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「動機を持っている人って…?」と文音は朝比奈に向けて言った。朝比奈は、持っていたカバンの中から分厚い資料を取り出すと何ページかめくり、こう話し始めた。
「江川聡は、半年前から家族と別居状態にある。原因は、江川の仕事が忙しいことにあるとされているが、本当の理由は妻の不倫だ」
つまり動機というのは、妻が早く不倫相手と一緒になりたかったから殺したというのであろうかと文音は考えた。
「つまり、その妻がやったと?」と良明が朝比奈に尋ねる。しかし、朝比奈は首を横に振った。そして、「今回は、女1人の犯行では無理だ」と言った。
「江川は大学生のとき、空手でインターハイに出てる。強さが違うんだよ。女1人では無理なんだ」
朝比奈の言葉に、良明がうなずいた。文音も納得できる朝比奈の説明であった。そして、文音はその時にひらめいたことを朝比奈に言ってみた。
「江川さんの奥さんの不倫相手が殺したってことは?」
その時、朝比奈がいきなり文音を指差してきた。そして、「なんだ、文音ちゃん鋭いな」と感心したかのような声を上げる。
それから、朝比奈は自分で勝手にシミュレーションしてみたという筋書きを話し始めた。まず、不倫相手の男が江川の自宅に押し入り、首を後ろから絞めて殺害。そして、その遺体を車で移動させて、西沢美夜古が最初に犯した殺人の現場に吊るした。
それを聞いていた良明は首をかしげながら話し始めた。
「朝比奈さん。まず分かる点として、車で移動させたというのは一理あります。わざわざ、6年前の事件の現場で遺体を発見させるように仕向けたんですから、長距離移動できるものを持っていたと理解できるでしょう。しかし、5年前に現場を見たことがない奥さんの不倫相手に、あの現場が完全再現できるでしょうか?」
良明が言ったことは、文音にも納得できることだ。先ほど、ファミレスでも話していたが、昨日見た現場は6年前を完全に再現していた。そんなことできるのは、6年前の事件を知っている人しかできないことである。
「ええい!そんなことわかっとるわい」と朝比奈は良明に向かって声を荒げた。
「もう殺人事件の話はいい加減にしてください」と松島先生が急に強めの声を出した。長時間にわたり、殺人という残酷な話をしていた文音たちを見かねたのだろうか。
「ここは、カウンセリングをする病院なんです。殺人事件の話をされたら困ります」
松島先生はそう言うと、文音の方に歩いて来て、文音は腕をつかまれた。
「この子は、殺人にトラウマを抱えています。でも、姉への呪縛から、犯罪者の妹と言う責任感から、なぜか人の死に向かっていくのです。お願いだから、あまり巻き込まないでください」
松島先生の言葉に、朝比奈は「そうだよな」と言い、右手を上げて松島先生に軽く会釈をした。
そのまま、良明と朝比奈はクリニックを後にし、文音は松島先生のカウンセリングを少し受けた後、今日1日病院に寝泊まりすることになった。




