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良明は、自宅に戻るとすぐに服田の元へと向かった。自殺した高校生の山西徹也について、母親のかおるに報告書を渡す期限が迫っていたのだ。しかし、この自殺の件と6年前の西沢美夜古の事件につながりが見えてきたことで、さらに捜査は難航していた。
「結局、遺書については分からないままだ」と服田は、煙草をふかしながらつぶやいた。
徹也は、死ぬ間際に遺書を自分の勉強机の上に書き残していた。筆跡鑑定でも、徹也本人のものに違いないという鑑定結果が出ていた。
「どうしますか?捜査の延長ですか?」
「そうだな。それがベストだが…、ここは、6年前のことを抜きにして考えようと思う」
そう言った服田は、しばらく間を置き、「自殺が濃厚だな…」と小さな声で言った。
それを聞いた良明は勢いよく立ち上がった。そして、「ちょっと待ってください!」と叫んだ。
「じゃあ、屋上の壁の内側にあった徹也くんの指紋は?自殺ならなぜ、足から落ちてなかったのでしょうか?状況証拠だけ見ると、自殺を断定するものは遺書しかないんですよ」
良明は、自分自身でも分かるほど興奮していた。
無理もなかった。最初に現場へ行った時から、山西徹也は自殺でないと思い込んでいたからだ。
「捜査延長はしない…。それで行く」
服田はそう言い残して、席を立とうとした。それを見た良明は、「ちょっと待ってください」と言い、服田を止めた。
「自殺するわけがないと言っている母親に、やっぱり自殺でしたと伝えるんですか?」
と良明が言うと、服田が振り返りこう述べた。
「じゃあ、お前なんだ?自殺じゃない、殺人かもしれないって言うのか?あの母親に。人に殺されるほど恨まれるような人間だったて、思わせるのか?」
「それは…」
「それとも、事故か?母親に、私の不注意で死なせたって思わせるのか?どんな真実だって、子どもを亡くした親は、自分を責める。辛いんだよ」
良明は服田の言葉を聞いた後、そのまま椅子に座り込んでうつむいた。何も言い返せなかったが、心の中で服田の言っていることは違うという思いがこみ上げていた。
「それでも、真実を突き止めなくていいという理由にならない。傷つく覚悟はできているから、かおるさんはここに来たんだ」
「傷つく覚悟?」
自分が今、一番大切に思っている人もそうだから、という言葉が、口から出そうになっていた。文音も、傷つくことを覚悟して姉の捜査を依頼していたのだ。ずっと、あの優しかった姉が、5人もの人を無惨に殺すわけがないと信じて生きてきたのだ。
しかし、本当に美夜古が5人を殺害していたら、文音は本当に傷つくことになる。いや、服田が言ったように美夜古が殺人を犯してなくても、冤罪で死刑になったということで、警察を恨み、姉を恨み、傷つくであろう。傷つくことは覚悟しているのだ。良明はそう感じていた。
「服田さん」
「何だ?」
「山西徹也くんは、自分が長い年月を過ごした孤児院がつぶされようとしている都市開発計画をつぶそうと調べている時に、6年前の西沢美夜古の事件にたどり着いた。しかし、6年前の事件を調べると、不審な点があった。美夜古は犯人じゃない、形跡とか…」
良明がそう話していると、服田が良明の近くまで歩いてきた。
「おい、別の犯人がいるというのか?」
服田の言葉に良明がうなずいた。
「徹也くんは、真犯人を知ってしまったため、その人に殺害されたとか…」
と良明が言うと、服田は大きな声で笑い始めた。そして、良明の肩に手をのせてこう言った。
「お前、話が飛躍しすぎだ。確かに、俺もあの事件、当時は追ってて、美夜古1人ではどうかと思うこともあったけど、お前の話はぶっ飛んでる」
確かに、自分の話はぶっ飛んでいると良明は思っていた。地道な証拠を基に、こう言った考察は立てられていくのに、良明がさっき述べたことは、証拠を無視したただの洞察に過ぎなかった。




