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良明が相沢に従い県警に戻ると、母親の章子が署内にいた。どうやら、良明が警察に連行されたという連絡を受けてここに来たらしい。章子は良明に会うなり、突然「この馬鹿息子」とひどい形相で罵ってきた。
「まあまあ先輩。良明くんは優しい男の子じゃないですか」と相沢が章子を制止した。章子は相沢に向かって、「だから心配なの」と言い返していた。
「で、あんたは何で6年前の事件のことを捜査していたの?全部、朝比奈さんに聞いたわ」
どうやら、章子は良明がこそこそとやっていたことの大体をもう知っているらしいと、良明は悟った。
「ごめんなさい。友達に頼まれました」と良明は章子に頭を下げた。
良明はその後、こないだ蕎麦屋であった、野崎文音から相談を受けたことだと母に打ち明けた。章子は、自動販売機で買ったコーヒーを飲みながら良明の話を聞いていた。
「野崎文音。旧姓は、西沢文音であってるかしら?」
と章子がそう口にした。良明は、目を丸くして「そうだけど」と答えた。
章子は、缶の中に残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、立ち上がりそれをごみ箱に捨てた。そして、良明の元へと戻ってきながら、「西沢美夜古の妹ね」と言った。
「知ってたの?」と良明は章子に聞いた。
「知ってるも何も、私も捜査してたし」
良明は遠い記憶をたどっていった。いつ、自分の母親は警察官を辞職したのだろうか。確か、探偵事務所を始めたのは7年位前だったような気がする。そうだとしたら、自分の母親が西沢美夜古の捜査に加わるわけがないと、良明は考えた。
「そんなはずはない。母さんは、もうその時刑事じゃなかった」
「確かに、刑事じゃなかったけど、刑事じゃできないことをやっていた」
「刑事じゃできないこと?」
「朝比奈さんに頼まれたのよ。文音ちゃんを保護するから、マスコミ対策してくれって」
良明にとってそれは初耳であった。自分の実家の探偵事務所が、マスコミ対策をすることがあるのだろうか。
「捜査じゃないんじゃない?」と良明は章子に聞く。
「加害者家族を守るのも、捜査の一環よ!」と章子は語気を強めて言った。
良明は、章子にどんな手法でマスコミ対策をしたのかを聞いた。
「そうね。出版社に、福岡在住の大物作家の不倫をリークしたってところね。マスコミって、人の下衆な部分は蜜の味だから。あいつらもよっぽどだけど」と言って、章子は笑い始めた。
それにより、文音からマスコミの手は一気に引いたということであった。そして、章子の探偵事務所はそれをきっかけとして、不倫捜査の依頼が舞い込むようになった。
「それで、文音ちゃんは自分の姉が犯人だと思ってないんだ」
と章子が言った。良明はそれにうなずいた。
「でもね、6件目の孤児院から出たDNAは覆せないし…」と章子は小難しい顔をした。
「良明くん!」
突然、相沢の大きな声が署内に響き渡った。
「これ忘れ物」と相沢が言ってくれたのは、小さな包装紙に包まれた箱だった。
「今日は、付き合ってくれてありがとう!」と言って、相沢は走り去っていった。良明は、相沢がカバンにつけていたキーホルダーがやけに気になった。
「お母さん」と良明は、章子に視線を送っていった。
「手伝ってくれませんか?」
良明がそう言うと、章子は少し微笑み、良明の肩をさすりながらこう言った。
「息子の初恋のためかな。やってやるか!」




