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良明は身柄を福岡県警に移され、その場で取り調べを受けることになった。もちろん任意ということであったが、断ると反対に疑われることになりそうだったので何も言わなかった。取り調べ室に入ってきたのは、良明を無理やり連行した管理官の刑事であった。その刑事は名前を古東恒と名乗った。
「死亡推定時刻が確認された。昨日の午後7時から10時の間だ。お前その間何をやっていた?」と古東はエラそうな口調で聞いてきた。
「昨日の夜は、家にいました。母親と家の探偵事務所で働いている服田さんていう人に聞いてくれれば分かるはずです」
「そうか。でもな、家族は基本的に家族をかばうものだ。家族の証言では、アリバイにはならんのだ」
良明は心の中で面倒くさいと思ったが、内心、この古東という刑事が言っていることは正しいのではないかと感じていた。確かに、家族の証言ではあやふやな面があるものであり、家族が自分の家族をかばったり、恋人が自分の恋人をかばったりするのも人間の自然の摂理であるかもしれない。
「安心しろ」と突然、古東が少し笑みをこぼして言った。
「俺は、お前が犯人だとは思っていない。一応、立て続けに起きた殺人事件の第一発見者が2回とも君だということをほっておけないだけだ」
「それはそうですね。僕も、この偶然には驚いています」
古東は、良明に対してしばらくここにいるようにと指示を送り、取り調べ室から出て行った。
それから良明は、生まれて初めて入った取り調べ室ということもあり、室内を見渡してみた。特に何があるわけでもなかったが、古東と話している時に記録をとっていた刑事がこちらを向いて微笑んできた。それは少しだけ不気味に思えた。
少したってから、朝比奈が取り調べ室に入ってきた。入って来て早々、朝比奈は「安心しろ」と良明に対して言ってきた。良明は、目を丸くして「それ、古東さんにも言われました」とはにかみながら答えた。
「そうか、そうだろ。あの男は、お前が犯人だと思ってはいない」
「じゃあ、何で僕をここに連れてきたとですか?」と良明は少し荒々しくなって言った。すると、朝比奈は大きな声で笑いながら、「まあ、警察官としてほったらかしておけなかったんじゃないか?」と答えた。そして、朝比奈は記録をとっていた刑事に、出て行くようにと手で指示を出していた。
「あいつは、お前が高校生の時に警察にかみついてきたのを知っているからな」
「えっ?」
良明は少し驚いた。良明が、古東という男に出会ったのはこれが初めてであったからだ。
「えっ?てお前、あいつは俺と一緒に働いてたんだ。だから、俺がその時どんな仕事をしていたのかは知っている」
良明は朝比奈の言葉を聞いて少しだけ、古東が自分のことを知っているという事実が腑に落ちた。
「ところで良明くんは、何でこんなに殺人現場に遭遇するんだ?」と朝比奈が唐突にそう聞いてきた。それは、今一番良明が気になっていることであった。良明は、両手を大きく広げて、「それは僕が聞きたいですよ」と答えた。
「誰かに、西浦の自宅に行くとか言ったか?」
「いや、知っているのは、朝比奈さんと相沢さんのはずです」
「そっかぁ…」と朝比奈は頭を抱えて悩むそぶりを見せていた。
良明には朝比奈に言っておきたいことがあった。それは現場で見た遺体の違和感であった。うつ伏せになって倒れていたのに、右手の手のひらや袖口に血がついていなかったことだ。
「朝比奈さん。僕は犯人が2人居ると思います」と良明は朝比奈に自分の意見を言ってみた。
「どうして?」
「血で染まった床に、西浦さんは手のひらをつけていたはずなのに、手が血で染まっていなかったんです。それって、可笑しくないですか?」
良明がそう伝えると、朝比奈は少しだけ間を置き、「確かにおかしいな…」と言った。そして、「うん。確かに血がついていなければいけないところに、血がついていなかった」と朝比奈は言った。
「ここからは、僕の推測なんですが…」と良明が言う。
「犯人Aがまず、西浦さんを前方から殴って殺害。おそらくその時、仰向けになって西浦さんは倒れていたと思います」
「なぜなら、手の甲には血がついていたからか」と朝比奈が答えた。
「おそらく、立って殴ると前に倒れるはずなので、犯人A は、マウントポジションから2、3発殴ってます」
「それから?」
「そして、床に血が飛び散ったのですが、その血が乾いたときに、西沢美夜古が犯した事件の現場写真を拝見したことがある犯人Bが登場し、死体をその通りに動かして、右手に紙を握らせた」
良明が話し終わると、朝比奈はゆっくりと良明の方に歩いて来て、良明の肩に触れてこう言った。
「さすがだ。君の言うことに、反論する余地はない」




