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6-5

 良明の頭はさえている。文音は、改めて大学で久米良明という人物に出会えて良かったと、心から感じていた。良明が発する言葉の一つ一つを、文音は否定することができなかった。そして、もう1人、自分のことを守ってくれている人、朝比奈刑事。

 その朝比奈が発した言葉に、文音は少しだけ安堵感を感じた。文音が第一発見者の1人になった、江川聡を殺した犯人が捕まったのだ。文音は、良かったねと良明に伝えようとして、隣の良明の顔を見つめた。しかし、その顔は何か小難しい顔をしていた。

「どうしたの?良明くん。江川さんを殺した犯人、捕まったてよ」

と文音は良明に伝えたが、良明は「うん」と言っただけで、何も答えようとはしなかった。文音は、良明の袖口を掴み、「どうしたの?」ともう一度だけ尋ねた。

 すると、良明は「その犯人は、どうして6年前の遺体に起きた事件現場の通りに遺体を動かすことができたのだろう?」と言った。

 確かに、文音があの時見た江川聡の遺体は、姉の美夜古が犯した殺人と言われている6年前の最初に起きた事件現場と全く同じ様そうであった。江川聡の殺人容疑で逮捕された、江川聡の妻の不倫相手が、それを知っていたのだろうか。それとも、

「犯人はもう1人居るの?」

気が付けば文音は、そう良明に向かってつぶやいていた。良明は静かに、「そうかもしれない」と言った。そして、良明は朝比奈と顔を見合わせてうなずき合っていた。

 犯人がもう1人居る。だとすれば、その人は西沢美夜古と面識があった人物なのだろうか。そして、美夜古の裁判を傍聴していた人物なのだろうか。文音はそんな考えを巡らせていた。

 しばらくすると、7年前くらいにできたニュータウンに入り、その奥に進むと、ひと際大きな一軒家が見えた。その表札には、時田康夫と書かれてあった。

 時田康夫は、時田和夫の妻、逸子の話によると、ここ数年間は消息を絶っているという。それは、逸子がただ単にあっていないだけかもしれないし、まだ住居はこの家ということになっているらしいので、この家に時田康夫は住んでいるかもしれないのだ。

 刑事である朝比奈が、まず先陣を切ってインターホンを押した。しかし、どれだけ待っても返事は返ってこない。すると朝比奈が、バッグの中から針金2本を取り出して、それを文音と良明に見せつけてきた。文音は、それがなんだか分からなかったが、突然良明が、「ちょっと待ってください!あなたは警察官でしょ」と大きな声を出した。

「大丈夫。こうでもしないと、死んでたらどうするの?」と朝比奈が言った。

 文音は、2人の会話を聞いて朝比奈がやろうとしていることを悟った。ドラマなどでよく見る、ピッキングだ。実際に、現実でこれを見るのは文音にとって初めてであった。

 朝比奈は張り2本を玄関のドアのカギ穴に突っ込むと、ガチャガチャと何かを始めた。文音はそれを静かに黙ってみていた。良明は、あたりをキョロキョロして、朝比奈に向かって「誰も来ていません。大丈夫です」と言っていた。

 そして、少ししてから、玄関の鍵が開いた。自分を、あの時守ってくれた刑事は、泥棒みたいだと、文音は感じていた。


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