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姉の美夜古は、やはり冤罪で死刑になったのだろうか。それなら何故、美夜古は自分が殺したなどと嘘の自白をし、わざわざ処刑台に送られるような行為を働いたのか。
「じゃあ、お姉ちゃんは、冤罪なんですか?」と文音は朝比奈に尋ねた。
「いや…」と朝比奈は答えた。
「それでも、時田和夫の遺体から検出されたDNAは絶対的なものだ。また、貯金通帳への金の受け流しは否定できない証拠だ」
「ならば、時田康夫さんに話しを」と文音はすがる思いでこう言った。
「ダメだ!」と朝比奈は素早く文音の言葉を否定する。
文音は思わず涙ながらに「どうして?」と朝比奈に詰め寄った。
「時田康夫は、4年前から行方不明だ」
文音は、刑事である相沢からの情報でも、何もできないということを悟った。悔しかった。ただ悔しかった。良明を見ると、良明も悔しそうに握りこぶしを作り、何度も床に手を打ち付けていた。
「良明くん。ダメ」と文音は思わず良明の行動を制御しようとした。
「ありがとう」
しかし、文音は何とかして真実が知りたいと思った。姉は死んだ。しかし、本当の殺人犯として死んだのか、それとも誰かをかばって死んだのかでは訳が違うと考えていた。
「文音ちゃん。もし、お姉さんが冤罪だとしたら、警察として」
「許しませんよ」と文音は朝比奈の言葉を遮った。
良明が文音の肩を抱いてきた。沈黙の中、時計の針が動く音だけが部屋中にこだました。
「でも、姉のことはもっと許せませんから…」
姉は、自分を苦しめた。自分の親を苦しめた。自分の人生をめちゃくちゃにした。そんな思いが、文音の心にあふれ出していた。
それからしばらくの間、文音は思いっきり泣いた。涙が枯れてもいいと思っていた。1時間くらい経って、文音が泣き止むと、良明は服田さんに呼び出されたと言い、文音の部屋を後にした。
朝比奈が少しの間いてくれると言ったので、文音は少し安心した。警察への恨みはあったが、再び捜査をしている朝比奈個人への恨みや相沢さんへの恨みはあまりなかった。
「朝比奈さん。良明くんとは、高校生の時の事件のときに知り合ってたと言ってましたが、どういう関係なんですか?」
文音は、朝比奈が気まずくならないように知らずのうちに気を使っていた。とりあえず、前々から気になっていたことを聞いてみた。
「良明くんか…。良明くんは、父親と離婚した母親のことがとりあえず嫌いな少年で、母親を困らせようと、万引きに、喧嘩を繰り返していた問題少年だったんだよ」
「良明くんが?」
文音にとって、それは意外なことであった。良明は一見お調子者の、真面目人間に見えてきたからだ。
「友達も少なくてな、でもクラスメイトだけは絶対に守ってやると言わんばかりで、正義感だけは強かった…」
「そうなんですか?」
正義感が強い。それは文音も納得した。
「母親譲りの、鋭い洞察力があって、よその不良にクラスメイトが金を奪われてたりすると、徹底的に調べ上げ、そいつらと喧嘩をした」
「へ~。でも、そんな人好きです」
文音がそう言うと、朝比奈はクスクスと笑っていた。
「あいつが、ボコボコにされて倒れていたのを、俺が見つけたんだ。それからも、何度か補導されていて、県警まで来たことあったけど、俺はあいつの正義感に付け込んで言った。母親を超える警察官になれって」
朝比奈は、文音自身の人生に大きな影響を及ぼした人間であった。しかし、良明の人生にも大きな人生を及ぼした人間であったことを文音は知った。
「それから、良明くんのクラスメイトが殺人事件を犯した事件があって、その犯人の家族や弟も学校でいじめられた」
「高校生の時の事件?」
文音の言葉に、朝比奈はうなずいた。
「そんな奴じゃないと良明は思ってたらしくて、動機を調べ上げたんだ」
「それから?」
「そのクラスメイトは、犯罪は犯していたが、少しは良明くんのおかげで、名誉を回復したよ」
文音は、初めて良明の過去を知ることができた。そして、改めて久米良明という人間と出会えて、よかったと感じた。




