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文音は、西沢美夜古を模倣した事件が起きてから3日後、自宅に戻ることができた。松島先生には、美夜古のことを調べるのは程々にするようにと言われていたが、はっきりダメとは言われなかった。
帰って早々、良明から電話が掛かってきた。今から文音の自宅にお邪魔するという趣旨の連絡であった。文音は急いで身だしなみを整えないとと考え、お風呂に入り髪を洗った。あれから文音は、お風呂というものに入っていなかったので、シャンプーの泡はすぐになくなっていた。
お風呂から出た後文音は、お化粧をしようかと鏡の前に座ったが、良明の前ではスッピンのままの方がいいのではないかと考え、そのままにしておいた。
そうこうしているうちに、自宅のインターホンが鳴らされた。文音は急いで玄関に向かう、ドアを開けると笑顔の良明が顔をのぞかせた。
「おっす!元気か?」
「なんとか。入って」と文音は良明を招き入れようとした。
「文音ちゃん。こんにちは」
良明の背後から男性の声が聞こえた。文音が良明の後ろの方向に目をやると、そこには朝比奈の姿があった。
「朝比奈さん。こんにちは」と文音は急いで頭を下げた。
「ははは…。そんなに謙遜しなくても」と朝比奈は少し戸惑った様子で言った。
文音は少しだけがっかりしていた。良明1人だけではなかったからだ。朝比奈は、道中でばったりと良明に会い、文音のことが心配でついてきたと話していた。文音は少しがっかりとしつつも、朝比奈に対してはちょっとだけありがたいと感じていた。
文音は、2人を部屋に案内すると、「座っててください」と2人をリビングに座らせ、コーヒーメーカーにスイッチを入れた。朝比奈は、「文音ちゃんのコーヒーが飲めるなんて、最高だね」と口にしていた。
「実はね、文音ちゃん。6年前の事件のことなんだけど、ずっと調べててね、美夜古さん以外に怪しい人間がいたんだ」と良明が唐突にそう言った。文音は、無条件反射的に良明の方に目をやった。
「誰?誰なの?」と文音は良明の前に歩いていき座った。
良明は朝比奈と目配せをして、こう話し始めた。
「5件目の事件の被害者である時田和夫の兄だ」
「時田和夫のお兄さん?」
文音は時田和夫について、孤児院の施設長だということを聞いていた。しかし、この時田に兄弟がいたことは初耳である。美夜古の裁判時、時田の遺族は奥さんと年老いた両親しか来ていなかったはずである。自分が殺したから来ていなかったのであろうか。
「実は…」良明はそう言いながら立ち、カーテンを開けて、外に見えるマンションに向かい指をさした。
「あのマンションで起きた高校生の自殺事件と6年前の事件が、偶然でもないつながりを見せているんだ…。それで今日、相沢さんがすごいことを言い出してね」と良明は述べる。
「つながりって?」と文音は思わず聞き返した。
「都市開発だよ。最近計画されてるって聞いてない?」
良明の言葉に、文音は大きくうなずいた。
「その都市計画は、6年前にも計画されていたんだ」
文音は、少し遠い記憶を呼び起こしていた。確か、ファミレスでバイトしている時に客の話し声から、6年前の都市計画が廃止になったという内容が聞こえてきた。
「それ知っているような気がする…」と文音は良明に言った。
「実は、その都市計画はめちゃくちゃだった。孤児院や保育園、それから小さな病院にまでも立ち退きを迫っていた」
文音はそこまで聞くと、よく訳が分からなくなって、「良明くん。その都市計画とお姉ちゃんの事件がどうつながるの?」と尋ねた。
良明は、「たくさん伝えないといけないことがあるからな…」と困った表情をしていた。良明はしばらく考えた後、「美夜古さんは、時田和夫の孤児院でボランティアをしていた」と言ってきた。
それは文音が全く聞いたことがない情報であった。確かに、美夜古はとても優しく子どもも大好きだった。小学校の教員免許も取得していたはずだ。
「その孤児院は、都市開発でつぶれるはずだったんでしょ?」と文音は良明に尋ねる。すると、良明は「その案を計画したのは、施設長の時田和夫だ」と言った。
「自分の孤児院なのに?」と文音は疑問を感じ、良明に詰め寄った。しかし、良明は首を何度も横に振り、「相沢さんの調べによると、あの孤児院を作ったのは時田和夫じゃない。兄の時田康夫だ」と言い放った。そしてこう続けた。
「元々、弟は大企業の社長でね、豊かな財力で孤児院経営を兄から奪った。そして、自分の私利私欲のために大地主と株式会社コレックスという企業と結びつき、都市開発計画を立てたんだ」
しばらくの沈黙の後、朝比奈がこう言い放った。
「つまり、時田和夫の兄康夫には、自分が作った孤児院をつぶそうとした5人を殺害する動機があったということになる」




