。しかし、その見返りとして喘息などの公害問題を併発した。現在は公害を克服して、『環境モデルシティ』という称号をもらっているみたいだ。これは文音が、中学校の社会科の授業で習ったことである。
その店があったのは、大きな風車が見える洞海湾という海沿いの小さな港であった。大きな古びた煙突が立ち並ぶ中、ひっそりとその店は営業している。どうやら釣り道具やキャンプ道具を売っている店らしい。
「ここで凶器を購入することにより、警察の捜査を混乱させようとしたか?」と朝比奈が言った。確かに、このようにひっそりとした店であったら遺体から凶器を割り出すことは困難であろうと文音は考えた。しかし、時田康夫はそれを掴んでいたのだ。文音は、一体どのようにしてその情報をつかんだのだろうかと考えていた。
朝比奈はとりあえず店長と話をしにいった。おそらく、6年前の事件が起きる前の防犯カメラを見せるようにと頼むのであろう。
「警察だったら、しょうがないですね…」と店長はしぶしぶ承諾していた。
「4年位前も、防犯カメラ見に来た奴がいて」と店長が言う。おそらく、それは時田康夫のことであろうと文音は考えていた。
「さて、長丁場だ!」という良明の言葉を号砲にして、文音ら3人は、6年前の防犯カメラの映像に見入った。
見れども見れども、時田和夫らしき人物は映らず、時間も2時間、3時間、4時間と過ぎていった。文音が気付いた時には、もう外は薄暗くなっていた。
「あの、もう閉店の時間なんですけど。勘弁してくれませんかね」
「え!?この店は、午後9時まで空いてるんじゃないんですか?」と良明が店長に聞いた。
「いや、私も年を取ってしまい…、8時閉店ということにしたんですが…」
店長はかなり困り顔で話していた。文音がこれは引き上げるしかないと思った次の瞬間であった。文音の目に、少し小太りの男が、カウンターでロープと刃物、そしてハンマーを買う映像が飛び込んできたのだ。
「この人!」と文音は思わず叫んだ。
朝比奈が何度も手元に持っていた写真とその男の顔を見比べてこう言った。
「時田和夫だ」
「店長さん。この男が買っているのと同じロープとハンマー、刃物を持ってきてください」と朝比奈は店長に懇願した。店長は駆け足で、その商品を持ってくる。
「文音ちゃんは見ないで」と良明が言い、良明と朝比奈の2人はとある写真と店長が持ってきた写真を何度も見比べた。文音は、2人はその商品が凶器になりうるのかを見ているのだろうと感じた。
「一致する」と良明がつぶやいた。朝比奈も、その声に合わせてうなずいた。
要するに、時田康夫が調べていたことは事実であったのだ。いや、その可能性が高くなったという結論でまとめておいた方がいいのかもしれない。しかし、美夜古が殺人鬼ではないという証明に一歩近づいたと文音は感じた。




